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がんの誤解をバッサリ斬る! 抗がん剤が怖くても使わないのはもっと怖い

がんは誰にでも突然やってくる自然災害のようなもの。だから「防災」が必要、と言うがん治療医の押川勝太郎先生。思い込みで治療のチャンスを逃さないよう、知識をアップデートしてがんに備えることが大事です。今回は、多くの人がネガティブなイメージを持つ「抗がん剤治療」について、よくある勘違いや誤解を押川先生がバッサリ斬ります!

「抗がん剤」は代表的ながん治療のひとつ

「副作用で苦しむわりに効かない」など、よくないイメージを持っている人も多く、がんになっても「抗がん剤治療だけはしたくない」と拒否する患者さんもいるといいます。

 

抗がん剤治療の目的

「まず、抗がん剤治療の目的について解説しましょう。

抗がん剤は、がんを完全になくすことを目的としたがんの種類(白血病など)や再発予防用もありますが、現代がん治療においては、手術で全部切除できないときの固形がんではがんを小さくしたり今以上に大きくさせないという役割が大きいのです。

 

がんで亡くなるのは、最終的にがんが大きくなるからですが、がんは大きくなると周囲を圧迫し始めます。

腸を圧迫したら腸閉塞に、神経を圧迫したら痛みが出ます。また、大きくなるとほかの臓器に転移してまたそこで圧迫を起こし…と、全身の状態が悪化していき命にかかわるのです。

 

ということは、大きくならずに現状維持できれば、たとえ完全になくならないとしても『判定勝ち』と考えていいわけです。

現代のがん治療の大きな進歩のひとつは、抗がん剤で判定勝ちに持ち込むチャンスが増えたことでしょう」(押川勝太郎先生)

 

抗がん剤の副作用

また、抗がん剤の副作用として有名なのが吐き気ですが、近年はかなり緩和されているといいます。

 

「今は吐き気で苦しむ人はかなり少なくなっているんです。というのは、吐き気止めの薬がとても進化しているからです。

 

私は吐き気が強く出る抗がん剤を使うときは、抗がん剤治療を始める前から4種類の吐き気止めで備え、さらに治療開始後も患者さんに頓服の吐き気止めを追加で3種類処方するときもあります。

 

抗がん剤の薬自体は、実は何十年も前から同じものを使うこともありますが、吐き気止めが格段に進化したために、かなりコントロールできるようになりました。

 

抗がん剤治療は、がんの種類やステージ、『何のために治療をするか』という目的によって薬の種類や量などが変わってくるため、一律なものではありません。

がんを大きくしないことで痛みを抑える『間接的な痛み止め』として使うことも多く、できるだけ体への負担が少ない形で治療を行うことも、可能なのです」

 

自分の病状や目的が明確でないうちから、「抗がん剤は怖いからやらない」と頭から拒否してしまうのは、治療のカードを手放してしまうことにもなりかねません。

 

「『抗がん剤治療で死ぬほど苦しい思いをした』という人も確かにいると思いますが、それには必ず原因があるはずです。

副作用対策が不十分だった、治療の目的が自分自身でよくわかっていなかった、など医師とのコミュニケーションの問題もあるかもしれません。

 

わからないことは医師に聞きつつ、自分でも勉強しておく。

抗がん剤によってがんがなくなりはしなくても、それ以上大きくならずに痛みが抑えられれば生活の質=QOLが上がります。

それが生存期間、つまり生活と人生の延長につながる場合も多いのです。

 

抗がん剤を頭から拒否する人は、ドラマで描かれたものや知人のケースを思い出しているのかもしれませんが、がん治療は十人十色なので、メリットとデメリットを見極めたうえで、納得してからやる・やらないを決められるといいですね」

 

がんが治る確率が高いのは「先進医療」よりも「標準治療」

抗がん剤とともに、もうひとつ多いのが「がんの先進医療」についての誤解。

 

「がんの先進医療なんて話を聞くと、『お金持ちは選び抜かれた治療を受けるのだろう』というイメージを抱きがちですが、選び抜かれているのは、むしろ標準治療のほうです。

標準治療と先進医療、どっちを選ぶ?イメージイラスト

標準治療というのは多くの人への効果が立証されている治療法のこと

科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であり、がんにおいては手術抗がん剤治療放射線治療の3つに多くのがん標準治療があります。

標準治療は治る確率が高いからこそ国が税金を投入して、保険適用になっているというわけです。

 

先進医療とは?

一方で先進医療というのは、まだ効果が立証されておらず、言ってみれば“実験中”の段階。

データが蓄積されておらず効果が未知数のため、税金を投入すべきかどうかわからない。だから治療費が高いのです。

 

また、先進医療は“効く”というデータを収集中ですから、いいデータを蓄積していくために、大雑把に言うなら治療を受ける人をかなり“選び”ます。条件が限られ、かつ状態のいい患者さんしか受けることができない場合が多いのです。

保険商品で『先進医療特約』というのがありますが、月に100円~数百円と安いですよね? それは受けられる人が少ないからなんです。

 

つまり多くの人にとっての最善・最先端の治療法というのは、標準治療ということなんですね

 

とはいえ、がんが治る可能性があるのなら、先進医療だってなんだって受けたいというのが人情です。

 

「よりよい治療法を探したい気持ちはよくわかります。

もちろんいろいろ調べて、経済的な負担なども考慮したうえで選択するのはアリです。

 

ただ、先進医療は高額ですし、それが本当に効果があるのかわからないから、個人的には『実験医療』と言い換えたいぐらいです。

 

今はがん=死ではない、というのは前回お伝えしましたが、がん治療だけに財産を注ぎ込んでしまうと経済的に困窮して、生活に支障をきたすことだってあるのです。

それを『がんの経済毒性』といい、近年問題視されていることです。

 

また、標準治療をすっ飛ばして先進医療に、となってしまうと、わざわざ治療効果の可能性の高いほうを手放していることにもなります。

そうしているうちに、がんが進行してしまうことだって十分あり得ます。

 

先進という言葉だけに惑わされないで、標準治療の本来の意味を知り、治療の目的や経済的な問題まで含めて選ぶようにしていただきたいと思います

 

 

【教えていただいた方】

押川勝太郎
押川勝太郎さん
腫瘍内科医師
公式サイトを見る

宮崎善仁会病院内科・腫瘍内科非常勤医師。抗がん剤治療と緩和医療が専門。NPO法人宮崎がん共同勉強会理事長。がん化学療法の専門家として、6年前からYouTubeチャンネル「がん防災チャンネル」を主宰し、がんに関する正しい情報を発信し続けている。著書に『新訂版 孤独を克服するがん治療 患者と家族のための心の処方箋』(サンライズパブリッシング)などがある。

イラスト/macco 取材・文/遊佐信子

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