生活習慣の改善をせずに薬に頼ってはいけない
体調が悪いとき、病気になったときは「薬が治してくれる」と思っている人は少なくありません。もちろん薬がないと健康を維持できない場合もありますが、体調を整えたり、病気を治すのはあくまでも自分自身です。
「そのよい例が、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病の薬や便秘薬です。その薬に頼り切って、原因を作った生活の悪習慣を改善しなければ意味がありません。薬は上手に使うことが大切です。
例えば便秘の場合、その原因は食事で食物繊維が足りていない、そもそも食事量が足りていない、水分が足りていない、運動不足などで腸管の筋力が低下している、またはストレス過多などが考えられます。
まずはその原因を考えて生活習慣を改める必要があります。便秘薬はそれでも出ない場合にスポット的に使うのがいいでしょう。薬に頼りすぎるだけでは、根本的な解決にはなりません。
下痢の場合、特にウイルスや細菌が原因なら、それらを早く体外に排出するために下痢になっているので、下痢止め薬は使わずに、すぐに医療機関を受診してください。
ストレスによる下痢といわれている過敏性腸症候群(IBS)や冷えが原因の下痢などには、下痢止め薬を一時的に使用するのはいいでしょう。しかし2日以内に症状が改善しない場合は、原因を知るためにやはり医療機関の受診を。
一方、頭痛や生理痛などの痛みを軽減する鎮痛薬は、我慢せずに早めに飲むことをおすすめします。痛みは体に起きた炎症を脳に伝えるサイン。鎮痛薬はその痛みを伝える道筋を遮断するタイプと、痛みを伝える物質の量を減らすタイプがありますが、これらに常用性はありません。痛みを我慢するほうが体力を消耗してしまうので、服用するのがいいと思います。いずれも用法・用量を守り、空腹時を避け、長期服用(月に10日以上)をしないことが条件です」
依存性のある薬は医師とよく相談して!
抗うつ剤や睡眠薬には依存性が認められるものもあります。
厚生労働省の調査によると、うつ病や双極性障害などの気分障害を患っている人は、2017年には120万人を超えています。この数字は年々増える傾向です。
「こうした気分障害の人が心療内科などに行って、よく処方される薬に催眠鎮静薬や抗不安薬があります。これらに含まれるのが、短時間で強く作用するベンゾジアゼピン系です。
脳には気分を鎮静させるGABAという神経の信号を伝達する物質があります。この成分はそのGABAと同じような作用をすることで、脳の興奮を抑え、不安や緊張を緩和して、不眠などを改善する薬です。
安全な薬として使われていますが、ベンゾジアゼピン系にはアルコールと同じように脳の報酬系に作用して、短時間で強力な効果があります。そのため、薬の効果が切れると、イライラしたり怒りっぽくなったり、薬を止めるのが不安になるなどの依存症のような症状や認知機能の低下などが起こることが指摘されています。これを常用量依存といいます。
とはいえ、気分障害は自殺の原因のひとつになっているので、治療の必要性が上回れば薬の投与は必要でしょう。自分で勝手にやめるのがいちばん危険なので、適切な量を適切なタイミングで使用することが何より大事です。主治医との十分な相談を!
睡眠を促す薬としては、最近ではオレキシン受容体拮抗薬があります。脳内にはオレキシンという覚醒に携わる神経伝達物質があり、その受容体を遮断することで眠気を促すのです。これには依存性がベンゾジアゼピン系より少なく、自然な睡眠を促すといわれています」
やはり、薬は依存するのではなく、かといって怖がるでもなく、そのメリットとデメリットを知ったうえで、上手に付き合っていくことが重要ですね。
【教えていただいた方】
イラスト/いいあい 取材・文/山村浩子