抗生剤で菌は死ぬが、カビは死なない
抗生剤は細菌性の感染症である膀胱炎、肺炎、気管支炎、細菌性腸炎の治療をはじめ、歯の治療で抜歯後の感染症を予防する目的などで使われます。
誰でも一度は服用したことがあるのではないでしょうか?
「抗生剤は大きな分類では、細菌をやっつける抗菌薬に含まれます。日本の医師は本当によく抗生剤を使います。
例えば、風邪をひいて病院を訪れると、何種類かの薬が出され、その中に抗生剤が含まれていることがあります。しかし、抗生剤は菌をやっつける薬なので、ウイルス性の風邪には効きません。効かないだけでなく、腸内環境を乱して免疫機能の低下を招くことにもなりかねません。
もちろん必要な場合にはとても有用な薬です。しかし、乱用することで抗生剤が効かない耐性菌を増やすことがあります。これにより、本当に必要なときに効かないことになります。
そこで2017年に厚生労働省から、『感冒(風邪)に対しては、抗菌薬(抗生剤)投与を行わないことを推奨する』と医師向けの手引きが公表されたほどです。
また、長期に服用することで腸内細菌の悪玉菌だけでなく、善玉菌まで含めて殺してしまいます。抗生剤を1週間服用すると全滅するといわれています。
それならカビも退治できるのでは? と思えますが、カビは真菌の仲間で菌類とは違います。そのため、抗生剤はカビには効きません。
すると腸内細菌が善玉菌も含めて全滅する一方で、カビだけは生き残り増殖します。腸内細菌は一時的に死滅しても服用をやめれば元に戻りますが、カビの増殖により腸内環境は悪化します」(内山葉子先生)
ほかにも長期服用が問題になる薬はあるのでしょうか?
「胃酸を抑える制酸剤です。逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の治療などに短期的に使われるものですが、これを長期に使用している現状があります。
通常、胃の中は強酸性で外からの菌やカビなどの微生物の侵入を防いでいます。しかし、制酸剤を長期に服用することで、胃内の酸性度が低くなってしまい、本来入ってほしくない微生物の侵入を許してしまいます。こうやってお腹のカビは増えていきます。
最近よく聞くのが、胃がんの原因とされるピロリ菌除去のケースです。
ピロリ菌除去のためには抗生剤を1週間飲む必要があります。すると腸内細菌が死滅するのに加え、胃内の酸性度が高くなり、胃もたれや胸やけが起こることが。これが逆流性食道炎の症状と似ていることから、胃酸を抑える制酸剤を処方されることがよくあります。
通常、制酸剤は短期使用が原則ですが、これを長期に服用してしまうと、胃内の酸性度が慢性的に低くなります。その結果、カビが増殖してさまざまな症状が現れ、さらにほかの薬が処方されることに。こうして服用する薬が増えていきます。
ほかにも、血液をサラサラにする薬、ステロイド、痛み止め、ピルなどを長期に服用すると、胃酸を低下させてカビ増殖の原因になります」
抗生剤を飲むときは、和食などで腸内細菌を整えて!
もちろん抗生剤や制酸剤を飲まなければならないこともあります。そんな場合はどうしたらいいのでしょうか?
「第一に本当に必要な薬なのかを確認したうえで、期間を守りながら服用します。
抗生剤は腸内細菌を死滅させてしまうので、こんなときこそ食べるものに注意するといいでしょう。
抗生剤の服用中はジャンクフードをやめて、一汁三菜といった和食を中心に、良質なタンパク質と善玉菌を増やす食物繊維や発酵食品を適度に入れたバランスのいい食事を心がけます。
乳酸菌などのプロバイオティクス(体にいい影響を与える微生物)の摂取もいいですね。
そして、無理をせずにゆっくり休むこと。十分な睡眠時間をとるように心がけてください」
【教えていただいた方】

「葉子クリニック」院長。関西医科大学卒業。大学病院・総合病院を経て、福岡県北九州市で「葉子クリニック」を開設。総合内科専門医、腎臓内科専門医。本当の健康とは「心」「体」「スピリット」が整った状態と考え、西洋医学だけでなく、東洋医学、自然療法、民間療法も取り入れてホリスティックに治療を行う。著書に『おなかのカビが病気の原因だった』(ユサブル)、『パンと牛乳は今すぐやめなさい!』(マキノ出版)、『デジタル毒』(ユサブル)など多数。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子