新型コロナワクチンの接種が進む中、感染力の高い変異株も登場。ワクチンのメリット、デメリットどう考えたらいい? ハーバード&ソルボンヌ大学医学部客員教授の根来秀行さんに、ぐうたらライター・いしまるこがインタビューします。
(記事の内容は2021年9月12日時点の情報に基づきます)
前回のインタビュー「いまだに勘違いが多い『ワクチン有効率』の意味」。
新型コロナワクチンの開発はイタチごっこ!?
いし 変異株に対するワクチンの効果はどうなんでしょう?
根来 イギリス由来のアルファ株は発症者が減少し、重症化や死亡率も減少しているというデータも出ていて、一定の効果が認められています。
ウイルス感染を防ぐ抗体の働き
抗体はウイルスの突起「スパイクたんぱく質」にとりつき、細胞の鍵穴に結合するのを邪魔してウイルス感染を防いでくれます。新型コロナワクチンによりできる中和抗体(感染を防ぐ力のある抗体)の量は、1回接種のみでは個人差が大きいことが報告されています。
根来 ただ、ベータ株、ガンマ株、デルタ株には、効果が減弱するよう。さらに変異が進んで大きく変貌すると、ワクチンの抗体が「敵」を見分けられなくなり、スルーしてしまう可能性が高くなります。
いし 各社、変異株に対応するワクチンの開発を始めているようですが、イタチごっこになりそう。
根来 新型コロナワクチンの抗体による免疫の持続期間は、アルファ株で3ヶ月から最長で半年くらいと見られています。インフルエンザワクチンのように、毎年流行を予測して、半年〜1年に1回定期的に接種をしていくことを奨励する方向になっていくでしょうね。
実際、イスラエルや英米仏といったワクチン先進国で感染者が再び拡大し、2度のワクチン接種で抗体が完成したはずの人もその防御が突破され再感染が起きています。
いし 「ブレイクスルー感染」ですね。
根来 ハイ。イスラエルでは3回目の接種も始まり、日本でも検討されているようですが、その効果も副反応もまだまだデータ不足です。
ワクチンの副反応は女性に出やすい?
いし 効果とともに気になるのがリスク。日本でも2021年2月からファイザー社のワクチン接種が始まりましたが、重いアレルギー反応「アナフィラキシー」は海外の発生頻度より高く女性に多いとか。
根来 原因の一つとして疑われるのは、ポリエチレングリコール(PEG)という成分。化粧品やシャンプーにもよく使われるので、皮膚に繰り返し使うことで免疫が働き、PEGがアレルゲンとして認識され、体内でその抗体が作られている可能性があります。PEGなど新型コロナワクチンと同じ成分を含むものでアナフィラキシーを起こしたことがある人は、接種対象から外れます。
いし まず高齢者や基礎疾患のある人など、重症化しやすい人から優先接種されてきましたが、そういう人ほど副反応が強く出そうな気もします。
根来 欧米人と同量の投与が過剰摂取になり副反応を招いているのではという指摘もあり、特に持病のある高齢者は要注意です。発熱や強い倦怠感などの副反応は、高齢者より若者や女性に多いという報告が出ていますね。発熱が2日以上続いたり、症状が重い場合は、迷わず医療機関に相談してください。
いし アストラゼネガのウイルスベクターワクチンは、摂取後に血栓症が発症し死亡者も報告され、接種を中止する国も出ています。ファイザーやモデルナのmRNAワクチンのほうがまだリスクが低いようにもみえましたが、日本でmRNAワクチン接種後の死亡報告は1115人にのぼっています(2021年9月3日時点)。
根来 接種後の死亡事例については、現時点では詳細な検証もできておらず、厚生労働省は「接種との因果関係は評価できない」としています。一方で、各国の研究も進められており、ワクチンによって細胞内で作り出されたスパイクタンパクが炎症を引き起こし、悪影響を及ぼしているのではないかという指摘も上がっています。
いし そうですか…。是非ともしっかり検証してほしいです。ワクチンの長期的な影響も不透明ですね。
根来 そうですね。mRNAワクチンは、細胞にウイルスのRNAを直接送り込む遺伝子組み替えワクチンです。通常、mRNAは体内でスパイクたんぱく質の設計図を合成したら数日で分解されるので、問題ないと想定されているわけです。
しかしワクチンとなると、遺伝子を作り変えて、より安定した形で設計されています。最悪の場合、合成したたんぱく質がある程度残存したり、どこかの細胞内に影響を及ぼしたりする可能性もないとは言いきれません。
いし 遺伝子ワクチンは初めての実用化で未知の領域ですもんね…。
根来 その通り。効果も副反応も予測がつかないことだらけです。治験も短期間で検証期間が短かったので、5年後、10年後の長期的な予後は誰もわからない。情報を精査しながら個々の状況を総合的に判断し、長所と短所を天秤にかけて、現時点でベストと思われる選択をするほかありません。
打つ選択も打たない選択も等しく尊重されるべき
いし 根来教授は、ワクチン接種はどうされました?
根来 僕は6月に2回目の接種を終えました。仕事柄、患者さんや多くの人に接しますし、海外を行き来する必要があることが大きいですね。
いし なるほど。副反応はどうでしたか?
根来 ファイザーのワクチンですが、1回目は腕がちょっと腫れてまあまあ痛かった。少し腕が上がりにくくなったけど、大したことはなかったです。
2回目は夜になってすごい寝苦しくなって、変な気持ち悪さがありました。多分37度以上は熱が出てたんじゃないかなあ。それでもあまり熱い感じはしなくて、そのまま眠れました。夜中にだるくなってちょっと目が覚めた程度です。
いし 大きな問題がなくてよかったです。
根来 おかげさまで。
いし 集団免疫のために打つべきという声も高まっていて、同調圧力によって接種を迫られるケースもあるようですが、どう思われますか。
根来 打つ選択も打たない選択も等しく尊重してほしいですね。集団免疫の見通しは、現実的に考えてなかなか厳しいと思います。メリットとデメリットを秤にかけ、副反応のリスクも検討したうえで、それでもメリットが上回ると判断できた人は打てばいいし、それが低いと判断した人は受けなくていいと思います。
かけがえのない自分の体のことなのですから、ひとりひとりが納得のいく選択をしてほしいと思います。この連載がそのための一助になるとうれしいです。
いし 本当にそうですね。今回の特集はこれで終わりますが、新型コロナウイルスについては、今後も引き続き根来教授に取材していきます。お楽しみに!
根来秀行さん
Hideyuki Negoro
1967年生まれ。医師、医学博士。ハーバード大学医学部客員教授(Harvard PKD Center Collaborator, Visiting Professor)、ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、信州大学特任教授、事業構想大学院大学理事・教授。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、世界の最先端で臨床・研究・医学教育にあたる。この連載から生まれた『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業「毛細血管」は増やすが勝ち!』(集英社)は版を重ね、台湾・韓国でも翻訳されて好評発売中!
いしまるこ
コロナ禍でもマイペースなぐうたらライター。「呆れるほど変わらないよね」って褒め言葉?
撮影/角守裕二 イラスト/浅生ハルミン 取材・原文/石丸久美子