もの忘れのほとんどが単なる老化です!
最近、テレビを見ていてタレントの名前が出てこない。人と話していて固有名詞が出てこず、「アレ」や「コレ」が増えた。昨日食べた夕飯のメニューが思い出せない。何かをしようと思って部屋を出たが、することを忘れる。財布やスマホをどこに置いたか忘れる…といったことはありませんか?
「私のクリニックにも、こうしたもの忘れがひどくなったのは更年期のせい? それとも認知症なのでは? と不安になって受診する方が結構いらっしゃいます。
でも、そのほとんどが単なる老化による『もの忘れ』です」(小川真里子先生)
この連載では、「更年期症状だと思っていたら、思いがけずに〇〇病だった」という例を紹介してきました。しかし、最終回となる今回の「もの忘れ」については、そのほとんどが認知症ではないという話です。
「単なるもの忘れと認知症の違いは、『もの忘れは食べたメニューや固有名詞を忘れるのに対して、認知症は食べたことなど、経験したこと自体を忘れてしまう』という点です。これは大きな違いです。
私のところを受診した患者さんで、『先日は友人との約束をすっかり忘れてすっぽかしてしまった』と言う方がいました。でもよく聞いてみると、スケジュール帳にメモしていなかったりするのです。
40歳を過ぎた頃から男性ももの忘れが進むことから、原因はエストロゲンの低下とは考えられません。更年期によるこうした脳が関係する不調には、『ブレインフォグ』(頭の中にモヤがかかったようなぼんやりした症状)や『集中力の低下』はありますが、実は『もの忘れ』はありません。
若い頃はこんなことを忘れたことはないという人でも、重要なことはすぐにメモをする習慣をつけることをおすすめします(笑)」
HRTはもの忘れには効かないし、認知症の予防効果もない
「もの忘れ」にエストロゲンの影響がないとなると、更年期の症状をやわらげるためのHRT(女性ホルモン補充療法)を行っても改善はしないということでしょうか?
「HRTをすることで、ブレインフォグや集中力の低下が改善するケースはありますが、『単なるもの忘れ』には効きません。
また、以前にはHRTを行うと認知症(アルツハイマー型認知症)の予防になるという説がありました。ところが近年、デンマークのコペンハーゲン大学病院のNelsan Pourhadi氏らの研究で、逆にHRTを行った人のほうがアルツハイマー型認知症になるリスクが高い可能性があると報告されました。
この調査結果はHRTを行うとアルツハイマー型認知症になりやすいということを示すものではありませんが、医学会で話題になりました。今後のさらなる研究に注視する必要がありそうです。
HRTはほかのつらい更年期症状の改善や骨粗しょう症の予防など、有意義な点が多いのは確かです。医師と相談のうえ、納得して上手に利用するといいと思います。
最近の認知症の研究では、MCI(軽度認知障害)の段階で適切な予防をすれば認知症に発展せずに、健常の状態に戻る可能性があるといわれています。
もの忘れが気になる場合は、一度、精神科や神経内科を受診すると安心です。特に『もの忘れ外来』や『メモリークリニック』には認知症の専門医がいます。その前に、まずはかかりつけ医に相談してみるのもいいでしょう」
【教えていただいた方】
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。日本産科婦人科学会・日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医。専門は更年期医療学、女性心身医学、女性ヘルスケア。相談やカウンセリングを中心としたケアサポートとともに、最新のテクノロジーや視点を取り入れて、更年期を取り巻く環境や文化を積極的にアップデート。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子