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大人の発達障害とは? 今、増えている理由、症状や特徴、治療法について

「人付き合いが苦手」「思ったことを発言してよく失敗する」といったことで人間関係が築けなかったり、生きづらさを感じているのなら、それはひょっとすると「大人の発達障害」かも。いったい発達障害とはどんなもので、どんな治療法や対処方法があるのでしょうか? 医学博士で発達障害を専門とする司馬理英子先生に伺いました。

【教えていただいた方】

司馬理英子
司馬理英子さん
医学博士
公式サイトを見る

司馬クリニック院長。岡山大学医学部・同大学院卒業後、1983年渡米。アメリカで4人の子どもを育てながら、ADHDについて研鑽を深め、1997年に帰国後、東京都武蔵野市に発達障害専門のクリニック「司馬クリニック」を開院。著書は『のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)をはじめ、「わたし、ADHDガール。恋と仕事で困ってます」(東洋館出版社)、近著『もしかして発達障害?「うまくいかない」がラクになる』(主婦の友社)など、多数。

 

大人になってわかるケースが増えている

「場の空気が読めずに失言してしまう」「人とかかわるのが苦手」「集中力が続かず、すぐに飽きてしまう」「やるべきことより、やりたいことを優先してしまう」。こうしたことで、人間関係や仕事がうまくいかなくて悩んでいる人は少なくありません。実はそれは「大人の発達障害」が原因かもしれません。

 

「日本で発達障害が知られるようになって、まだ20年ほどしかたっていません。2004年に『発達障害者支援法』が制定され、2010年に『障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)』の対象となりました。

 

それまでは、落ち着きがないと片づけられていたのです。しかし研究が進み、それは生まれつきの脳の特性であることがわかってきました。

 

発達障害が子どもの頃にわかる場合もありますが、学力などに問題がなければ、本人やまわりの人は違和感を抱きつつも、気づかれずに大人になることがあります。

 

例えば、『場の空気が読めずに思ったことを発言してしまう』ことは、子どもならよくあることなので、許されてしまいます。しかし、社会人になると、そうした何気ないひと言で人間関係を壊すことになりかねません。

 

こうした問題点も、『誰にでもあること』から『発達障害の傾向がある』、『生活に支障が出る』状態まで、程度はさまざまです。そうしたレベルにもよりますし、生活環境によっては、子どもの頃はまわりの人にサポ-トされ、本人も年齢を経て徐々に学習しながら克服していくこともあります。

 

一方で、特に女性は就職、結婚、出産、子育てなど、ライフステージごとにやるべきことが増えるにつれ、今までなんとかなっていたことが、だんだんできなくなって発達障害に気づくケースもあります。

 

ADHD(下記参照)の場合は、約1/3が思春期までに症状が落ち着き、約1/3はさほど目立たなくなり、残りの約1/3は大人になっても症状が残るといわれています」(司馬理英子先生)

 

 

問題は生活のなかでどれだけ不都合が生じるか?

では、発達障害とはどのような症状をいうのでしょうか?

 

発達障害には主にASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、LD(限局性学習症)の3種類がありますが、この連載では主に、ASDとADHDの2タイプを取り上げていきます。

 

ASD(自閉スペクトラム症)では、主に相互的なやりとりが苦手です。

 

大人の発達障害 ASDの人 イラスト

「ASDには、人とかかわることを極端に避ける孤立型、人とのかかわりが受け身で、自分の気持ちが伝えられない受動型、思ったことを何でも言ったり、一方的に話すなど、発言やふるまいが自己中心的に見える積極奇異型に分かれます」

 

 

ADHD(注意欠如多動症)では、不注意で落ち着きがないのが特徴です。

大人の発達障害 ADHD の人 イラスト

「ADHDには集中力が散漫でケアレスミスが多い不注意型、落ち着きがなく、衝動的な行動が目立つ多動・衝動型があり、その混合型もあります。特に多動・衝動型では、興味のあることはあれにもこれにも手を出しますが、長続きしません。

 

例えば、ASDとADHDもともに遅刻する人が多いのですが、その理由が異なります。ASDの場合は朝の支度の段取りが悪く、時間がないのにご飯を食べるといった優先順位がわからなくて遅刻します。一方、ADHDは探し物をしたり、テレビに気を取られるなど、注意力があちこちに移動してしまい支度が遅れます」

 

 

 

LD(限局性学習障害)は一定の分野の学習が非常に困難な状態です。

 

例えば、読む、書く、話す、計算するなど、一部の学習が苦手です。

 

「こうした発達障害の特性の出方、それによる不都合なことは、育った環境や社会生活においてまわりにどれだけ理解者がいるかで変わってきます。その特性によってすごく生きづらさを感じて生活に支障が出る人もいれば、そこそこうまくやっていける人もいます。

 

がんであれば細胞を調べれば診断のつくことが多いですが、発達障害の場合は『普通(定型発達)』との境界線が明確ではありません。何をもって障害と考えるのかは、本人がどれだけ困っているかが重要なのです」

 

 

治療の主軸は心理教育

では、発達障害かも? と思ったらどうしたらいいのでしょうか?

 

「まずは発達障害に関する本を2~3冊読んでみてください。そうすると自分はどのタイプに当てはまるのか? 何に気をつければいいのか? が、なんとなくわかってきます。その対処方法を実践してみるといいでしょう。

 

本ではよくわからない場合には、精神科心療内科を受診してみてください。施設によっては、メンタルクリニックこころのクリニックといった名称を使っているところもあります。全国の発達障害者支援センターに相談する方法もあります。

 

クリニックを受診する人は、生活に支障が出るほどの生きづらさを感じて、本人自らの意思で来院するケース、もしくは家族に促されて来る場合もあります。中には、子どもの発達障害を心配して一緒に来院したところ、自分の発達障害がわかることもあります。

 

診察では、それぞれの診断基準に即した問診が行われます。まず問診表への記入が促されると思います。その内容は、現在の状態や問題についてだけでなく、赤ちゃんから幼少期、小学生や中学生の頃どのような子どもだったのかについても触れていきます。

 

いくつかの検査を行うことで、自分にどのような傾向があり、何が問題なのかがわかってきます。そのうえで医師と話し合いながら、その困った問題を解決する方法、対人関係の見直しなどをするカウンセリングなどの心理教育を実践していきます。

 

場合によっては、ADHDには多動性や衝動性を押さえる薬、ほかに症状に応じて抗うつ薬や抗不安薬などを処方することもありますが、まずは環境調整や心理療法から始めるのがよいでしょう。

 

自分が発達障害であり、今までうまくいかなかったことは障害のためだと知ることで、安堵して前向きに対処する気持ちになる人も少なくありません。

 

発達障害は生まれつきの『脳の癖』のようなものです。その癖を理解して上手に付き合って、生活での困り事を少しでも減らしていくことが大切なのです」

 

 

イラスト/小迎裕美子 取材・文/山村浩子

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