新型コロナウイルスが流行しはじめた頃、さまざまな情報に翻弄された私たち。混乱を体験し、苦い思いをした今こそ、信頼できる健康情報を見極めるポイントを増田美加さんと、市川衛さんのお二人に対談形式で解説してもらいました!
増田美加さん
Mika Masuda
1962年生まれ。女性医療ジャーナリスト。35年にわたり女性医療、ヘルスケアを取材。乳がん罹患後はがん啓発活動を積極的に行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』(講談社)ほか。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員
市川 衛さん
Mamoru Ichikawa
1977年生まれ。医療の“翻訳家”。NHKチーフ・ディレクター。メディカルジャーナリズム勉強会代表。東京大学医学部卒業後、NHKに入局し「ためしてガッテン」「NHKスペシャル」などを担当。近著に『教養としての健康情報』(講談社)
「“絶対に”“これだけで”という
ワードには要注意です!」(市川)
増田 新型コロナ禍を経験した今、“ヘルスリテラシー”の重要性が叫ばれています。ヘルスリテラシーとは、正しい健康情報を選び取り、意思決定をして、自らの「健康を維持、向上させる力」のこと。市川さんは、医療・健康情報を数多く発信している立場として、現状をどのように見ていますか?
市川 これまで医療・健康情報といえば、関心が高いのは高齢者という印象がありました。しかし今は、あらゆる世代にとって医療・健康情報が身近になっています。一方、根拠のない情報が拡散されるケースも増えています。2016年に医療情報サイト「ウェルク」が根拠のない情報を出し、サイトの閉鎖に追い込まれたのは記憶に新しいところですよね。
増田 私がヘルスリテラシーの重要性を実感したのは、2006年に自分が乳がんに罹患したことがきっかけです。医療現場で多くの医師や専門家を取材していましたが、がんを告知されたときの不安と恐怖は想像以上でした。もしあのとき、親しい友人や身内から、「高いけど、がんが消える治療があるからやってみたら」と善意ですすめられたら、断りきれたかどうか…。精神的に追い込まれる中でも、医療・健康情報を正しく見極めるためには、どうしたらいいのでしょうか?
市川 私がおすすめしているのは、まず「害のある情報を見分けよう」ということです。考えてみると、例えば「二の腕を軽くもめば元気になる」という怪しい情報があったとして、取り入れても副作用はなさそうですし、お金がかかるわけでもないですよね。一方で取り入れることで健康被害があったり、無用なお金を取られたりするものを信じてしまったら困ります。
増田 そのポイントをぜひ教えてください!
市川 まず気をつけたいのは「絶対に治る」とか「これだけで治る」という言葉を使っていないかどうかです。医療の世界に絶対はないので、誠実な専門家や発信者であれば、こういう言葉はよほどのことがなければ使いません。また、その情報が由来する“根拠”が明示されているか、も大切。科学的根拠にもレベルがあって、医師や専門家の言葉だけでは、低いレベルの根拠にしかなりません。
私が番組で病気の対策などの情報を伝える場合は、それが①学会発表ではなく、査読付きの論文で発表されているか、②動物や細胞実験でなく人間の臨床研究か、③調べる群と、比較のための対照群が設定されているか、などから科学的根拠をチェックしています。
撮影/山田英博 取材・原文/増田美加