食後すぐ歩くと血糖値は下がるのか? 実験開始!
血糖値モニター4名へのミッションは、食後に運動しない日と食後すぐにウォーキングした日では、血糖値がどう変動するのか比較すること。
その結果、血糖値の急上昇を抑えられた人が2名、あまり変化がなかったのは2名と分かれました。
明らかに違いが出たHさんの例を見てみましょう。
ウォーキングした日もしない日も、朝食は同じメニューです。パニーニ(卵、ハム、マヨネーズ)、野菜スープ、りんご、紅茶
運動していない日は血糖値が急上昇して、ピークは約180mg/dLに。
ところが、食後に40分ウォーキングをした日はピークが140mg/dL程度で抑えられています。
やさしい内科医こと山村聡先生、この違いはどう解釈しますか?
「ウォーキングした日としない日で、まったく異なりますね。わかりやすい推移になりました。
朝食後に運動しなかった日は血糖値スパイクに近い急上昇。歩いた日は急上昇が抑えられ、食事から吸収されたブドウ糖がすぐに全身で消費されているのがわかります。
この方は、サンドイッチにフルーツも食べているので糖質量が多めなんですが、40分歩いたことでちゃんと消費できたことになりますね」
ですが、2名は効果があり、他の2名はそれほど効果が出なかったのはなぜでしょう?
「血糖値の動きには個人差がかなりあります。もともとの筋肉量の違いもあるかもしれません。
ウォーキングの速度や距離も左右したと思います」
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食後すぐの運動は血糖値を下げてくれる
血糖値が上がりやすい人は、やはり食後に歩いたほうがいいでしょうか?
「はい、まずは食後に15分、できれば30分歩いてほしい。
血糖値のピークは食後30分くらいに来るので、そこである程度消費しておくとピークを抑えることができます」
食後すぐに運動すると、消化に悪いような気がします。
「それほど気にしなくてもいいと思いますし、食べた分からどんどん消化吸収されて血糖値が上がってきてしまうので、血糖値が上がりやすい人は、すぐに動き出してほしいんです。
散歩でもいいし、階段の上り下りもいいでしょう。食後は歩くのさえしんどい、なんていう人は食べすぎです。程よく運動ができる程度の食事が理想と思ってくださいね。
おすすめしているのはオフィスから15分〜20分くらい歩く場所にランチを食べに行き、20分で食べて20分歩いて帰ってくること。
これだけでも血糖値スパイクを防げますし、昼食後に眠くなることも避けられますよ」
スクワットで血糖値スパイクを防げるか? ガチ検証!
次のミッションは、スクワットです。
食後にスロースクワット(1回に8秒程度かけてゆっくり)を20回以上。行った日と行わない日を比較します。
その結果。
4名のうち血糖値の急上昇が抑えられたのが2名、あまり変化がなかったのは2名。ウォーキングと同じく差がありました。
明らかに違いが出たTさんの例を見てみましょう。
スクワットした日もしない日も、同じ食事です。ハムエッグ、ベビーリーフ、ご飯(白米、玄米、もち麦)、味噌汁、ヨーグルトとブルーベリー。
Tさんは血糖値が上がりやすい自覚があり、ご飯の量を控えめにしていますが、運動をしていない日はピークが180mg/dL近くになってしまいました。
ところが、食後にスクワットを40回した日は140mg/dL以下に収まっています。
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「スクワットによってみごとに血糖値スパイクが抑えられていますね。
40回という回数も大きかったと思います。
スクワットは大きい筋肉(お尻と太もも)を動かせるので効率よくエネルギー消費ができます。それで我々もおすすめするんですが、正直20回くらいでは、糖を消費できないのかもしれません。
間にインターバルを入れてもいいので、20回を数セットやれるといいですね。
『私に運動は無理』という人は、食事の糖質量を減らしてください。
例えば、ランチのご飯の量を半分にし、その代わり血糖値を上げないタンパク質を増やしてみてはどうでしょう」
食後の運動、結局どれがベスト?
今回ウォーキングとスクワットをミッションに選んだのは、有酸素運動と無酸素運動では血糖値を調整する効果に違いがあるのか知るためでした。
どちらも効果に個人差のあることがわかった今、何を指標にしたらいいでしょう?
「エネルギー消費という意味では、有酸素運動も無酸素運動も血糖値を抑える効果はあります。
続けないと意味がないので、自分がやりやすい運動を選べばよいと思います。
有酸素運動は脂肪を落とすのに向いているし、無酸素運動は筋肉を大きくしたり、筋肉量を維持することができますよ」
筋トレで、逆に血糖値が上がる人もいると聞いたことがあるのですが…?
「筋肉が少ない人、つまり筋肉に蓄えられている糖エネルギーの量が少ない人は、運動時にエネルギーが足りないということで、肝臓に貯めていた糖が血液に出てきます。そのとき、一時的に血糖値が上がっているんじゃないかと推察します。
研究がまだ進んでいないので、個人差の要因はわかりにくいんですよ。
どちらにしても、自分が何を、どの程度やれば血糖値が下がるのかを知ることは大切だと思います。リブレのような血糖値を測定できる機器で、一度、自分の血糖値の動きを知っていただけるといいですね。
ただ、正直言って運動で消費する糖の量は微々たるものです。
血糖値は摂取した糖質量に大きく左右されるので、まずは食事を適量にすることが大事です。
炭水化物はできるだけ食事の後半に食べること。そして、糖質をとりすぎないことを肝に銘じましょう」
【教えていただいた方】

九州大学医学部卒業。2025年12月に「やさしい内科クリニック」を開院。糖尿病啓発・予防のため血糖値に関するSNS発信を行っている。豊富な診療経験をもとに、一人一人のライフスタイルに合わせた血糖値改善、ダイエットプログラムの開発にかかわるなど、病気の予防と医療の架け橋として活動中。
自らの体を実験台にしてさまざまな食材の血糖値を測定するYouTubeチャンネル「やさしい内科医のY's TV」が人気。登録者数は8万人超。初の著書『糖尿病専門ドクターが検証! 血糖値を下げる食事法について、実際に試してみた』が3月に発売される。
※血糖値の変動には個人差があり、モニターの結果はあくまで一例です。同じ食材をとっても人によって、また食べるタイミングなどによって変化します。
※モニターはFreeStyleリブレ2を2週間装着して間質液中のグルコース値を測定しました。間質液中のグルコース値は血糖値と相関することが知られています。この記事中では、間質液中のグルコース値を「血糖値」としています。
取材・文/蓮見則子