松本千登世/年齢を重ねる 意味

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松本千登世

1964年生まれ。美容エディター。客室乗務員、広告代理店 勤務、出版社勤務を経てフリーランスに。自らの経験に基 づいた審美眼によって語られる、エッセイや美容特集がつ ねに注目の的。近著に『結局、丁寧な暮らしが美人をつく る。今日も「綺麗」を、ひとつ。(』講談社)がある

「おふくろが倒れたらしい」。めったに連絡のない兄からの電話、今は落ち着いていると聞き、胸をなで下ろした ものの、居ても立ってもいられない。 出張中の兄に代わり、急遽帰省することにした。実際会うと、症状は思いのほか安定していて、頰にほんの少し赤 みも差しているよう。医師の説明では、10 日足らずで退院も可能だという。ああ、よかった。よかった、本当に。

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実は、空港から病院へ向かう道すがら、私は、地元の親友にメールをしていた。「母が入院したとのこと、今、 戻りました」。着陸したのは、ちょうど冬を迎えようとする季節の夕刻。しだいに太陽が沈み、光が失せ、黒に染まっていく空に、言いようのない不安でいっぱいになったのだと思う。母の顔を見た途端、余計な心配をかけるんじゃなかったと、彼女に知らせたことを後悔したのだけれど、時すでに遅し。 案の定、すぐに行くと連絡をくれた彼女に、大事にはいたらなかったと告げ、 明日連絡すると電話を切った。

 

 

翌日。母は想像以上に順調みたい。 母も大丈夫と言っているし、一度、帰京しよう。退院のことは改めて考えれ ばいい。そう彼女に話すと…「了解。退院は私に任せて」。仕事は抜け出せるから大丈夫。こんなときくらい、甘えてよ。お母さんのメールアドレス を教えてくれれば、あとは直接やり取りするから。

 

 

それから毎日、病院を訪れ、そのつど母の様子を報告してくれた彼女。退院の日には、約束通り、母を迎えに行き、家まで送り届けてくれたという。いくら感謝してもしきれない、そう思っていた矢先、母から涙声で電話。「実はね、お料理をいただいたの」。

 

 

一人暮らしの母が、退院後数日は食事に困らないようにと、柔らかく煮込んだ野菜をはじめ、たくさんの料理を容器に詰め込んで手渡してくれたのだというのだ。自分の家族の食事を少し多めに作っただけだから、どうか気にしないで、と笑って。なんとすばらしい女性なのだろう。どこまで優しいのだろう。感動すると同時にこう思った。私だったら、他人のために、そこまでできただろうかって…。

 

 

まわりの同世代たちは最近、決まって「役に立ちたい」と口にする。仕事や、結婚、子どもの有無を問わず、どんなライフスタイルを送っている女性も、家族を含めた「自分」のためにがむしゃらに突っ走ってきた人生が一段落すると、今度は他人のために、いや、 もっと格好をつければ、世の中のために何かできることはないかと探しはじめるのだ、と。うち、一人の女性がその理由をこう分析していたのを思い出した。

 

 

「大人って経験を積み重ねて、 そのたび『ケーススタディ』してるでしょう? つまり、年齢の分、想像力が鍛えられてると思うの。だから、どうしたら人が喜ぶか、どうしたら人が 気持ちよくいられるか、わかるようになる。想像力が役に立ちたいと思う気 持ちを生むんじゃないかな?」。そうじゃなきゃ年齢を重ねる意味がない、とその人は言った。年齢=経験、経験量=想像力。ぼんやりと年齢を重ねてちゃいけない。もう一度姿勢を正さなきゃ、そう思ったのだ。

 

 

ちなみに、親友にありがとうと連絡 したところ、こんな言葉が返ってきた。「私の母が入院したときに、退院したあとの食事が大変だったと聞いてたから、少しでも役に立てればと思っただけ」。この人もまた、経験をすべて想像力に変える人。誰かの役に立ちたいと思っている人。私もそんな女性を目指したいと思う。それこそが、大人の深みを創るものと信じて。

 

 

写真/興村憲彦

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