割と頻繁にフルマラソンなどを走っていると、そんなに運動していたら痩せるでしょう?と言われることがあります。 確かに、定期的に走っていると身体ができてくるのか、例えばお正月に少々食べ過ぎたとしても、そこまで体重の変動はありません。いわゆるお正月太りの心配とは無縁の生活をここ数年送っています。
けれども、以前も書いたように、むしろ体重は筋肉の分増えるので、継続して運動していても普通に食べて(呑んで)いればそこまで劇的に体重は減りません。 それなら食べなければいいのでは?とも(女子としては)思ってしまいそうですが、実は「食べないで運動する」ことは、状況によっては怖いことだということも知りました。 冗談ではなく、場合によっては命に関わることだってあるのです。
え、大げさじゃないの、って? いえいえ本当なんですよ。改めてそんな体験を書いてみようと思います。
低体温症の怖さを目の当たりに
低体温症ってご存じですか?低体温症とは、深部体温(体の中心部の温度)が約35℃を下回ってしまい、体の機能を正常に維持できなくなる状態のことをいいます。 登山とかスキーなどをされる方ならご存じかもしれませんが、普通に生活していたら、まず意識しない症状だと思います。
あるトレイルランニングの大会のスタッフをした時のことです。 毎年10月に開催される大会なのですが、その年は雨で冬かと思う気温でした。特にトレイルの大会は長距離になると夜通しのランになるので、明け方などは相当な寒さです。
その選手は、明け方に私のいるエイド(水や食べ物を用意した休憩所)にやってきました。最初は普通に見えたのですが、ちらちら見ていると明らかにおかしいのです。受け取った食べ物も手に持ったまま、椅子に座ってずっと下を向いています。よく見ると体が細かく震えているようにも見えます。
しばらくして、そのまま出発しようとしたので不安になり声をかけてみたのですが、一見普通に会話できているようで話が微妙にかみ合わないのです。視線もどこか定まっていません。
これはまずいかもと、出発を押しとどめ、待機している看護士さんに来てもらいました。診断の結果は低体温症。 後から聞いたところ、疲れと寒さで胃がやられて食べ物を受け付けず、ずっと吐いている状態だったのだとか。でも、頭が回っていないので、自分の状態に気づかずそのままレースを続けようとしていたわけです。いやー、危ない。
低体温症は、体を温めるために筋肉が震えることによる震えやハンガーノック(低血糖状態で体が動かせなくなること)、意識障害などが主な症状です。 さらに、カロリー(体の中のエネルギー源、主に糖質)を使い果たしてしまうと、その震える動き自体もできなくなります(震えが止まる)。
ここまでくるととにかく身体を温めることが第一なのですが、前述した彼のようにすでに胃などの内臓の動きも落ちていることが多く、食べられないということはエネルギーを身体に取り込めないわけで、こうなると外から温めるしか手段がなくかなり危険な状態です。
実際に、食べられているかの口頭でのメディカルチェックを実施するだけで、大会でのリタイヤや事故が劇的に減ったというデータもあるのです。
でも、こんなのは山みたいな特殊な状況の話でしょ?って思いますか?
実はこの低体温症は、普通のマラソン大会などでもあり得るのです。
例えば1月など気温が低い時期。フルマラソンを走ると通常2℃ほど体温が上がるので、むしろ寒いくらいが走りやすかったりするのですが、このような寒い時期は脚が攣ってしまい走れなくなるトラブルもよく起こります。 止まると汗冷えで体が冷えてきます。歩くなど動き続けていればまだいいのですが、例えば座り込んだりしてしまうと、特に雨の日や気温の低い日は一気に体が冷えることになります。走る距離が短ければ、そこまで体温も上がらないので、やっぱり似たようなことになります。
こんな時、身体の中のエネルギー源が枯渇していたら・・・? そうです、低体温症の危険は街中の運動でも十分あり得るのです。
にっくき脂肪を燃やすにも「燃料」が必要
それでも、日常的に運動しているくらいであれば、カロリーを減らしてダイエットしたい、という気持ちもあると思います。 でも、にっくき脂肪をやっつけるには、その脂肪をエネルギー源として使えなければ減らせません。そしてその脂肪を燃やすためには、そもそも炭水化物という”燃料”が必要なことを知っているでしょうか。
上に書いたように、エネルギーがなければ体温を作れないということは、糖質は「燃料」の役割を持っているといえます。 燃料がなければ火がつかないわけで、火をつけられなければ体脂肪をエネルギーとして使うこともできません。つまり、命の危険はないにしろ、ダイエット中だからといって全く糖質を摂らないことは、がんばって運動しても効果が半減するということなのです。
私の経験をお話ししましょう。手軽に登れる低山に友人に誘われてハイキングに行った時のことです。そのころはちょうど糖質制限ブームで、私も糖質をかなり制限した食事を1週間ほど続けていたところでした。大食漢なので量は割と食べていたと思いますが、その日も朝ごはんに、おにぎりのようなものではなくゆで卵などを食べていった記憶があります。
てくてくと登っていくと、いつもならなんでもないような坂が妙にきつく感じてきました。おかしいなとは思ってはいたのですが、だんだん変な汗が出てくるし、頻繁に休まないと息が上がって歩けません。普段の私を知っている友人もびっくりしています。
そのうち頭もぼーっとしてきてしまい、友人に正直に話したところ、山のベテランである彼女に怒られてしまいました。曰く、いくらケトン体やらが糖質の代わりになるといっても、タンパク質だけでこんな活動のエネルギーに足りるわけがないというわけです。
その後、彼女が持っていたお菓子とおにぎりを食べて無事に復活、下山することができました。
いかがでしょうか。確かにダイエットという観点で見れば、食べる量を制限したり、甘いものを減らすことは効果的なこともあると思います。でも、それなりの運動をするなら、こういうこともあるのです。くれぐれもやりすぎないようにしてください。
低体温症は、暑い時期の熱中症などと違い自分では気が付きにくいと言われています。特に食が細く筋肉が少ない年配の方などは熱を発生しにくく同じような危険もありますから、こんなこともあるのだなと頭の片隅に置いておいてもらえるといいのかな、と思います。