パソコンやスマホが手放せない現代において、肩こりは現代病のひとつ。「私のところにもひどい肩こりを訴える多くの患者さんがいらっしゃいます。その方々をひと目見るだけで、その原因がわかります。そろって姿勢が悪いからです」と武田淳也先生。
背中が丸まり、骨盤が後傾し、頭が前に出ている姿勢が元凶!
「この姿勢を続けている限りは、整形外科をはじめ、整骨院、鍼灸・マッサージなどの施設を訪れても、根本的な解決にはなりません。一度、自分の何気なくしている、いつもの姿勢を写真に撮るといいですよ!」
どんな姿勢や動きもそうですが、自分ではちゃんとしていると思っても、イメージ通りにできていないものです。写真に撮ったり、人とペアになって、客観的に観察することが大切です。
「成人の頭の重さは約5~6kg。これを首や肩、背中の骨や筋肉が支えていて、うつむくとその数倍の負荷が首にかかります。アメリカの脊椎専門医のハンスラー氏の研究によると、前に傾く首の角度が15度になると12kg、30度で18kg、45度で22kg、60度では27kgの負荷がかかります」
27㎏といえば8歳児の平均体重に相当するとか。この姿勢でパソコンやスマホの操作をすることは、その間中ずっと、首の後ろに子どもを乗せているのと同じです。肩がこるわけです(笑)。
長引く場合は頸椎の病気を疑って!
「肩こりがひどくなると、頸椎の椎間板ヘルニアや頸椎症などの病気へと発展している可能性もあります。頸椎椎間板ヘルニアは7つある頸椎の間にあるクッションである椎間板の中の髄核というゲル状の組織が、外に飛び出してしまった状態のことです。 これが神経を圧迫することで、痛みやしびれなどを引き起こします。
頸椎症も首や肩のこりに加えて、神経を刺激して、腕や手のしびれや痛みを伴うことがあります。いずれも加齢とメカニカルストレス(機械的刺激)による組織の変性が原因で、その根源にあるのは、悪い姿勢や長時間同じ姿勢を続けること。そして激しい運動などです。
頑固な肩こりが長引く、またはしびれを伴うようなら、一度、整形外科専門医を受診して、レントゲンだけでなくMRIなどの画像検査で、神経症状を含めて正しい診断を受けることをおすすめします」
背中全体の柔軟性を高めないとダメ!
首や肩のこりだからといって、その部分だけにアプローチしても、肩こりを根本的に解消することはできません。首や肩は肩甲骨や骨盤とも連動しています。その背中全体の広範囲の柔軟性を取り戻すことが大切です。
そこでおすすめなのが、頭から骨盤までの背面を、思い切り丸めて反らすエクササイズです。
1 両手と両膝を床についてよつばいになり、両腕は肩幅、膝は骨盤の幅に開きます。息を吐きながら、首からお尻までの背中全体を丸めて、お腹を引き寄せ、骨盤を後傾させるように意識します。
2 お腹を平らに引き締めた状態を維持し、息を吸いながら、背中全体を均等に反らしていきます。顔は前を向き、骨盤は前傾させるように意識して。
この1、2の頭から骨盤まで、背中全体を全力で丸めて反らせる動きを、数回繰り返します。呼吸を伴うことで、肩甲骨や骨盤の動きをより柔軟にします。背中全体の筋肉の緊張をやわらげて血行を促すことで、肩こりや姿勢の改善を効果的に促します。
日常生活のここに注意! パソコン操作時の姿勢を整える
最初に改善したいのは、パソコン操作時の姿勢です。一日長時間の操作をするのなら、このデスクまわりの環境整備は必須です。
チェックポイントを見ていきましょう。
椅子は両足が床につく高さに、デスクは両ひじが直角になる高さが基本です。デスクが高すぎると肩が上がってしまいます(肩をすくめたような姿勢)。これは肩まわりの筋肉を硬直させる大きな原因です。モニターの位置は真っすぐの目線よりも少し下くらいの位置がベスト。下すぎても、上すぎても、首の負担になります。
「そして、最低でも30分ごとに両腕を回すなどのストレッチをして、肩や肩甲骨まわりを動かし、こりをためないようにしましょう。夜にはゆっくり湯船につかり、体を温めたあとに、『背中を丸めて反らす』ストレッチで体の柔軟性を高めてから寝る習慣をつけるといいでしょう」
【教えていただいた方】
「整形外科 スポーツ・栄養クリニック」(福岡、東京・代官山)理事長。日本で初めて医療にピラティスを取り入れ、独自の「カラダ取説」プログラムの普及に尽力
イラスト/内藤しなこ 構成・文/山村浩子