【教えてくれた人】
東京医療保健大学大学院医療保健学研究科医療栄養学領域修了。慶應義塾大学SFC研究所 食・フードサイエンス&テクノロジー共同研究機構メンバー。著書は『麻生れいみ式ロカボダイエット』(ワニブックス)、『20kgやせた! 糖質オフ入門 最新版』(宝島社)などすでに28冊に及ぶ。ベストセラーも多数。
それ、甲状腺ホルモンが低下してるせいかも!
こんにちは、こんばんは。
朝に夕に、食べ物と健康のことばっかり考えている管理栄養士の麻生れいみです♪
以前より食欲がなくなって、食事をしたりしなかったり…。
なのに痩せるどころかむしろ太ってきてる! なーんて人、いますよね?
更年期に太りやすくなる話は以前もしましたけど、「食べる量は少ないのに痩せない」は、40代、50代の女子にあるあるなんです。
「更年期太り」という言葉もよく聞くように、太りやすいのは確かに更年期不調のひとつ。でも、すべて更年期のせいではないから気をつけて。
問題は、更年期の不調の陰に別の病気が隠れているかもしれないことよ。
更年期の症状と間違いやすく、いちばん見逃されてしまいがちなのは「甲状腺ホルモン」の異常だと思います。
甲状腺というとバセドウ病や橋本病を思い浮かべると思いますが、それは体内に自己免疫抗体ができる病気のほう。
そういった抗体はなくても、甲状腺ホルモンの量が少なすぎたり多すぎたりするだけでも不調は起こるのよ。
しかも、それが更年期の症状とそっくりなの!
更年期不調と甲状腺ホルモンのトラブル、症状がそっくりすぎる!
では、甲状腺ホルモンの量が正常でなかったらどんな症状が出るのか見てみましょう。
あなたが当てはまる症状、AとBどちらが多い?
『女性ホルモンよりパワフル! 甲状腺ホルモンの底力』(山内泰介監修、元気の源・甲状腺を考える会/K&M企画室)より
甲状腺ホルモンが少なすぎる(甲状腺機能低下症の可能性)、甲状腺ホルモンが多すぎる(甲状腺中毒症の可能性)、どちらの場合も、更年期と激似な症状が出ること、わかりました?
気の利いた婦人科なら「婦人科検診」には、女性ホルモンの検査とともに甲状腺ホルモンの検査も入っていますが、普通の健康診断や人間ドックの検査項目には入っていないのが普通。
日本は甲状腺ホルモンをあまり重視しない傾向にあるから、自分からオプションで追加して検査してもらわないとダメなのよ。
女性ホルモンも甲状腺ホルモンも、採血で簡単にわかるのだから、40代以降はぜひ検査してもらいましょう。
ちなみに、甲状腺ホルモン検査で調べるのは、たいてい3つのホルモン値。
T3(FT3)/甲状腺ホルモンのうち本命として働くホルモン
基準値(正常値)2.3〜4.0pg/mL
T4(FT4)/甲状腺ホルモンのうち補欠として働くホルモン
基準値(正常値)0.9〜1.7ng/dL
TSH/甲状腺ホルモンの分泌を増やすように促すホルモン
基準値(正常値)0.61〜4.23mIU/L
*基準値は医療機関(血液を検査する機器)によって異なります。
この3つのホルモンが血液中にどれくらいあるのかを調べるわけです。
あなたも「低T3症候群」では? 間違ったダイエットに多い症状
この3つの甲状腺ホルモンのうち「T4やTSHの値は正常でT3だけが低い」という現象。
それが、近年多くなってきた「低T3症候群」です。
本来、低T3 症候群は、エネルギーが入ってこないときの体の反応。
飢餓状態になったとき、甲状腺ホルモンを少なくして体のエネルギーがなるべく消耗しないよう代謝を抑えてしまえ、という体の仕組みです。
拒食症で低栄養状態の人や、老衰のときなどに見られる状態のはず。
以前ダイエット指導したことがある女子にもこれに陥った人がいました。
ダイエットを続けていて、だるい、疲れる、いつも眠い、やる気が出ない、記憶力が落ちる、うつっぽい、肌の乾燥、髪の毛や眉毛が抜ける…などの症状が起きた。
前述の「甲状腺ホルモンが少なすぎる症状」と同じような症状よね。
更年期の不調にもそっくりだから、40代、50代ならおおむね更年期のせいだと思っちゃうわよね。
彼女は30代女子だったので更年期の症状ではないだろうと思いました。
それがダイエットのために糖質制限をしている女性に多く見られるようになったの。
糖質制限、ロカボダイエットがブームのように盛り上がった頃は、低T3 症候群に対する注意喚起があちこちで見られたものよ。
つまり、糖質制限ダイエットでこの状態に陥る人が増えたのは、やり方が間違っている証拠です。
本来、糖質を減らした分、エネルギーとなる脂質とタンパク質をたくさんとらなければならないのに、とらないでいたらエネルギーが枯渇しちゃうのは当たり前。
ほんと、私も糖質制限ダイエットの指導は長年やっているけれど、正しくやらないと危険です。
40代、50代はどうしても糖質制限と、昭和のダイエットである「カロリー制限」を混同してしまうでしょう? カロリー制限だけではNGですから。
間違ったダイエットによる低T3症候群は、実は今もかなり多いんじゃないかと思っています。
更年期だからだるいの、疲れるの…と思っているそこのアナタ、自分の胸に聞いてみて。
「食べないと痩せない」を肝に銘じてほしい!
ちなみに、低T3 症候群は甲状腺の病気ではありません。
一時的な甲状腺のトラブルなので、きちんと栄養をとれば自然に治りますから安心してね。
甲状腺そのものの病気ではないので薬も不要。
そのためにも、やっぱり甲状腺ホルモンの検査はしないとダメだと思う。
女性ホルモンが減って更年期の症状が出ているのか、甲状腺ホルモンにトラブルがあるのか、これは検査で見極めてもらいましょう。
ともかく、しつこいくらい言ってるように、基本の考え方は「食べないと痩せないよ」です。
少食であることや食べられないことを、ラッキーだなんて思ってはいけません。
「食欲がないから食べなければいいんだ。これで痩せるかもしれない」なんて思うのは間違いです。
そうは言っても、全然納得しない人はけっこういるのよ。
ビタミンやミネラルがなかったら、脂肪は燃えないの。
火をつける着火剤みたいなものがないと燃えるものも燃えないのと同じ。
人は食べて燃やしてエネルギーを作って回して使う。それが生きるということ。
食べて燃やして回す。食べて燃やして回す。止まったらダメよ。
それを止めたらダメなんだけど、みんな止まっちゃう。
もう一度言います。
生きるということは食べること。
エネルギー回路を効率よく回すために食べるのよ!
ちなみに、まったく食欲がない人や食べられない人には介護食を提案したこともあるくらい。
とりあえず何か口に入れられるもの、食べられるものを見つけましょう、と。
とは言っても、お菓子じゃダメよ。
ベースはタンパク質がとれて糖質は少なめの食品ね。大豆製品や乳製品でもOK。
まずは痩せるより何より「食欲がない」状態をよくすることが最優先。
必要な栄養をとって病状を治して、そこからじゃないと痩せるなんて難しいと心得ましょ。
取材・文・画像作成/蓮見則子 イラスト/カケハタリョウ