すごいぞ腸内フローラ!
腸内環境の研究が進む今、いかに私たちの健康に腸内フローラが大きくかかわっているかがわかってきました。
「腸内フローラ最新知見」の後編です。
⑤出産やスキンシップが子どもの腸内フローラに影響!?
ある種の昆虫や牛や馬は、母親の排泄物を食べることでその腸内フローラが子どもに引き継がれます。胎児は無菌状態ですが、人間の場合も分娩時に産道を通るとき母親の膣内にいる細菌が子へ伝播します。
「多くの菌に触れることで腸内フローラの多様性が充実し、体内の免疫システムが育まれます。最近は帝王切開で出産する人も多いですが、その場合は母親の皮膚の細菌が子どもへ多く受け継がれます。また、スキンシップや入浴でも "菌の受け継ぎ" は可能です。最近、除菌対策が盛んで泥遊びをさせない人が増えていますが、それがアレルギー疾患の増加に関係しているという報告もあります。腸内環境が形成される3歳頃まではたくさんスキンシップをしてください」
⑥乳酸菌発酵食品は"自分の腸に合うもの"を探すのが大事!
多くの商品があって何を買えばいいのか迷う乳酸菌発酵製品。
「さまざまな効果を謳った商品がありますが、選ぶときのポイントはひとつです」と福田さん。
「それは "自分の腸内環境に合うかどうか"。一人一人腸内フローラのバランスが異なるため、自分に合った乳酸菌発酵食品を見つけるにはスクリーニングが必要です。方法は簡単。気になる製品を₂週間食べ続けることです。₂週間後、体調がよくなっていれば、相性がいい製品といえます。体調が変わらない場合は別のものを同様に何種類か試して、最も体調がいいと感じるものを選びましょう」
⑦肥満抑制、うつ病解消に関する腸内細菌の研究も進んでいる
肥満に関与する腸内細菌については「大腸菌など、グラム陰性菌と呼ばれる種類の腸内細菌は、"リポ多糖" という成分を持っています。このリポ多糖が血液中に増えると、脂肪細胞に作用して肥満につながる可能性が示唆されています。実際に、太っている人の血中にはリポ多糖が多い傾向が。逆に、腸内フローラが作り出す短鎖脂肪酸は体重減少にかかわることも報告されています。また、うつ病の人の腸内フローラにはビフィズス菌や乳酸桿菌などが少なめであることもわかっています。このように、腸内フローラはさまざまな疾患に関係している可能 性があるのです」
⑧難病に対する根本治療の糸口ともなりうる 「便移植」にも注目!
健康な人の腸内フローラを病気の人の腸内にそのまま移す「便微生物叢移植療法」、通称 "便移植" という治療法が話題です。他人の便を自分の腸に移植するなんて! と衝撃を受けるかもしれませんが、「すでに日本でも、難病指定されている潰瘍性大腸炎などの疾患治療に向けて、便移植の臨床試験が進められています」と福田さん。
その仕組みはいたってシンプル。 健康な人の便を生理食塩水と混ぜ、フィルターで濾過して、その液体を大腸内視鏡を使って患者の腸の中に注入するという方法です。
「これは、腸内フローラのバランスの乱れがかかわっていると考えられる腸の病気や、代謝・免疫の疾患にも適用できる可能性がある治療法です。便は今、薬にもなりうるのです。
次回は、「大腸&腸内フローラの基礎知識」をご紹介します。
イラスト/内藤しなこ 取材・原文/伊藤 学