新型コロナウイルスが流行しはじめた頃、さまざまな情報に翻弄された私たち。専門家の意見が対立した場合、見極め方はどうすればいいのかを、増田美加さんと、市川衛さんのお二人に対談形式で解説していただく第2回目になります。
増田美加さん
Mika Masuda
1962年生まれ。女性医療ジャーナリスト。35年にわたり女性医療、ヘルスケアを取材。乳がん罹患後はがん啓発活動を積極的に行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』(講談社)ほか。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員
市川 衛さん
Mamoru Ichikawa
1977年生まれ。医療の“翻訳家”。NHKチーフ・ディレクター。メディカルジャーナリズム勉強会代表。東京大学医学部卒業後、NHKに入局し「ためしてガッテン」「NHKスペシャル」などを担当。近著に『教養としての健康情報』(講談社)
検査や検診は「完璧」ではないと心得て
増田 新型コロナ禍で出回ったような「息を止めて10秒我慢できれば、感染していない」「65℃以上のお湯を飲むとウイルスは死んで感染予防になる」「次亜塩素酸水を噴霧すると空間消毒になる」などというまことしやかなデマ情報と出合ったとき、その真偽を確かめるには、どうしたらいいのでしょう? 出典論文や科学的根拠を調べるのは、一般の人にはハードルが高い。また、専門家の意見が対立している場合、どちらを信用したらいいのかもわかりにくいです。
市川 さまざまな情報源の中で、比較的バランスがとれているのはやはり「国からの発信」だと思います。例えば新型コロナの情報では、厚労省のサイトに、一般向けにわかりやすい最新情報が出ています。「厚労省 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」で検索すると出てきます。
増田 NHKの「特設サイト 新型コロナウイルス」も時々刻々と更新されていて、とてもわかりやすいです。
市川 ありがとうございます(笑)。
増田 今回、PCR検査で「陽性」と出た人でも、本当に陽性の人は、感染後何日目の検査かによっても変わりますが、およそ70~88%ではないかといわれています[一般社団法人日本疫学会「新型コロナウイルス関連情報特設サイト」より]。つまり感染していないのに「陽性」と出る人は30~12%いるということです。検査は完璧ではないということも知っておくことが必要ですね。
市川 そのとおりです。検査は“やるべき目的と目標”がはっきりしているときに行うものです。例えば、自治体などが行う胃がんX線検診は、多くの人を調べて、少しでも「怪しい」人を探すのが目的です。ですので、陽性(要精密検査)と出たとしても、本当にがんがある人はおよそ1%にすぎず、ほとんどは最終的に「異常なし」となります。
増田 そうですね。がん検診の中で、いわゆる“発見率”が最も高い乳がん検診でも、1万人が乳がん検診を受けて「陽性(要精密検査)」となる人が684人。そのうち精密検査で乳がんが見つかるのは28人で、約96%が乳がんではないのです[厚生労働省「平成29年度地域保健・健康増進事業報告」より]。検査や検診は100%ではないことを知ることで、「正しく怖がる」ことができますね。
撮影/山田英博 イラスト/内藤しなこ 取材・原文/増田美加