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南部アフリカ3カ国 サファリと風景を愛でる旅《後編》

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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さて、南部アフリカの旅《後編》です。

 

《前編》ではボツワナ共和国のチョベ国立公園でサファリを楽しんできましたが、そこから再度国境を越え、ジンバブエという国にやってきました。まずは溪谷の眺めが素晴らしいレストラン「ザ・ルックアウト・カフェ」でランチをいただきました。

ここではオーストリッチ(ダチョウ!)を食べました。少し固いが、特にくさみもくせもなく食べやすいお肉です。感覚としては、鶏肉と牛肉の間くらいかな。

野菜たっぷり、キヌアとオリーブも添えられたサラダ仕立てで食べやすかったです。

デザートがまた素敵。バオバブの実で風味をつけたムースです。

少し酸味があるけれど、ほんのり甘い優しいお味。

 

ところでバオバブとはこんな木です。こちらは近くにあった有名な巨木。サバンナ地帯に分布し、大きく育つことが特徴です。アフリカ諸国では、果実を食用として利用します。

 

さて、ここで今いるジンバブエという国について少し説明しておきましょう。

首都はハラレ。しかしやはりここも、一般的な観光客が行くことはあまりありません。ダイヤモンドをはじめとする鉱物資源に恵まれているものの、政治的問題などにより経済は厳しい状態で、お隣のボツワナ共和国や南アフリカ共和国と比較するとかなりGDPが低いようです。

ハイパーインフレでも有名で、一時期は、何百億ジンバブエドルというような紙幣も出回りました。

そんなジンバブエのもっとも大切な観光資源が、このヴィクトリア・フォールズです。ザンベジ川中流にある巨大な滝で、幅約2キロ、落差108m。ナイアガラの滝、イグアスの滝と並んで「世界三大瀑布」に数えられます。

実際に目の当たりにすると、聞きしに勝る大迫力です。この滝は国境でもあり、対岸はザンビアという国です。ザンビア川にも遊歩道がありますが、今回は、ジンバブエ側の遊歩道を歩いて、いろいろな場所から滝を眺めました。

水煙が上がり、あちこちに虹がかかっています。風向きによっては大量の水が飛ばされてくるので、雨がっぱの用意などをしておいたほうがよいようです。

 

翌朝には、ヘリコプターに乗って空からヴィクトリア・フォールズを眺めました。15分ほどのフライトですが、滝と周辺のサバンナの様子がよく見えて素晴らしい体験でした。

すごい! 地球の割れ目です。この滝が形成されたのは約250万年前。

ザベンジ川が土地の隆起によって流れを変えたことによって、玄武岩の大地が削れ、このような地形が生まれたとのこと。今も浸食によって後退が続いていて、遠い将来には違う形になるそうです。

 

ヴィクトリアの滝観光後は飛行機にのって南アフリカ共和国のヨハネスブルグへ。数日前にも空港前のホテルで一泊しましたが、サファリを終えて再び行くと、あまりの都会ぶりに驚きます。

 

ホテルは美しい市街地にある54オンザバス。バスというのは通りの名前です。たいへんおしゃれなブティックホテルで、ロビーの内装もパリやロンドンの高級ホテルのようです。ピアニストさんが歓迎のあいさつをしてくれました。

 

南アフリカ共和国、特にヨハネスブルグやケープタウンなどの都会は治安がよくないことで有名です。首絞め強盗も多いとのことで、街を一人歩きするのは絶対にやめた方がいいようです。

 

しかしこのホテルの隣は大きなショッピングモールで、外に出なくても、2階から通路を渡っていけるようになっていました。ちょっと覗いてみると、他の国のショッピングモールと変わらないきれいな店が並び、おしゃれをした若い人々が買い物を楽しんでいました。日本で言えば蔦屋書店のようなカフェを併設した本屋さんもありました。

 

この写真の棚には、日本の漫画やアニメ関係の本がぎっしり並んでいます。「世界一恐い国」というような話も聞いていましたが、少なくともここには普通の生活があるように見えました。しかし、周辺の瀟洒な住宅は高い塀に囲まれ、電気を通した鉄線が張り巡らされています。この街では、安全な場所とそうでない場所がきっちり分かれているようです。

