近頃、俄然話題なのが「熟成肉」。お肉大好きミーナですが、熟成肉とかドライエイジングとか、急に浮上してきた「肉」に関するキーワードは、イマイチよくわかってません。食流通ジャーナリストの山本謙治さんに学びます。
「赤身肉」&「熟成肉」って何?
素朴な疑問にお答えします!
アメリカから相次いで上陸したステーキハウスの影響で、「赤身肉」&「熟成肉」が大ブーム。もっとおいしく食べるために、詳しく知りたい! 牛肉のこと。
おいしい牛肉と言えば、サシの入ったA5等級、と思い込んでいる人にこそ、この赤身肉と熟成肉のすばらしさをお届けしたいもの。
今回は「熟成肉」について、食流通ジャーナリストの山本謙治さんに教えていただきました。
山本謙治さん Kenji Yamamoto
profile
食流通ジャーナリスト。農畜産物の商品企画や開発、マーケティングを行う農畜産物流通コンサルタント。赤身肉のよさを広めるべく、2010年より「赤肉サミット」を主催。日本ドライエイジングビーフ普及協会委員。
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/
【熟成肉編】
Q1. 「熟成」させた肉はなぜおいしい?
と畜してすぐの肉は、死後硬直を起こし、筋肉が硬く引っ張り合っている状態。においも味もまったくしません。それを冷蔵庫でねかせることにより、肉自体が持つ酵素の働きによってタンパク質が分解され、旨味成分であるアミノ酸を生成。
結果、肉の旨味や風味が増すと同時に、筋繊維がもろくなって肉が柔らかくなり、肉の水分が蒸発して味も濃縮。この状態が「熟成」です。
Q2. 話題の「ドライエイジング」って何?
現在、日本で主流なのは、小分けにして真空パックの状態で冷蔵保存し、乾燥と雑菌の繁殖を防ぎながら熟成させる「ウエットエイジング」。長く流通でき、使いやすいというメリットはある半面、体液が出てしまうことによって酵素分解が緩やかになり、アミノ酸が生成されにくいというデメリットが。
一方、注目されている「ドライエイジング」は、骨付きの肉に風をあてて水分を抜き、微生物の働きと肉が持つ酵素の相互作用によって香りや旨味をつけていく熟成法です。この場合、抜けていくのは「自由水」と呼ばれるものだけで、細胞内の「結合水」は残り、肉のジューシーさは損なわれません。
Q3. 「ドライエイジング」に向く肉がある?
「ドライエイジング」という熟成法は、そもそも赤身肉が主流のアメリカのスタイルにならったもの。いかに赤身をおいしくするかを突き詰めるやり方なので、ホルスタインや褐毛、短角などの赤身肉には応用できても、サシの多く入った黒毛和種には不向きだと言われています。赤身部分の水分量が少ないので熟成による変化が少なく、表面の脂身が酸化して、風味を損ねてしまうのです。
ただし、黒毛の中でもサシを入れないよう粗飼料を食べさせたり、放牧で育てたA3以下のもの、なかでも経産牛をドライエイジングにかけるとおいしくなります。
Q4. おいしい「ドライエイジングビーフ」の見分け方は?
「アメリカで食べたステーキがおいしかった」が発端となったドライエイジングビーフ人気。とはいえ、近年続々と日本に上陸したステーキ店のほとんどは、真空パックの状態で輸入した枝肉を日本で開封して追熟をかけているだけなので、熟成があまりうまくいっていないというのが現状。
おいしいドライエイジングビーフを見分けるポイントはテンダネス(柔らかさ)、ナッツのようなフレーバー、ジューシーネス(瑞々しさ)の3つ。これらの特徴を兼ね備えたドライエイジングビーフは、これまで食べていた牛肉とはまったくの別もの。ひと口食べた瞬間にわかります。
「この間食べた肉がドライエイジングかどうかわからない」と言うのは、熟成がうまくいっていない証です。
Q5. 日本でも伝統的な「枯らし」と「ドライエイジング」はどう違う?
かつて日本のお肉屋さんは、湿潤な環境で枝肉を3分割して天井からフックに吊るし、オーダーに応じて外側からカットして販売していました。オーダーが入らなければ外側はしだいにカビていき、それをこそげて中を食べると熟成が進んでおいしくなっている、それが「枯らし」と呼ばれる日本の伝統的な熟成方法です。
黒毛和牛に向くとされている枯らしにウエットエイジングを掛け合わせた熟成を手がけているのが、岩手の「丑舎 格進」。熟成に耐えうるポテンシャルの高い黒毛和牛を、できるだけ脂に包まれた状態で乾燥させずに熟成させ、和牛の香りを生かしながら甘さを強め、柔らかさを追求しています。
「ドライエイジングは牛乳からチーズを作るようなもので、加工技術。枯らしは生クリームを作るようなもの」と代表の千葉祐士さん。
次回からは、「赤身肉」の美味しさが堪能できる、厳選4店を1店ずつご紹介していきます。
撮影/太田隆生 イラスト/岡部タカノブ 取材・原文/和田紀子