"腸活"ブームで腸内環境が大切であるという認識が広がりましたが、今、医療界・産業界が熱いまなざしを注ぐのは、腸の中でも「大腸」にすむ腸内フローラ! その可能性が、日々解明されつつあります。
[腸の中でも「大腸」の腸内フローラに注目]の後編です。
TOPICS3
個人の健康情報が詰まった便は「茶色い宝石」
「便の話をすると、汚いと思う人も多いかもしれませんが、実は便には皆さんの健康状態を評価する鍵となる、腸内環境の情報が詰まっています。そのため私は、便のことを "茶色い宝石" と呼んでいます。実際に海外では、便の国外持ち出しを禁止している国もあり、ある首脳会議では、某国のリーダーが排便の際、トイレに流さず持ち帰ったともいわれています。
便の中には腸内フローラをはじめ、彼らが作り出した代謝物質も含まれています。それらを調べることで、その人の食習慣や病気のリスクが推し量れるのです。つまり、便=貴重な個人データ。一国のリーダーの健康状態は重要な機密事項というわけです。また、腸内フローラの中にはまだ詳細が明らかになっていない菌もあり、便の中に、将来難病を治す力を持つ細菌が眠っている可能性もあります。各国がレアメタル資源を争うように、薬の開発に向け、腸内細菌がターゲットになっています」と福田さん。
たった1gの便の中に1000億個もあるとされる腸内細菌。今、その「健康に役立つ可能性」に熱い視線が注がれています。
TOPICS4
腸内フローラは薬の効き目も左右する!?
ノーベル賞受賞で話題になったがん治療薬「オプジーボ」は、効果に個人差があります。
「保険適用ですが高価な薬のため、効果が得られるタイプの腸内環境か、もしくは効果が得られる腸内環境に改変してから投薬するなどの研究もされています。腸内環境は薬効にも影響するのです」(福田さん)。
また、2018年には科学誌で、FDA(米国食品医薬品局)が承認している薬の約24%が腸内フローラを変えてしまう可能性があるという報告も。
「抗生物質が腸内細菌を殺して腸内環境を変えてしまうように、他の薬の一部も腸内フローラのバランスをくずす可能性があるのです。2019年の報告では、多くの薬が腸内細菌により別の形に変えられてしまうと報告されています。薬と腸内フローラは、こんなにも関係し合っているのです」
TOPICS5
腸内フローラは「ひとつの臓器」という考え方が主流に
これまでの医療の対象は、臓器や血液といった人の身体の組織でした。
「しかし、臓器や細胞だけでは解明できない病気も数多く存在します。現在、そういった病気に腸内フローラが関与している可能性が示唆されています。腸内細菌は私たちの腸管にすみついている微生物。私たちの食べた物の未消化物をエサにして、さまざまな代謝物質を腸内で作り出しています。これが腸管関連の疾患だけでなく、アレルギーなどの免疫系や、糖尿病・動脈硬化などの代謝系、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経系疾患にも関与しているのです。このように身体にとって重要な機能を果たす腸内フローラは、ひとつの臓器ととらえることが重要だと私は考えています」
腸内フローラは体全体とかかわり合っている!
腸内フローラはさまざまな代謝物質を産生して、
他の臓器や神経などとも連携して全身とかかわっていることが解明されつつあります。
健康を考えるうえでとても重要な「もうひとつの臓器」なのです。
次回は、「腸内フローラの最新知見」をご紹介します。
インフォグラフィック/ZOE イラスト/内藤しなこ 取材・原文/伊藤 学