その晩はちょっと趣向を変えて、和食のお店に行きました。ヨハネスブルグには、他の大都市と同じように、和食だけでなく、中華料理、韓国料理、イタリアン、フレンチなどさまざまな料理のレストランがあります。

 

こちらの店は20年以上も営業している老舗だそうです。いろいろなおかずがぎっしり詰まったお弁当は、海外によくある「なんちゃって和食」ではなく、普通に美味しくいただきました。

 

翌朝のホテルの朝食も大変すばらしいものでした。ビュッフェコーナーに並んでいるものが全部美味しそう。

注文して作ってもらったアボカド・トーストも最高でした。

半熟卵、チョリソーなどが添えられています。こんなところで優雅に朝食を食べていると、この国が抱えている問題をつい忘れそうになってしまうのですが…。

その後訪れたソウェトというエリアで、そんな空気は一変。この国は、アパルトヘイトという苦難の歴史を乗り越え、今も厳しい状態にあります。

 

ここでわたしは、そのほんの一端を垣間見ることになったのです。ソウェト(Soweto)とは South Western Townships(南西居住地区)の略。Townshipsとは、アパルトヘイト時代に黒人専用の居住区として指定された場所で、その中でも最大の地域がここソウェトです。20世紀のはじめ、ヨハネスブルグの金鉱を目指して移民が多くやってきてこの地に住んだのが始まりで、のちに反アパルトヘイト運動の象徴のような場所になりました。昔は貧しい黒人が住む場所でしたが、現在は人種に関係なく出入りも住むのも自由になり、「ソウェトのビバリーヒルズ」と呼ばれる立派な家が立ち並ぶエリアもあれば、トタン屋根のバラックが隙間なく並ぶエリアもあります。

 

この写真の真ん中あたりに見えているのは、使われなくなった発電所の排気塔です。今はアート風の広告が描かれており、オーランドタワーズと呼ばれるソウェトのランドマークです。

 

まずは「ヘクター・ピーターソン博物館」に行きました。ヘクター・ピーターソンとは、1976年にこの地で起きた「ソウェト蜂起」という事件で最初の犠牲者となった13歳の少年の名前です。この写真の中で年かさの少年に抱きかかえられているのがヘクターで、隣で泣いている女の子はヘクターのお姉さん。博物館内にはソウェト蜂起がどのような経緯で起き、どんな結果を招いたかがわかる映像などが多数展示され、悲惨さが胸に迫ってきます。

 

はじまりは教育で使われる言語に対する抗議から始まった学生たちの平和的デモだったのに、何かのきっかけで衝突が始まり、警察は無差別に発砲。数日間で176人もの死者と1000人を超える負傷者を出し、その多くはヘクターのような子供や年若い人々でした。この事件が世界中に報道されることにより、アパルトヘイトを非難する世論が高まりました。

 

こちらはマンデラ・ハウス。長年反アパルトヘイトを続け、ついには撤廃へと導いたネルソン・マンデラ氏が14年間過ごした家です。マンデラさんの功績はもちろん偉大ですが、撤廃されたからと言って、アパルトヘイトが残した傷跡がこの国から消えたわけではありません。所得格差は世界でもっとも大きく、失業率は40%を超えています。ヨハネスブルグで犯罪が多発するのはそのためです。ここソウェトのような観光地化されたところでも、案内人をつけてのツアー以外では立ち入らないようにとのことですが、時間が許せばぜひ訪れておきたい場所です。

 

わたしも今回、来ることができて本当に良かったと思います。お気楽にあちこち旅をしているわたしなどの想像も及ばない現実がここにあり、その中で今も闘い続ける人々について多少なりとも知ることができたからです。世界はまだまだ知らないことに満ちています。

 

そして最後の訪問地、人気観光地のケープタウンまで飛行機で移動。

この街にもヨハネスブルグ同様に治安の悪い地域はたくさんあるのですが、そんな現実とはまるで雰囲気を異にするウォーターフロントと呼ばれる観光エリアに到着。その中心的な豪華ホテル「ザ・テーブルベイ」にチェックインしました。

 

