難聴の症状があったら耳鼻咽喉科が正解!
更年期になると、さまざまな不調が現れてきますが、そのひとつに「めまい」があります。更年期でめまいが起こるのはどうしてなのでしょうか?
「めまいの原因には、脳の障害によるものと、内耳や神経の障害によるもの、それに更年期によるものなどがあります。
女性は更年期以前から、月経で経血が失われたり、月経前症候群などで、一時的に脳への血流が減少する脳貧血や立ちくらみなどを経験する人も少なくないでしょう。
特に、更年期のめまいの原因はエストロゲンの分泌が急激に減少することで、自律神経のバランスが乱れること。それに加え、加齢による感覚器官の機能低下、ストレスなどの精神的要因も関係していると考えられています。
めまいは、体がふわふわする『浮動性めまい』、グルグル回るような『回転性めまい』、目の前が暗くなって気が遠くなる『失神性めまい』に分類されます。
更年期のめまいで多いのが、地に足がついていないようなふわふわとした浮遊感のある『浮動性めまい』です。歩いているとき、人混みの中で、立ち上がるなど急に体の位置を変えるような動作をしたときなどに起こりやすいですね。
この更年期によるめまいと思っていたら、実はメニエール病や良性発作性頭位めまい症(BPPV)という耳鼻科の病気であることもあるので注意が必要です」(小川真里子先生)
その違いはどんなところなのでしょうか?
「大きな違いはメニエール病の場合は『回転性めまい』であることです。そして、難聴の症状を伴うことが多いのも特徴です。特に更年期の場合、時々、耳鳴りを伴うことはあるのですが、難聴はないので、もしも難聴の症状があって、ほかに更年期の症状がない場合には、ファーストチョイスとして耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします」
神経質で几帳面な人に多い傾向
「メニエール病は耳の内耳という部分に、内リンパ水腫と呼ばれるリンパ液がたまることで発症します。内耳にリンパ液がたまって圧が高くなってむくむと、三半規管や聴覚がうまくコントロールできなくなります。
なぜ内リンパ液がたまるのか、その原因ははっきりわかっていませんが、30代~50代の女性に多く、神経質で几帳面なタイプの人に発症しやすい傾向があり、ストレスや過労、睡眠不足などが関係しているともいわれています。
『回転性めまい』の前に、多くの場合、難聴、耳鳴り、耳の閉塞感などの聴覚症状が起きます。悪心や吐き気、嘔吐を伴うこともあります。こうした症状が10分~数時間続き、頻度は週に数回~年に数回など人さまざま。早朝から20時くらいの生活時間帯に起こることが多いようです。症状の有無や重さは個人差があります。
耳鼻咽喉科での検査では、症状についての問診のほかに、聴力検査、眼振検査、平衡機能検査、内リンパ水腫の確認のために画像検査などを必要に応じて行うことで、総合的に判断されます」
【メニエール病の検査】
- 聴力検査/聞こえにくい音域、特にメニエール病では低い音が聞こえにくくなります。
- 眼振検査/どのようなめまいが起きているのかがわかります。
- 平衡機能検査/目を開いたままや閉じたままで立てるかどうか、その場で足踏みができるかなどで検査をします。
- 画像検査/MRIで内リンパ液の程度、頭部に腫瘍や血管系疾患がないかも確認します。
- 内リンパ水腫推定検査/利尿剤の投与前後で変化をみるグリセロールテストなど。しかし、MRIの登場でこの検査は少なくなっています。
「治療法は急性発作期には対症療法として、薬物療法が中心になります。抗めまい薬で症状を抑え、嘔吐がある場合は制吐薬、いつ発作が起こるかわからずに不安感が強い場合には抗不安薬などが処方されます。ひどい発作が起きたときは、点滴や注射で対応することもあります。
強い発作が治まっている間欠期には、内耳循環改善薬(抗めまい薬)やビタミンB12、漢方薬などを使いつつ、過労やストレスフルな状態を避け、十分な睡眠をとるなどの生活習慣を整えていくことが大切です。
こうした療法で改善しない難治性の場合は、前庭機能を破壊してめまいを感じなくさせるなどの手術療法を行うこともあります」
良性発作性頭位めまい症も結構多い
「メニエール病のほかに、更年期症状と間違えやすいめまいを伴う病気に良性発作性頭位めまい症(BPPV)もあります。
これは寝返りを打ったり、美容院での洗髪などで、頭を特定の位置に動かした際に、10~30秒続く強い『回転性めまい』です。耳鳴りや難聴などの症状はなく、めまいが起こり、次第に強くなり、やがて消えていきます。
耳石器から脱落した耳石が半規管内に入ることで、めまいを生じる病気です。耳石は炭酸カルシウムからなるため、閉経に伴い骨粗しょう症が増えてくる50代以降の女性に多発します。
これが疑われる場合は、耳鼻咽喉科での眼振検査で眼振の有無を調べます。その方法は赤外線CCDカメラ、フレンツェル眼鏡を用いて、頭位眼振検査、頭位変換眼振検査などがあります。
この病気の場合、症状は自然に軽減することが多いため、抗めまい薬や抗不安薬などの投薬による対症療法が基本です。それで治らない場合は、理学療法による耳石排出や半規管を遮断する手術療法が行われます。
めまいが起こる病気はほかに、脳が関係していることもあります。婦人科や耳鼻咽喉科、脳神経外科など、一度、医療機関に相談してみることをおすすめします」
【教えていただいた方】
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。日本産科婦人科学会・日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医。専門は更年期医療学、女性心身医学、女性ヘルスケア。相談やカウンセリングを中心としたケアサポートとともに、最新のテクノロジーや視点を取り入れて、更年期を取り巻く環境や文化を積極的にアップデート。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子