脂肪分が多いもの、タンパク質が多いもの、食物繊維が多いもの…を食事の前に食べておく
血糖値の急な上昇や乱高下、血糖値スパイクはメンタルの不調、動脈硬化などの生活習慣病に直結します。
「血糖値を意識して食べ方に気をつけよう!」とはいうものの、炭水化物が好きな人には耳が痛いはず。やっぱり炊きたての白いご飯を食べたい! パスタや麺は1日1回食べたい! おいしいパンは高くても買いたい! そんな声が聞こえてきそうです。カーボ・ラスト(糖質は最後に食べる)が理想と言われても習慣化しにくい人も多いのでは?
YouTubeでのユニークな血糖値測定実験が評判の糖尿病の専門家、「やさしい内科医」こと山村聡先生にお聞きしました。
「空腹時は血糖値が下がっています。その状態で糖質の多い食事をしてしまうと、血糖値は急に上がってしまいます。防ぐには、糖質の少ないものを食前に食べておけばいいんですよ。
食前に食べるのは炭水化物以外のものということになりますが、血糖値を上げにくいものならなんでもいいです。脂肪分が多いもの、タンパク質が多いもの、食物繊維が多いもの…、それらを食事の前に食べておく。
飲み物でもかまいません。豆乳、牛乳、ヨーグルトドリンクでもいいんです。それだけで同じ食事でも血糖値の上昇がゆっくりになります。つまり、糖質をいちばん最後に食べる「カーボ・ラスト」と同じことになるんですね。
食事の何分前に食べればいいかは個人差があって、5分前でも効く人は効きます。20〜30分前がいい人もいるので、患者さんには平均して『15分くらい前に』とアドバイスしています」
牛乳、プロテイン、ナッツ…食前に食べて、血糖値の急上昇を抑えた食材とは!?
今回はOurAge世代の6名が、血糖値のモニタリング(*)にトライ。2週間にわたり血糖値の変動をチェックしてみました。
*:自動的に血糖値(正確には間質液中のグルコース値)を測ってくれる「FreeStyleリブレ2」を装着。
モニター期間中に、各自が選んだ食材を食前15分前に食べ、血糖値の変動を見てみました。その中で、特に効果が見られた人の例を紹介します。
トップバッターは、モニターOさん。
血糖値を下げるといわれるサラシア茶を食前に飲んだり、あえてフルーツを先に食べてみたりと実験してくれた結果…、効果があったのは牛乳でした!
【食前〇〇なしの日】
朝食メニュー:卵焼き、コールスロー、納豆、梅干し、わかめの味噌汁、ご飯。食後にミニトマト、ヨーグルト(グラフ[A])。
【食前牛乳を飲んだ日】
朝食20分前に牛乳をグラスに1杯飲んでみました。
朝食メニュー:卵焼き、コールスロー、納豆、梅干し、わかめの味噌汁、ご飯。食後にミニトマト、ヨーグルト(グラフ[B])。
[A]食前〇〇なし [B]食前牛乳
まったく同じメニューの朝食です。それなのに牛乳を飲まなかった日は175㎎/dLだった血糖値のピークが150mg/dLに抑えられ、スパイクも起こっていません。1杯の牛乳だけでこんなに違うとは、驚きです!
続いて、モニターMさん。
朝食はだいたい同じメニューなので、比較しやすい環境にあります。常備しているナッツを朝食前に食べてみると…、面白いように血糖値の変動が変わりました!