ケープタウンのランドマーク、テーブルマウンテンの絶景がお部屋から見えます。

しかし、滞在中はお天気がイマイチ。山頂には、まるでテーブルクロスを掛けるように雲がかかっていました。

 

こちらの朝食ビュッフェはすごいですよ。

朝から生ガキとシャンパンやワインが並んでいます。

 

さてお出かけです。

テーブルマウンテンには山頂行きのケーブルカーがあり、それに乗って登れば大絶景が望めるのですが、悪天候のため運航停止です。

残念…。

引き続き、ステレンボッシュというところに向かいました。そこにはかわいらしい町があり、なんと、普通に散歩してよいと言われました。大都市と違って犯罪に遭う危険が少ないようです。教会やアートギャラリー、カフェや民芸ショップも並ぶしゃれた街並み。大学もあり、外から眺めていると、通りすがりの学生さんがドアを開けて「どうぞ見学してください」と言ってくれました。

 

この写真はその大学内部のサロンのようなところです。都会ではどこの家も高い塀に鉄条網を張り巡らせていましたが、同じ国なのに、どこの誰ともわからない人間をこんなに簡単に招き入れてくれる場所もあるとは驚きです。南アフリカ共和国は、実にさまざまな側面を持つ国です。

もっと驚いたのはこちらです。まるでフランスの美しい田舎に来たみたい。ここは、ステレンボッシュの町からほど近い「ブラーウクリッペン」というワイナリー。

 

わたしはほとんど飲めないのでわからないのですが、南アフリカ産のワインは手ごろなお値段でありながら高級ワインにひけを取らない味で人気が高く、ステレンボッシュはその産地のひとつなのです。

ワイン作りの工程を一通り見学し、こんな素敵なお部屋でワインの試飲をさせていただきます。飲めないわたしでも「あれ? 美味しいかも」と思うワインの数々でした。

 

ランチもこちらでいただきました。お料理も、どれもこれもすごく美味しかった。

この写真はキノコクリームソースのコロッケです。ここに来てようやく気がついたのですが、この国のお料理のレベルはかなり高いです。それは農産物や肉などの食材が美味しいためかも知れません。

 

ケープタウンに戻り、テーブルマウンテンの麓にあるカーステンボッシュ植物園へ。

こちらは世界で唯一の世界遺産に指定された植物園で、アフリカ原産の珍しい植物をたくさん見ることができます。これは南アフリカの国花、プロテアという花です。

 

さて最終日、ケープタウン近郊の景勝地、ケープ半島に向かいました。

このあたりは絶景の海岸線が続き、世界の富裕層の別荘が立ち並んでいるほどなのですが、この日も天気が悪くてよく見えないのでした。残念…。

 

悪天候の中、アフリカ半島南端の喜望峰とその手前のケープポイントにはなんとか到達。

記念の賞状をいただきました。

ボールダーズビーチでたくさんのケープペンギンにも会えました。

ここのペンギンたちは保護されているためか、毎日大勢の人間が見に来ても、恐れることなくのんびり暮らしているようです。

 

最後にもうひとつお伝えしておきたいことがあります。

この国は魚料理もおいしいです。

ボールダーズビーチ近くのシーフードレストランで食べたムール貝や魚介類のフライなどが、家庭料理風でとても好みに合いました。

さらにおすすめしたいのが、南アフリカ風プリン、マルバプディングです。

スポンジケーキ状のものに生クリームやバターで作ったソースをたっぷりしみこませた素朴なおやつで、アイスと一緒に食べるといっそう食感がよく大人気でした。

 

 

こうして南アフリカ三カ国の駆け足旅が終わりました。

野生動物やヴィクトリアの滝など、他では見たことのない素晴らしいものばかりでした。しかし、なんと言ってもこの旅でもっとも心に残ったのは、南アフリカ共和国が持つさまざまな表情でした。世界でも稀に見る愚かしい政策であったアパルトヘイトを乗り越えたものの、今も貧富の差と犯罪の多発に苦しむ国。

 

その一方で、大自然、美しい風景、美味しい食べ物、貴重な動植物など、素敵なものがたくさんある国でもあります。少しでも早く国の体制が改善され、もっとたくさんの人が安心して旅ができるようになることを願ってやみません。

 

 

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