便秘が続くと死亡率が上昇!
慢性的な便秘の人は死亡率が高まるという研究報告が複数あります。「日本で行われた、一般の人を対象にした大規模コホートデータで、排便頻度の低い人は、多い人に比べて、循環器系疾患の死亡リスクが有意に増加するという結果が。便秘症の人では、体によい影響を与える短鎖脂肪酸の中でも、特に酪酸菌が減少しており、食べた物が大腸を通過する時間が長くなることがわかっています」
腸内細菌だけじゃない! 腸管バリアに注目
「腸の上皮細胞は粘液層に覆われていて、水分や栄養の吸収を担うとともに、有害な菌や物質などの侵入を防ぐバリア機能が備わっています。しかし、ここに炎症が起こり、腸管がむき出しになると、病原体などが侵入し、消化器系疾患だけでなく、肥満や糖尿病、肝臓や腎臓の疾患、精神疾患など、さまざまな病気を引き起こす原因に。
腸管バリアを守るには、水溶性食物繊維の摂取などで、短鎖脂肪酸の中でも酪酸菌を生成することが有効と考えられています」
●腸管バリアの機能が低下すると…
炎症などが進むと、上皮細胞のガードの役目が弱くなり、病原体などが侵入しやすくなります。
上皮細胞は粘液層に守られていると、病原体を跳ねのけて、体内への侵入を許しません。バリア機能は良好です
炎症が進むと、細胞同士をつなぐ接着装置が壊れ、粘液層が破綻し、病原体が容易に侵入しやすくなります
運動で短鎖脂肪酸の中の酪酸菌がアップ!
食事だけでなく、運動習慣も腸内細菌のバランスに影響を与えます。「息が上がる程度の、やや強めの運動を30~60分間、これを週に3回×6週続けると、体にさまざまなよい影響を与える短鎖脂肪酸の中の酪酸菌が増えることが報告されています。
しかし、運動の習慣をやめると、酪酸菌も減ってしまうので、継続することが重要です。プロのアスリート群でも酪酸菌の増加が認められています」。早足で歩くといった軽い運動でもいいので、1日30分の運動を習慣づけることで、腸内細菌も元気になりそうです。
●運動で酪酸産生菌が増える
運動前と運動後、運動中止後で、酪酸産生菌の値を測定。その増減は、特に普通体重と痩せぎみの人で顕著に現れました
便移植で難病を治す可能性も!
健康な人の便を病気の人に投与する「便移植療法」の有効性が報告されたのは2013年。難治性偽膜性大腸炎の治療に高い効果が示され話題になりました。
「それから10年間で、さらに有効性や安全性、ドナー選択の問題などが検討され、日本においても順天堂大学を中心に研究が続けられています。カプセル製剤の開発も進んでいて、2022年11月にはアメリカやオーストラリアで便移植が治療薬として認可されました」。さまざまな難病治療に、便を利用した療法の開発が進んでおり、その期待が高まっています。
薬が細菌叢に与える影響とは?
抗生剤が腸内細菌叢に大きな影響を与え、1週間飲むと細菌がほぼゼロになる…といった報告もあります。「一時的に細菌が減っても、投与をやめればすぐに元に戻ります。注意しないといけないのは、2歳以下の子どもへの長期投与です。これは一生に影響するだけの腸内細菌の変化を引き起こします。
また中年期では、その後、認知機能が低下する可能性が示唆されています。抗生剤がまったくいけないのではなく、必要に応じて適量を守ることが大切といえます」
日本消化器免疫学会理事、日本抗加齢医学会理事。酪酸産生菌と健康長寿の関係を研究。著書に『すごい腸とざんねんな脳』(総合法令出版)など多数
イラスト/SHOKO TAKAHASHI 内藤しなこ 構成・原文/山村浩子