私が初めて「ヴィーガン」という単語を原稿に書いたのは、おそらく今から20年ほど前のこと。カフェ特集だったのか、表参道特集だったのか、初めて聞く単語をいわれるがまま、あるカフェの原稿に書きました。
そのカフェを経営する「エイタブリッシュ」は、店の形態を変えながらも、オープン以来、今日も変わらず、子供から大人まで様々な背景を持った人々が安心して口にできるヴィーガンの「食」を提供し続けています。
年齢を重ねて心や身体の健康を真剣に考えるようになったり、新型コロナウイルス感染の心配からも「食」について思いを巡らすことの多いいま、ヴィーガンの草分け的存在はどのようなことを考えているのでしょうか。
ヴィーガンの制限をプラスに捉えて創意工夫を
エイタブリッシュの代表・川村明子さん。数多くの企業の広告やアートワークを手がけているクリエイティブ・ディレクターで、当時のデザインオフィスの相棒、清野玲子さんと共に2000年、ヴィーガンカフェ「Café Eight」を青山にオープンさせました。
ざっくりいうと、ヴィーガンとは肉や魚、卵や乳製品を摂らないなど、生活から動物性由来のものを排除して暮らすという考え方。当時はファッション関係や意識の高い支持者がほんの少数いるだけで、ベジタリアンと混同されたり、少なくとも私にとってはいまよりもっと輪郭がぼんやりしていました。
「ヴィーガンは制限が多い食事のジャンルです。体質、病気やアレルギー、宗教上の理由などにより、食に制限のある人はたくさんいます。その制限をネガティブに捉えれば、夢のない、期待のないものしか作れません。『この限られた材料で、みんなが満足する料理を作ることができるか』と常に問われているつもりで、私はクリエイティブの目線で答えを出してきました。『みんなを驚かせてやろう!』というノリですね」と川村さん。
創業以来、カフェではできる限りオーガニックにこだわり、農薬や化学肥料を使わずに栽培された野菜や果物、米穀物を使用しています。使える素材が限られる分、レシピにはより考え抜かれた創意工夫が求められるとのこと。
その後、’03年には表参道のAVEDAサロンに併設する「PURE CAFÉ」をオープン。社名変更や移転などを経て、’15年には「Restaurant 8ablish(レストラン・エイタブリッシュ)」を青山にオープンしました。
その間、人々の健康志向は高まり、外国人旅行客も増え、ヴィーガンは少しずつ身近に。
「料理や菓子の味だけではなく、パッケージ、広告、空間、ユニフォームに至るまで、すべてのデザインに妥協のない表現をしてきたことで、ちょっと近寄りがたいというようなみなさんの先入観を変え、ヴィーガンの長所を少しでも伝えられてきたのではないでしょうか」
新型コロナウィルスの影響や時代の変化を踏まえ、もっと気軽に楽しめるように
6月19日、「Restaurant 8ablish」は「PARLOR 8ablish(パーラー エイタブリッシュ)」としてリニューアルオープン。創業以来のコンセプトであるヴィーガンやグルテンフリーのメニューをより気軽に楽しめるようにと、軽食やデザートが充実しています。
「幼い頃に家族と出かけた時に食べた料理やデザートの幸せな記憶をたどりながら、パーラーの企画を考えました。様々な理由で食事の制限が求められている方も、そうでない方も、一緒に同じ食事を楽しむことができる店。未来に向けてもっと軽やかに、もっと柔軟に、ヴィーガンフードやスイーツを楽しんでもらえるようになればと思います」
次回はインターネットでも購入できる、新しく誕生したスイーツブランド「8ablish SWEETS(エイタブリッシュ スイーツ)」について紹介します。
東京都港区南青山5-10-17 2階
☎︎03-6805-0597
※6月19日オープン