“自分磨き”のための大人の手習い
Vol.10 【最終回】
精神科医で禅僧の川野泰周さんが教えます
ストレスがやわらぎ、心が疲れにくくなる
「すきま瞑想」のすすめ
連載最終回の今回は、私たちが“幸せになるため”の方法を探ります。人は起きている時間の約半分を、目の前の物事以外に気を取られて過ごしているそう。情報過多で疲れてしまった脳や体に小休止を与える「すきま瞑想」は、ストレスや人間関係から生じるさまざまな不調をやわらげ、幸せ力を高めるツールとして注目を集めています。日々の暮らしに無理なく取り入れられる考え方や実践法を、川野泰周さんに教えていただきました。
Taishu Kawano
川野泰周さん
1980年生まれ。精神科・心療内科医。臨済宗建長寺派林香寺住職。RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。医学部卒業後、建長寺専門道場にて禅修行、2014年より上記寺院の住職に。寺務のかたわら、クリニックにて精神科治療に従事。薬物療法と並行して、禅やマインドフルネスの実践を含む心理療法を取り入れた治療に定評がある。『ずぼら瞑想』(幻冬舎)など著書多数
自分が我慢していることに
気づくことが大切
羽田 その昔、お寺には病院の役割もあり、困り事が生じたら誰もが行ける場所だったそうですね。川野さんは禅僧であり精神科医でもいらっしゃる、人とお寺を結びつける、本来ある姿の現代版だと思っていました。
川野 光栄です。羽田さんは坐禅やマインドフルネスをご存じですか?
羽田 知っているようでよくわからない、というのが正直なところです。
川野 素直でいらっしゃいますね(笑)。両者とも根底に流れるのは「思いやりと慈しみの精神」。心を健康に保ち、いつも幸せな気持ちで「今を生きる」ための智慧にあふれています。先ほど坐禅を体験していただきましたが、いかがでしたか?
羽田 「きちんと呼吸しなくては」「雑念がわいてはいけない」などとは考えなくていいと聞き、驚きました。
川野 呼吸を整えようと思うのではなく、吸えた、吐けただけを意識します。いろいろな考えが浮かんでは消えるとおっしゃいますが、ありのままの状態の自分を受け止めればいいのです。
羽田 逆発想でしたね。でも難しそう。
川野 先輩を立てて自分は遠慮するといった儒教の影響が根強くて、日本人は、ありのままを受け止めるという自己肯定感が低いといわれてきました。
羽田 滅私の精神ですね。でもそれではだめだと気づきはじめて、最近は自分だけを優先すればいいという風潮になりつつあるようで、危惧しています。
川野 そうですね。そこで大切なのが「自尊心」(他者と比べた自己の価値)と「自慈心」(人と比較せず、あるがままの自分を認める気持ち)を分けて考えること。「自慈心」が高い人は「自尊心」もしっかり育まれていますし、人に対しても努力を惜しまないということがわかっています。このふたつの心を育てるのに、坐禅やマインドフルネスが有効だといわれています。
羽田 私、めちゃくちゃ自己肯定感が低いですよ(苦笑)。
川野 自己肯定感はいくつになっても育めますよ。日々の生活の中に、自分が満たされた気持ちになれることを積極的に取り入れていけばいいのです。こうしなくてはいけない、と自分を責める気持ちを手放すことです。
自己肯定感を育むために実践すべきマインドフルネスとは? 次回に続きます。
撮影/宮本直孝 ヘア&メイク/木下 優(ロッセット) スタイリスト/坂本久仁子 構成・原文/向井真樹