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東鳴子温泉「旅館大沼」の湯守・大沼伸治さんに聞く「現代湯治」のススメ

前回、宮城県・東鳴子温泉「旅館大沼」に宿泊した温泉マニアのライター・ミワ&ミホ。その宿で五代目湯守を務める大沼伸治さんが提唱しているのが「現代湯治」です。ストレスフルな現代人にこそすすめたいという「現代湯治」とは、どんなものなのでしょうか? そして「湯治」の真髄とは?ミワ&ミホが話を伺いました。

東鳴子温泉「旅館大沼」_「母里の湯」

↑旅館大沼の貸切庭園露天風呂「母里(もり)の湯」

 

 

東鳴子温泉_旅館「大沼」の大沼伸治さん

大沼伸治さん
鳴子温泉郷・東鳴子で百年以上にわたり湯治宿を営む「旅館大沼」の五代目湯守。立教大学・観光学科卒業。「現代湯治」を提唱し、普及にあたる。

「湯治」とは、余計なことを何もせずただひたすら温泉に入ること

 

ミホ 今回「旅館大沼」で湯治をして、私たち、ますます温泉愛が深まったわよね〜。

 

ミワ 本当に! 「旅館大沼」だけで8つもお風呂があるし、鳴子温泉の湯巡りもしたし、こんなに温泉三昧をしたのは初めてかも。

 

ミホ 「旅館大沼」の湯守である大沼さんは、「現代湯治」を提唱されていますよね。今日は、大沼さんの考える「現代湯治」や、「湯治」の真髄について、ぜひお話を伺えればと。

 

大沼さん(以下、敬称略) まず、知っていただきたいのが、「湯治」は観光旅行とは違うということです。多くの人は「温泉に行く」というと、どこで何を食べて、どこの観光地に行って…と、あれこれ予定を詰め込みますよね。でも「湯治」は、余計なことは何もせず、ひたすら温泉に入ってボ〜ッとして自分を整えることなんです。

 

ミホ 確かに、温泉旅行に行くと、あれもしなきゃ、これもしなきゃって欲張りになって、ついせわしなく過ごしてしまっていたかも…。

 

ミワ せっかくその土地に来たんだから、できることをすべてやって帰ろうと思ってしまうわよね〜。でも今回、2泊3日の湯治をしてみて、初めてゆっくり過ごすことのよさがわかった気がします。

↑湯守の大沼伸治さん。大沼さんの人柄を慕って、ここに通う人も多い。

 

大沼 最近、「タイパ」という言葉が流行っていますが、現代人はその時間内にいかに効率よくいろいろなことをするかばかりを考えて、「何もしないこと」は「もったいないこと」と捉えがちですよね。だから、休むつもりで旅行に出たのに、結局忙しく過ごしてしまい、疲れて家に帰って、「やっぱり我が家がいちばん」となってしまうんです。

 

ミホ そのセリフ、日本人の旅行の締めの定番ですね(笑)

 

大沼 でもそれでは、いつまでたっても疲れが取れません。特に現代人は、ストレスフルでメンタルの疲れを抱えている人がたくさんいます。そんな人こそ、ただひたすら温泉に入るだけの湯治をしていただきたい。湯治ほど「タイパ」が悪いものはないんですが、その何もしない時間こそが、実は最も尊くて最高の贅沢です。ただ温泉に入って、自然の中に身を委ねて、川のせせらぎや滝の音、鳥の囀りに耳を澄ましたり、木々や空を眺めたり。その何もしない時間に、温泉の効果で、実は心身にとんでもなくいろいろなことが起きているんです。

 

ミワ 確かに何もしないことって大事ですね。温泉に入る以外のことをあれこれしていると、血流もそっちに取られちゃったりして、温泉の効果が半減しちゃいますよね。

 

ミホ 現代人は、スマホ中毒の人も多いけれど、温泉に入っているときはスマホも手放さないといけない。だから自ずと、自然や自分に向き合うことになりますよね。

東鳴子温泉_旅館「大沼」の「薬師千人風呂」

↑旅館大沼の「薬師千人風呂」

湯治は、その土地ならではの地球の循環水に身を委ねて、自分を取り戻す時間

 

ミワ 今回の湯治で、温泉の泉質そのものを堪能する楽しさも改めて感じたわよね、ミホさん。

 

ミホ そうそう。温泉施設というと、建物や内装や食事に凝ったりとか、温泉以外の付加価値をつけている宿が多いけれど、今回ここで湯治をして、やはり温泉宿で大事なのはお湯そのものだなと感じたわよね。

 

大沼 まさに大事なのはそこなんです。この前、とある地方の森へリトリートに行ったとき、森自体はとてもよい環境だったんですが、近くの温泉施設の温泉が、塩素の匂いが強くてちょっと残念でした。せっかく来たのに、温泉でなく薬品に浸かっているようなものだなと思って…。あがり湯に、水道水のシャワーで体を流したときに逆にホッとしたという(笑)。これでは温泉本来の良さが失われているなと思いました。

 

ミワ 確かに、こういうご時世だからしょうがないとはいえ、最近、塩素消毒している温泉、多いですもんね。

 

大沼 設備や食事やサービスにこだわることももちろん大切ですが、そのせいで温泉が脇役になっていることも多いようで。温泉自体がダメだったら本末転倒です。昔は、温泉に立派な建物などなくて、人々が日頃の疲れを癒すため、シンプルに温泉そのものの力を求めて入っていたんです。最近は、そんな昔ながらの温泉文化が失われているなという危機感があります。

