「平均値」に加えてチェックしたいのが「中央値」
さっそく平均貯蓄額を確認していきたいところですが…、その前にひとつチェックしたいことがあります。
それは「平均値」と「中央値」についてです。
周囲の様子を知りたいときに「平均値」だけを見ることも多いのですが、実はこの「平均値」は、その実態とかけ離れている場合もあり、要注意なのです。
少々極端な例を挙げて、説明しますね。
ある年代の人が30人いたとします。たまたま1人が大富豪で、100億円持っていたとします。残りの29人は、1000万円持っていたとしましょう。
この場合、みんながどれくらい持っているかというと、多くの人の「1000万円」だと感じますよね。ところが「平均値」を計算してみると、1000万円からかけ離れることに…。
30人の平均値
(100億円×1人+1000万円×29人)÷30人=3億4300万円
「平均、3億円以上?」と驚く数字ですよね。
極端な数字があるとその値に引っ張られて、平均値が「真ん中」から離れてしまうのです。
そのため、同時に確認したいのが「中央値」です。
中央値とは、データの大きいほう、または小さいほうから順に並べた際に、真ん中に位置する値のこと。
先ほどの30人では、真ん中の人は1000万円ですから、中央値は「1000万円」です。このほうが、「みんなのイメージ」に合っているのではないでしょうか。
そのため、50代、60代の貯蓄額の「平均値」に加えて、「中央値」も一緒に見ることがおすすめです。
それでは、金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査【単身世帯調査】と【二人以上世帯調査】」(2023年調査、2024年発表)のデータから見ていきましょう。
(※本記事での貯蓄とは、「金融資産」全体のことを指し、日常的に使うために貯めているお金ではなく、将来のために備えている貯蓄や運用中のお金を指しています)
「単身世帯」の50代、60代の平均貯蓄額は?
まずは「単身世帯」のデータです。一人暮らしの方は、現在のご自分の収入に近いところをチェックしてみてください。
「50代」単身世帯の平均貯蓄額
・年収300万円未満……平均値472万円/中央値5万円
・年収300万以上500万円未満……平均値1056万円/中央値150万円
・年収500万以上750万円未満……平均値1753万円/中央値600万円
・年収750万以上1000万円未満……平均値3858万円/中央値2140万円
・年収1000万以上1200万円未満……(回答者10人未満のため除外)
・年収1200万円以上……(回答者10人未満のため除外)
50代で年収500万以上750万円未満の人は、貯蓄額の平均値が1753万円、中央値が600万円です。つまり、この年収帯の人は、600万円くらいの貯蓄があるイメージですね。
年収750万以上1000万円未満の人は、平均値が3858万円と高くなっていますが、中央値は2140万円です。中央値でも2000万円超なので、しっかり貯蓄があることがわかります。
「60代」単身世帯の平均貯蓄額
・年収300万円未満……平均値1129万円/中央値162万円
・年収300万以上500万円未満……平均値2107万円/中央値850万円
・年収500万以上750万円未満……平均値4298万円/中央値3097万円
・年収750万以上……(回答者10人未満のため除外)
60代で年収500万以上750万円未満の人は、貯蓄額の平均値が4298万円と高くて驚くかもしれませんが、中央値は3097万円です。
60代になると、徐々に年金生活に入る人もいます。その場合は、貯蓄でしっかり備えておく必要性があります。
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「二人以上世帯」の50代、60代の平均貯蓄額は?
続いて、二人以上の世帯についても見てみましょう。ただし、二人以上世帯は、共働き、専業主婦家庭、子どもがいる・いない家庭など実にさまざまなので、ご参考までにご覧ください。
「50代」二人以上世帯の平均貯蓄額
・年収300万円未満……平均値634万円/中央値2万円
・年収300万以上500万円未満……平均値443万円/中央値45万円
・年収500万以上750万円未満……平均値997万円/中央値400万円
・年収750万以上1000万円未満……平均値1458万円/中央値750万円
・年収1000万以上1200万円未満……平均値2109万円/中央値1000万円
・年収1200万円以上……平均値2770万円/中央値1315万円
50代で年収500万以上750万円未満の人は、貯蓄額の平均値が997万円、中央値が400万円です。つまり、この年収帯の人は、400万円くらいの貯蓄があるイメージですね。
年収750万以上1000万円未満の人は、平均値が1458万円、中央値は750万円です。
「中央値」で見ると、いずれも単身世帯に比べて貯蓄額は少なめ。子どもがいて教育費などにお金がかかっているケースが多いのでは、と推測します。
「60代」二人以上世帯の平均貯蓄額
・年収300万円未満……平均値845万円/中央値160万円
・年収300万以上500万円未満……平均値1630万円/中央値700万円
・年収500万以上750万円未満……平均値1866万円/中央値905万円
・年収750万以上1000万円未満……平均値3071万円/中央値2100万円
・年収1000万以上1200万円未満……平均値3117万円/中央値2430万円
・年収1200万円以上……平均値5973万円/中央値3000万円
60代で年収500万以上750万円未満の人は、貯蓄額の平均値が1866万円、中央値が905万円です。
年収750万以上1000万円未満の人は、平均値が3071万円、中央値が2100万円です。
いずれも、50代の貯蓄額に比べると多いですね。
二人以上世帯では、年金を二人分受けとれ、二人が働き続けることで収入を得られたりと、単身世帯に比べて収入や貯蓄が増える余地があります。
平均値や中央値はあくまでも「参考値」で
同世代、または先輩世代の年収帯の「平均値」や「中央値」を見て、いかがでしたか。
「みんなより多い」とちょっとホッとしたり、「みんなより少ない」と焦ったりした人もいるでしょう。
しかし、この「みんな」も、実に人それぞれです。
多額の住宅ローンを抱えている人や、すでにマイホームのローンを完済している人、ずっと賃貸住まいの人など、今後の住居費のかかり方も異なります。
多額の貯蓄があっても、どんどん使う人もいれば、貯蓄が少なくても、それほどお金を使わない人もいます。
つまり、生活スタイルが異なるのであれば、貯蓄額の平均値や中央値はそれほど気にする必要はないのです。目安のひとつとしてとらえて、参考にとどめておくのがよいでしょう。
そのうえで、「自分の場合はどれくらい貯めたらよいかな」「どんなペースで貯めていこうかな」と、具体的に考えていくことをおすすめしたいと思います。

単に貯蓄額を増やすのではなく、潤いのある毎日のためのお金の使い方・貯め方・増やし方について女性誌やWEBなどで発信するほか、取材・執筆・監修・講演を行っている。現在は早稲田大学人間科学部(eスクール)にて心理学も学ぶ。著書に『お金が貯まる「体質」のつくり方』(すばる舎)、『お金の増やし方』(主婦の友社)など。
イラスト/平松昭子 文/西山美紀