家族の「にわかドクター化」は治療の失敗を招きかねない
夫や親、きょうだいががんになる…50代なら十分に考えられることです。
家族ががんになったとき、どう支えていけばいいのでしょうか?
「現場でよく直面するのは、患者さん本人と家族の意思が食い違っているケース。
① 親など、高齢者ががんになった場合
高齢者は抗がん剤の副作用が強く出ることが多いのですが、家族としては苦痛や体への負担が大きすぎるくらいなら、完治ではなくても付き合っていければと思っていたりします。
でも本人は完全にがんをなくすことを望んでいる。
②仕事を持っている人ががんになった場合
本人は仕事と治療を両立したいと考えている一方で、『無理しないでほしい』『治療に専念してほしい』と周りの家族が退職を促してしまう。
今はがん=死ではなく、がんになったあとも長く人生が続くことが多いので、がんをどう治すかだけでなく、『よりよい人生を送るために』という視点は欠かせません。
それには『なんのために治療をするのか』という目的の部分を、患者さん本人と家族との間で方向性をそろえておくのが大切です。
考えが折り合わないときは?
とはいえ、考えが折り合わないことはもちろんあります。
その場合は主治医かソーシャルワーカーに仲介役として入ってもらうのがおすすめです。
ただ、限られた時間内で患者や家族の状況、すれ違いのあれこれを伝えるのは難しいことも。
そんなときにはこの連載の第5回でもお伝えした『手紙作戦』で、家族の気持ち、家での患者本人の様子などを伝えるといいでしょう」(押川勝太郎先生)
さらに注意したいのが、家族の「にわかドクター化」
「なんとか家族のがんを治したいと必死でネット検索して、さまざまな知識を集めようとする方も多いです。
それは当然の心理ですが、ちまたの『がんの予備知識』的なものには根拠のないものも。
例えば代替療法やサプリなどを強くすすめたり始めさせたりすることは、よかれと思ってしたことでも、患者さんにとって大きなデメリットになり得ます。
標準治療を受けずに代替療法を最初にやることで、がんの死亡率が倍になるというアメリカでの研究データもあるくらいです。(※2018 American Medical Association)
補完代替療法に時間を取られて標準治療を始めるタイミングが遅れ、その間にがんが進行してしまう…なんて、それこそ本末転倒です」
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がん患者の家族は頑張りすぎてはいけない!
家族ががんになったら、いったい何をしたらいいのでしょうか?
「まずは本人に寄り添うことです。がんになった自分をそのまま受け入れてくれる家族というのはありがたく心強い存在です。
励ましたい、元気づけたいと思いながら何を言えばいいのかわからないという人も多いものですが、気の利いたひと言なんてなくても大丈夫。
がんの正しい情報を一緒に集めるなど協力する一方で、何気ない日常会話、今までと変わらない接し方がありがたいという声もよく聞きます」
もうひとつ大事なことは、家族が頑張りすぎないこと。
「がんとわかったら入院や手術など治療にまつわるさまざまな手続き、お金のこと、患者以外の家族の世話、自分自身の仕事…患者本人と同じくらい、家族にもさまざまな問題や負担が発生します。
もちろん、大切な家族ががんになったことへの不安や恐れもあります。
その大変さゆえ『がん家族は第二の患者』という言い方をします。
患者のために頑張ろうと無理をしすぎると、共倒れになってしまう可能性があります。
家族がダウンしてしまうと患者さん本人の支えもなくなり、治療の成否を左右しかねない恐れもあるのです。
そうならないためには、患者さんのこととは別の、自分自身の楽しみや趣味を持つなど、自分の生活を大切にすること。
中には『とてもじゃないがそんな気分にはなれない』という人もいるでしょう。
でもこれはなにも、『患者さんの苦痛や頑張りを尻目にラクをしましょう』ということではありません。
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患者さんはストレスが強くかかるとわがままになったりします。
支える家族の側に余裕がないと、わがままに付き合うことができず、家族間がうまくいかなくなることも多いのです。
長い治療生活を持続させるには支える側の心の余裕、生活の余裕は不可欠。
家族がすべきことは、患者さん本人と一緒に苦しむことではないのです。
例えば、マラソンやランニングの練習時に、自転車などで伴走することがありますよね。
伴走する人は、ゴールや練習の目的を走者と共有しつつ励ましますが、自分自身が走ることはしません。
それと同じことが患者さん本人と家族にもいえます。
患者さんが抗がん剤の副作用で食欲がなくても、家族は別のところで好きなものを食べ、患者さんを支える体力・気力を養うのが正解です。
家族の苦しい気持ちやつらさ、生活上のさまざまな問題などは、がん相談支援センターや患者会などに相談できます。
ぜひ抱え込まずに、積極的に話したり相談してほしいと思います」
【教えていただいた方】

宮崎善仁会病院・腫瘍内科非常勤医師。抗がん剤治療と緩和医療が専門。NPO法人宮崎がん共同勉強会理事長。がん化学療法の専門家として、6年前からYouTubeチャンネル「がん防災チャンネル」を主宰し、がんに関する正しい情報を発信し続けている。著書に『新訂版 孤独を克服するがん治療 患者と家族のための心の処方箋』(サンライズパブリッシング)などがある。
イラスト/macco 取材・文/遊佐信子