 

ミホ 塩素が入った温泉にしか入ったことがないと、本物の温泉との違いってわからないかもしれないですね。1度でも本物の温泉に入ると、お湯の質感も体や心への効果も全然違うことを体感できるんですけどね〜。

 

大沼 やはり、温泉に行くからには、本物の温泉に入っていただきたい。温泉は、その土地でしか湧かないオリジナルの地球の循環水です。土地が違えばお湯も違って、ひとつとして同じものはありません。そのお湯を、薬品などを加えずにそのまま提供することが、湯守である私たちの使命で、それこそが価値あることだと思っているんです。自然の一部である人間が温泉に浸かることで、自然とひとつになって、自分を取り戻す。そんな日本が世界に誇る温泉文化を、見直さないともったいない。

 

ミワ 本当にそうですね。私は温泉は、毛穴から飲む栄養ドリンクだと思ってるんです。

 

大沼 そうですよね、地球が生み出した天然の美容液とも言えます。しかも地球が生み出す熱で自分を温めるんですから、湯治ってすごいことなんです。現代にはいろいろな健康法がありますが、温泉は何の教義やメソッドもなく、服を脱いでただ浸かるだけ。それで健康になれるなんて、こんなにお得なことはありません。温泉に浸かっているときは、何も考えず「無」になれる、まさに「マインドフルネス」な時間。お湯を信頼して、自分を預けて、お湯と対話していただきたいですね。

鳴子温泉_旅館「大沼」

↑旅館大沼「天女風呂」の効能の解説文

違う泉質の温泉をはしごする「重ね湯」なら相乗効果も!

 

ミワ 今回の旅では、いくつもの違う泉質の温泉に入れたのも楽しかったです。

 

大沼 当宿によくお越しいただく温泉ビューティ研究家の石井宏子さんによると、そういうのを「重ね湯」と言うそうです。たとえば、おふたりは昨日、鳴子温泉の「滝の湯」に入って、その後でここの「母里(もり)の湯」に入りましたよね。「滝の湯」は強酸性の硫黄泉で、「母里の湯」は中性の含食塩重曹泉。pHも泉質もまったく違う温泉です。この2つの重ね湯で何が起こったかというと、殺菌作用のある強酸性の硫黄泉で肌の老廃物が落とされ、含食塩重曹泉のコーティング効果で保湿されたのです。だから、肌がしっとりツルツルになったでしょう?

 

ミホ 確かに私、肌が弱いので硫黄泉にあまり長く入ると肌が荒れちゃうんですけど、その後で「母里の湯」に浸かったから、肌がしっとりしました! まさに天然のエステですね!

 

大沼 石井宏子さんは温泉のことを「地球の煎じ薬」とも呼んでおられましたが、重ね湯は、まったく種類の違う2つの地球の煎じ薬を頓服として飲んだようなものですよね。鳴子温泉の良さは、すべての温泉が源泉掛け流しで、ヨウ素泉、放射能泉以外はほぼ出るところです。だから、重ね湯が楽しめるんです。

 

ミワ なるほど、重ね湯、いいですね! 漢方薬みたいに、「この泉質とこの泉質を組み合わせると、こういう効能が得られる」的な、処方箋みたいなものを作っても面白いかも!

 

ミホ 面白そう!定期的に湯治に来て、重ね湯したいです〜!

鳴子温泉_旅館「大沼」の部屋

↑旅館大沼の湯治用の部屋

 

2泊3日、食事付きもOKだから誰でも気軽にトライできる「現代湯治」

 

大沼 湯治の魅力は、「転地」にもあります。日常の喧騒から離れて、自然の中で過ごすと、気持ちも考え方も行動も変わります。ですからリフレッシュ効果が高いのです。日本には約3000カ所も温泉があるので、ぜひ足を運んでいただきたいですね。

 

ミワ 湯治というとハードルが高く感じる人もいるかもしれないけれど、今回、私たちが選んだような2泊3日のプランなら気軽に湯治ができていいですね。

 

大沼 本来、湯治は自炊しながら長期滞在をして疲れを取ったり、心身の不調を癒したりするものでしたが、そんな古来からの湯治スタイルは忙しい現代人に合わなくなってきました。ですから、「旅館大沼」では、自炊をせずに食事付きも選べる、2泊3日からの「現代湯治」を提唱しているのです。1泊2日の旅だと、どうしてもタスクをこなす旅になってしまいますが、もう1泊あると思うと気持ち的にもゆったりしますよね。転地をして非日常空間でゆったり温泉に入るだけでも、十分に湯治効果は得られます。ですからもっとみなさんに気軽に湯治をしていただきたいです。ワーケーションもできるので、1週間ほどワーケーションをされるお客様もいます。そういうスタイルも「現代湯治」のひとつですよね。

 

ミホ 湯治しながらのワーケーション、憧れます〜。私たちの世代になると、つい設備や食事やサービス重視で温泉宿を選びがちだけれど、不調が起きやすいこの世代だからこそ、お湯重視の「湯治」をすすめたいわね、ミワさん。

 

ミワ 湯治は、素晴らしい日本の文化。それを守るべく、私たちもこれから毎年、湯治しましょうね!

 

百年ゆ宿 旅館大沼
〒989-6811 宮城県大崎市鳴子温泉字赤湯34番地
Tel:0229-83-3052

 

取材・文/和田美穂

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