暑い環境から6~12時間は用心を!
炎天下でのスポーツ、野外イベント、園芸や畑仕事など。その時点では、体に変化はないものの、家に帰ってからぐったり、頭がフラフラ、食欲の低下や嘔吐してしまった…といった経験はありませんか?
「熱中症は脱水症状から始まり、体温のコントロールができなくなることで起こります。
詳しくは第1回参照。
暑い環境などにその場では耐えられても、体の中では脱水症状が起こっていることがあり、時間がたってから、体に変化が起こることがあります。これを『時差熱中症』と呼んでいます。
よくあるのが、子どもの運動会で、そのときは元気に過ごしていたのに、家に帰ってから『お腹が痛い』『気持ちが悪い』と言い始めるといったケースです。
脱水症状が継続すると体温調節がうまくできなくなり体温が上がり、胃や腸の血流が悪くなったり、消化酵素がうまく働かなくなるなどで、胃腸障害を起こすことがあります。
昼間に庭の草むしりをしていた高齢者が、翌朝になってぐったりすることもあります。
特に、体温調節がしにくい小さな子どもや高齢者に多いのですが、5月、6月のまだ暑さに慣れていない時期には、健康で普段元気な40代~50代でも起こることがあります。
暑い環境で過ごしたあとは、6~12時間は油断せずに、体調を観察してください。
予防策としては、帽子をかぶるなどで直射日光を避け、こまめに水分補給を行うことです。帰宅後は涼しい環境で過ごし、栄養バランスのよい夕食をとって、早めに寝るようにしてください。特に小さな子どもや高齢者は、周りの家族が気をつけてあげることが大切です」(谷口英喜先生)
欠食や寝不足などの悪条件が重なったときは要注意!
若い層でもありがちなのが、野外のBBQなどでお酒を飲みすぎて、翌朝二日酔いに。寝坊したこともあり朝食を抜いて、慌てて駅まで走る…といったことです。
「通常なら問題ないことでも、二日酔い、寝不足、欠食、走るといった悪状況が重なると、熱中症のような症状が起こることがあります。
そうでなくても寝ている間に体は脱水ぎみになっています。それに二日酔いということは、体は明らかに脱水状態。そこに朝食を抜くとなると、十分な水分補給がされないことに。
水分補給の半分は飲み水から、もう半分は食事からとるのが理想です。特に朝ごはんは、夜に失った水分や電解質を補う役割があるので、朝食を抜くことは水分不足を引き起こします。
また、自律神経の交感神経は血管を収縮させ、副交感神経は拡張させます。暑い環境下では、血管を拡張させて熱を下げますが、睡眠不足になると、これがうまく機能できないことがあります。
運動会やフェスの会場などで、熱中症が集団発生したというニュースを聞いたことはありませんか? これは、目の前のことに夢中になって自分の体調不良に気づかず、周りの人が倒れたことで、初めて自分の体調も不良であることを自覚するというものです。
熱中症が予想されるような場合には、多めに水を持参し、こまめに水分補給をしましょう。
日常の水分補給には、飲料の種類や温度は飲みやすいものでいいのですが、脱水症・熱中症が疑われる場合は、常温か冷たい経口補水液がいいでしょう。重度の場合は点滴が必要です」
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脱水症、熱中症、夏バテは違う
脱水症・熱中症が疑われる主な症状にはどんなものがあるのでしょうか?
「脱水症は体の水分が足りなくなった状態で、熱中症は蒸し暑さによる体の異常を表した総称です。つまり、熱中症の初期段階は汗から失われた水分の不足による脱水症で、それが悪化すると体温調節が不能となり、異常な高体温になる重度の熱中症になります。
脱水症は熱中症以外にも、下痢や嘔吐、高熱が続いたり、アルコールのとりすぎ、長時間のサウナなどでも起こります。
脱水症では、全身の水分が足りない状態になるので、血液も不足します。そのため各臓器に十分な酸素や栄養が届かないので、足がつったり、脳に血液が回らないことで頭痛やめまい、胃腸の血液が足りなくなると腹痛や嘔吐といった症状が現れます。
熱中症の初期症状でも上記のような症状が現れます。
一方で、夏バテは暑さによって体が疲れ(バテ)ている状態で、疲れのほかに、特に食欲低下などの胃腸の不調や倦怠感などが現れます。病気ではないので、冷たいものを控えたり、良質な睡眠、栄養をしっかりとれば回復するのが一般的です」

済生会横浜市東部病院患者支援センター長。福島県立医科大学医学部卒業。横浜市立大学医学部麻酔科に入局し、2011年に神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授。2016年より現職。現在、東京医療保健大学大学院客員教授、 慶應義塾大学麻酔科学教室非常勤講師を兼任。専門は麻酔学、集中治療学、周術期管理、栄養管理、経口補水療法、脱水症対策など。著書に『熱中症からいのちを守る』(評言社)など多数。テレビや雑誌、Webでも活躍。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子