ビタミンDが免疫調整に関与していることが明らかに!
ビタミンDというと、カルシウムの体内への吸収を促し、骨を丈夫にする働きがよく知られています。しかし、近年になって、ビタミンDにはもっとさまざまな生理機能があることが明らかになってきました。
「そのひとつが、免疫システムを正常化する働きです」と話すのは、国際オーソモレキュラー医学(分子整合栄養医学)会会長の柳澤厚生先生です。
「私たちの皮膚や免疫細胞にある“受容体”にビタミンDが結合すると、『抗菌ペプチド』というものが合成されます。抗菌ペプチドは生物が菌と戦うために本来備わっている生体防御機能のひとつで、有害な菌が細胞を攻撃するのを無力化します。
これにより、皮膚や口腔内、消化器などのバリア機能が高まるので、風邪やインフルエンザなどの感染症、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患などを予防したり、悪化を防ぐことができるのです」
それ以外にも、うつなどのメンタル症状、糖尿病や心血管系の病気、がんなどとビタミンDの関係の研究も進んでいるとのこと。
感染症リスクが42%減少した実験結果も!
「このビタミンDの高い抗ウイルス作用に関しては、慈恵医科大学の分子疫学研究室で行われた研究が参考になります。実験は、6~15歳の小中学生334人を対象に、A型インフルエンザの流行期12~3月の4カ月間にわたって行われました。
167人にはビタミンD3を1日1,200IU、別のグループの167人にはプラセボ(偽薬)を摂取してもらいました。その結果、インフルエンザにかかった人数は、プラセボ群では31人、ビタミンD群では18人でした。比率に換算すると42%も減少したことになり、これは注目すべき数字です」
「また、米国エール大学で行われた研究も興味深いものです。健康な成人198人に1カ月ごとに血液中の総ビタミンD濃度(血清25-(OH)D値)を測定して、急性ウイルス性呼吸器感染症の罹患との関係を調べたのです。
結果、血液中の総ビタミンD濃度が38ng/ml未満の被験者の感染者は100件、一方、38ng/ml以上の群では3件だけでした。つまり、血液中の総ビタミンD濃度が高いほど、罹患リスクが減少し、罹患日数も大幅に短縮されたのです」
ビタミンDが欠乏していると
新型コロナウイルスによる死亡率が10倍高まる!
「新型コロナウイルスに関しても、ビタミンDの低下が死亡率に関係するという報告がつい先頃入ってきました。
インドネシアの公立病院に新型コロナウイルスで入院した患者のうち、生存者400人と死亡者380人について電子カルテを分析したのです。その結果、持病のある高齢者男性の死亡率が高いのは周知の通りですが、加えて、血液中の総ビタミンD濃度の低下も死亡率と関係があると考えられたのです。
生存者の93%が入院時の血液中の総ビタミンD濃度が正常値であったのに対し、死亡者ではわずか4.2%でした。すなわち死亡者の95.8%に血液中の総ビタミンDの低下(30ng/ml未満)もしくは欠乏(20ng/ml未満)が認められたわけです。
これは、血液中の総ビタミンD濃度が低下している場合、正常値の人と比べて死亡率が7.6倍、欠乏している場合は10.1倍も高くなることを意味しています。この論文は、大手医学雑誌を出版するElsevier社が運営する、発表前の論文を自由に公表できるサイト『SSRN』で公開されています」
また柳澤先生によると、今年3月には、米国の疾病対策センターの前所長トム・フリーデン医師がFOXニュースのインタビューで『ビタミンDは新型コロナウイルスの感染リスクを減らす可能性がある』と発言。アメリカ国立アレルギー・感染症研究所の所長も、新型コロナウイルスに対するビタミンDの臨床試験に積極的な見解を示しているといいます。
しかし、日本人は慢性的なビタミンD不足…
日本では、厚生労働省が定めたビタミンDの1日の食事摂取推奨基準は男女とも8.5㎍。これに対し、実際の平均摂取量は女性が7.5㎍です(2015年度)。ちなみに、米国の推奨基準は15㎍。ただでさえ諸外国に比べて基準値が低く設定されているにも関わらず、その基準にも満たないという日本は、いま、慢性的なビタミンD不足が懸念されています。
「ビタミンDは、食事から摂取するほか、太陽を浴びることによって皮膚でも合成されます。しかし最近の女性は、日焼け止めを徹底するあまり皮膚での合成が期待できないことも、ビタミンD不足に拍車をかけていると考えられています。
実際に慶應義塾大学医学部付属病院の女性勤務者571人に血液中ビタミンD濃度の測定を実施したところ、日照時間が長い9月に実施されたにもかかわらず、正常値に達していた人は30%以下で、約70%の人がビタミンDの低下状態、もしくは欠乏状態でした」
ビタミンDが豊富な食材は、タラ、メカジキ、マグロ、サケ、サンマ、イワシなどの魚類、牛レバー、卵黄やバター、チーズ、シリアル、干しシイタケなど。
(※参考/厚労省『統合医療に係る情報発信等推進事業』サイト)
ビタミンDは脂溶性なので、脂質を含む動物性食品からのほうが吸収しやすく、シイタケなどは油と一緒に摂ると吸収率がアップします。ちなみに、シイタケは日光に当てるとビタミンDが増えるので、生シイタケは使う前に天日に干すという方法もあります。
そして前述のとおり、紫外線を1日15~20分浴びることも大切です。「特に、紫外線量の少ない冬が終わった春の時期は、日本人の70〜80%で血液中のビタミンD濃度が低下しているという報告があります」と柳澤先生。
近年、にわかに脚光を浴び始めたビタミンD。新型コロナウイルス対策においても、積極的な摂取を心掛けたい栄養素のひとつと言えそうです。
次回、最終回では、免疫力アップに必須の栄養素の3番目「亜鉛」について。またビタミンCやD、亜鉛の効果的な摂取方法についても詳しくお伝えします!
柳澤厚生さん(やなぎさわあつお・医師)
国際オーソモレキュラー医学会(カナダが本部)会長、点滴療法研究会会長。杏林大学保健学部救急救命学科教授、国際統合医療教育センター所長などを経て、2012年より現職。日本でいち早く高濃度ビタミンC点滴療法を導入した、点滴療法の第一人者。著書多数。
イラスト/しおたまこ グラフ作成/ビーワークス 取材・文/山村浩子