睡眠をたっぷりとって「腎」の働きをサポート
「小雪」になると、紅葉が散り始め、北国からは雪の便りも届きます。地域によりますが、まだ本格的に積もるほどではないというので小雪なのでしょう。
「徐々に寒さが増し、動植物の動きが鈍ってきます。
七十二候にある、『虹蔵不見(にじかくれてみえず)』は虹が現れなくなるという意味です。虹は空気に水分がないと現れないので、それほどに空気が乾燥している様子を表しています。
そして『朔風払葉(さくふうはをはらふ)』は北風が吹いて落ち葉が舞う様子、『橘始黄(たちばなはじめてきばむ)』は橘の実が黄色く色づき始めるという意味です。橘はミカン科の植物で柑橘類の一種。店頭に並ぶ温州みかんが食べ頃になるのもこの頃ですね。
寒さが増して足腰が冷え、空気の乾燥が進むにつれて、私たちの皮膚や喉の粘膜も乾燥してきます。風邪やインフルエンザのウイルスの活動が活発になるので、風邪予防は万全にしてください。
それには、お風呂に入ってしっかり体を温めること。帰宅したらうがいをして、場合によってはマスクなどで喉を守るのもいいでしょう。
冬は東洋医学でいう『腎』が弱ってきます。生命エネルギーの貯蔵庫である『腎』の働きを助けるために、睡眠時間をたっぷり確保することも大切です」(齋藤友香理さん)
炊きたての新米をしみじみと味わって!
「また、毎年11月23日は『新嘗(にいなめ)祭』です。戦後、この日は『勤労感謝の日』と改名しました。
新嘗祭は全国の神社で行われる五穀の収穫を感謝する祭儀です。こうした秋の営みを、日本人は長い間繰り返してきました。
この日は炊きたての新米を食べたいところですね。「気」の旧字体は「氣」と書くことから、薬膳では穀類が元気を補うと考えます。これに、植物の生命力を蓄えた根菜をたっぷり入れた豚汁などを添えて、血や肉となるものを、その恵みに感謝していただくといいと思います。きっと元気がみなぎってくるでしょう。
ほかに、腎の力を補うものには、黒豆や黒きくらげなどの黒い食材、カキや山いもなどもおすすめです。潤いを補ってくれるものとして、柿やりんごなどの果物、豆腐や豆乳といった大豆類も積極的にとりたいところです」
やはり季節の行事や旬の食材には、その時期の心身を養い、快適に保つための知恵や栄養が備わっていることを実感します。
二十四節気の養生法とは?
旧暦の1年を24等分して、季節の移り変わりとそれに伴う生活の知恵を結びつけた「二十四節気」の養生法。この考えは紀元前の中国で生まれ、日本でも古くから親しまれています。
二十四節気はまず1年で昼の時間が最も長い日を夏至(6/21)、最も短い日を冬至(12/21)と決め、そこに昼と夜の長さがほぼ同じになる日である春分(3/20)と秋分(9/22)を加えて、1年を春夏秋冬の4つの季節に区分。さらにその中を、気温の変化や気象現象、動植物の様子などで6つに分けたものです。(詳しくは第1回参照)
※日にちは国立天文台発表の2024年のもので、年により多少前後します。
「二十四節気は長年の生活経験や知識で導き出した、農作業の目安にするための『気候・天気の予報』であり、それに従った養生法は、『人は自然の一部で、自然と調和して生きることが大切』という考え方に基づいた健康管理の知恵です。これらは漢方の陰陽論や五行説ともつながっています」
【教えていただいた方】
東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務め、多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら外部セミナーも担当し、漢方を学ぶ楽しさを広めている。また「養生を指導できる人材」の社員育成、『薬日本堂のおうち漢方365日』『薬膳・漢方検定 公式テキスト』など、書籍監修にも多く携わっている。
イラスト/河村ふうこ 取材・文/山村浩子