第61回
「熊野若王子神社」
ニュースを見るごとに、人々の悲しみを目にする日々が続いています。
今年春、ぜひ足を運びたい桜があります。それは北へと続く「哲学の道」の南の起点にある「熊野若王子神社」の《陽光桜》です。
「熊野若王子神社」は、熊野詣に足しげく通った後白河上皇が、永暦元年(1160)に、紀州の熊野権現を勧請したと言われる歴史ある神社。室町時代は、足利将軍家に崇敬され、応仁の乱で焼失するも、豊臣秀吉により再興。現在の社殿は、昭和53年に改築されたもの。
「新島襄の墓所」に通じる神社の前の道を進むと、「桜花苑」のある山へ通じる石段が見えてきます。
そこを上ると、目の前に広がる桜の園…約60本の桜の木が山をピンク色に包んでいる景色が…。
実は、この桜苑を訪れたのは、京都に12年も住んでいながら、昨年が初めて。京都に生まれ育った人でも、「そういえば、桜苑があるとは聞いたことがあるけど、行ったことはありません」という場所なのです。
京都の桜の名所としては、新しい1998年にできた「桜花苑」。でも、それができた理由を知ると、そこに咲く桜がいっそう愛おしいものに感じられてきます。
この桜…「陽光桜」というのは、太平洋戦争中、教員として多くの教え子を戦地に送り出さなければならなかった高岡正明さんが、若い命を散らした教え子たちの鎮魂と共に、戦争のない平和な世界を願い作り出した桜です。
戦後30年かけ、世界各地の戦場だった場所に植えるために、さまざまな気候に順応するよう品種改良を重ね、1981年に「農林水産省」に品種登録されました。
色が濃い桜には、「目立つ色の桜であれば、多くの人の目に留まり、より世界平和を願うに違いない…」という高岡さんの思いがそこに。
桜を通じ、世界平和を呼びかける高岡さんは、92歳で亡くなるまで、「陽光桜」を世界各国に寄贈。ローマ法王ヨハネ・パウロ二世、アメリカのカーター大統領、韓国の全斗煥大統領などからの感謝状が、高岡さんの遺品にあったそうです。
高岡さんのこの活動は、全国の有志に引き継がれ、1998年に、ここ京都の「熊野若王子神社」の山に「陽光桜」が植えられました。
まだ樹齢も浅い桜の幹は、京都各所に植わる桜より細く感じますが、鮮やかなピンク色の花を枝いっぱいに付けた姿には、何か使命感を帯びたような力強さを感じます。
この桜についての解説書の看板を読んだ時、そこに込められた高岡さんの思いが、胸に迫ってきます。
この春、この桜の元で、改めて「世界平和」を願いたい…早咲きの桜なので、開花はソメイヨシノより1週間ほど早め。3月中旬から見ごろを迎えます。
昨年訪れたのは、3月25日で、すでに散り始めていましたが、花びらが山の草の上に広がる景色も、心に残る景色となりました。(桜の写真は、昨年撮影)
今年は、満開の桜を拝みに出かけようと思っています。
毎年4月第1日曜には、「桜花祭典」が行われ、境内および「哲学の道」に桜も楽しみに。
「熊野若王子神社」
京都市左京区若王子町2
℡075-771-7420
地下鉄東西線「蹴上駅」徒歩16分
京都の文化・観光を伝えるブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」