【食前○○なしの日】
定番の朝食メニューがこちら。玄米ご飯、しそふりかけ、りんご1/4、ヨーグルト、蜂蜜、ジャムです(グラフ[C])。
【食前にカシューナッツを食べた日】
ほぼ同じメニューで、食事の約20分前にカシューナッツを5粒だけ食べてみました(グラフ[D])。
[C]食前〇〇なし [D]食前カシューナッツ
食べる前の血糖値自体が違ったせいか、血糖値のピークに差はありますが、みごとにスパイクは抑えられています。
カシューナッツ5粒! わずかそれだけのことでこれほど血糖値の上昇を抑えられるなんてびっくりです。Mさんはこの後も何度かカシューナッツあるなし実験をやってくれましたが、毎回効果が表れていました。
モニターHさんの例も見てみましょう。
今回のモニタリングで、朝食で血糖値スパイクを起こしやすいタイプとわかりました。おやつ代わりにプロテインを飲むことがあるというHさんは、それを朝食前にも飲んでみることに。
【食前○○なしの日】
朝食メニュー:ベーコンエッグ&サラダ、ぬか漬け(きゅうり・みょうが)、オクラのっけ納豆、味噌汁(明日葉、えのき、油揚げ)、雑穀米、(グラフ[E])。
【食前プロテインの日】
朝食15分前にプロテイン1杯(グラスフェッドホエイ:タンパク質15g、糖質2g)。
朝食メニュー:ベーコンエッグ&サラダ、おかひじきのおひたし、納豆、ぬか漬け(きゅうり・しょうが)、味噌汁(明日葉、エノキ、油揚げ)、雑穀米(グラフ[F])。
[E]食前〇〇なし [F]食前プロテイン
175mg/dLまで上昇していた朝食。けれど、食前プロテインをとった日は125mg/dLまでしか上昇せず、しかもスパイクのようなトンガリもできていません。Hさんにとって、朝食でこれは珍しいことだそう。
試す価値あり!「食前○○」を取り入れる工夫を
モニターたちの報告を見た山村先生がまとめてくださいました。
「なかなかわかりやすい結果でしたね。 血糖値が上がりやすい人、カーボ・ラストが難しい人は、『食前○○』が効果的だと思います。
特に、朝の慌ただしい時間に、牛乳や豆乳など準備の必要がない手軽なドリンクを食前に飲んでおくとよいと思います。乳製品には乳糖という糖質が含まれていますが、ブドウ糖とは違ってあまり血糖値に反映されないようです。プロテインはよりGOOD。40代、50代の女性なら、筋肉を増やすためにもおすすめですよ。
ただ、水はもちろんコーヒーや紅茶などのお茶類では、意味がありません。また、市販の野菜ジュース類の中には糖質の高いタイプもあるので、栄養成分表示を見て買うようにしましょう。
そして、すばらしい効果があったのがナッツ類ですね! 糖質が低いうえに脂質、食物繊維ともに含まれています。ランチなら、職場のデスクでナッツを食べてから食べに行くのもいいんじゃないでしょうか」
目には見えない血糖値をモニタリングすることで、さまざまな発見がありました!
「糖尿病には運動がよい、とよくいわれますが、実際、食後の運動で血糖値を抑えられることもモニタリングしているとわかってきます。
測定まではせずとも、血糖値が上がりやすい40代以降は、食べ順を変えてカーボ・ラストにする、食前〇〇を意識する、とにかくよく嚙んでゆっくり食べる、などを心がけて、血糖値の急上昇や乱高下を避けるとよいでしょう。将来のためにも、(インスリンを出す)すい臓を酷使しないように過ごしてくださいね」
【教えていただいた方】
九州大学医学部卒業。東京ミッドタウンクリニックで診療するかたわら、糖尿病啓発・予防のため血糖値に関するSNS発信を行っている。豊富な診療経験をもとに、一人一人のライフスタイルに合わせた血糖値改善、ダイエットプログラムの開発にかかわるなど予防と医療の架け橋として活動中。 自らの体を実験台にしてさまざまな食材の血糖値を測定するYouTubeチャンネル「やさしい内科医のY's TV」が人気。登録者数は7万人超。
※血糖値の変動には個人差があり、モニターの結果はあくまで一例です。同じ食材をとっても人によって、また食べるタイミングなどによって変化します。
取材・文/蓮見則子