江戸時代創業の珠数の老舗「中野伊助」
京都の四条通にある「藤井大丸」の東側、寺町通を南へと進むと、高辻通を少し過ぎたところに、古い構えに白い暖簾が下がる「中野伊助」があります。
ここは、江戸時代創業の珠数の専門店。寺町通は、その名の通り、秀吉の時代に、市中の各所にあった寺が通り沿いに集められ、時代を経ても、多くの寺が見受けられます。寺が多いところには、おのずと仏事、仏具に関わる店ができるもの…。この「中野伊助」も、明和元年(1764)に創業。以来、珠数一筋に商いを続けている老舗で、店主の中野恵介さんは10代目になります。
「珠数は、もともと寺院で作られていたもので、珠数屋という商売が生まれたのは、江戸中期で、まさにこの店が創業した頃です。また、一般の人が、珠数を持つようになったのは、江戸末期で、それまでは、僧侶だけが持つものだったんです」と中野さん。
店内の棚には、さまざまな種類の珠数が下がり、家業を担う多くの人たちが開け閉めしたのでしょう…、持ち手の部分の木の色が異なる引き戸や引き出しが、この店の長い歴史を物語ります。
京都では、珠数は、大人ならだれでも必ず持っている必需品。昔は、嫁入り道具のひとつとして、嫁ぎ先の宗派の珠数を必ず娘に持たせたそう。また、成人式や就職の贈り物として使われることも多いのだとか。
店の棚には、本当に数多くの珠数が…。ご存知の通り、珠の結び方などは、宗派によって違いがあります。ここには、すべての宗派の珠数が用意されているのです。
本来、それぞれの自分の家の宗派に沿ったものを選ぶのが、珠数選びの基本ですが、最近は、宗派を問わず使える略式のものを求める人も多いそうです。
ひと昔前まで、珠数の素材は、菩提樹、黒檀などの木の素材がほとんどで、歳月の流れの中、色が濃くなったり、艶が生まれたりと、その人の歩みと共に、変化してゆくものでした。また霊力があるといわれる水晶、瑪瑙など鉱物素材や珊瑚も、珍重され、珠数に使われています。素材は、宗派によって、決まりがあるところもありますが、略式のものは、自分の好みで選んでいいんだそう。最近のパワーストーンブームの影響から、ローズクオーツ、カルセドニー、アメジストなど、さまざまな種類も登場し、好みの珠数を選べる範囲も広がっています。
珠数は、その人の人生と共にあるもの。他人と共有するのではありません。ですから、一家に1本で、家族で使いまわすということはありえないそう。
年齢を重ねるごとに、お葬式に行くことも増え、珠数の出番も多くなるもの。また、お墓参りや寺への参拝の折りも持ってゆく京都。また営業の仕事をする人など、常に鞄に珠数を入れ、お通夜などに対応しているという話も…。
京都の寺院を訪れるとき、観光ではなく、参拝の心を示すために、珠数を持参することをお勧めします。珠数を手に、仏様にお詣りする…グッと心が落ち着きます。
京都は、国内生産の約9割を占める珠数の本場。「中野伊助」では、職人さんが、1本1本丁寧に組み上げる、まさに一生ものの品になります。
お店を訪れたら、自分の宗派の珠数選びや持ち方なども、詳しく教えて頂けます。その奥深さを知ることは、なんとも興味深いもの。京都に来たら、ぜひ、自分の珠数を作ってはいかがでしょうか。
中野伊助
京都市下京区寺町高辻下ル京極町505 ☎075-351‐0155
営業時間/9:00~18:00
定休日/日曜・祝日(ほか不定休)
小原誉子の京都の観光文化を伝えるブログ「ネコのミモロのJAPAN TRAVEL」