中医学では心地よく暮らすための方法を「養生(ようじょう)」といいます。それは心を丈夫にするためにも役立ちます。
お話を伺ったのは
櫻井大典さん
Daisuke Sakurai
国際中医専門員、日本中医薬研究会会員。年間5000件以上の相談をこなす漢方専門家。アメリカ・カリフォルニア州立大学で心理学や代替医療を、イスクラ中医薬研修塾で中医学を学ぶ。中国で研修を修了し、国際中医専門員A級資格取得。著書多数。公式サイト
“気”というエネルギーを体に巡らせることが大事
ストレスの原因は日々の生活の中に、驚くほどたくさん潜んでいます。
「特に心がしんどくなりやすい人は、細かいところに気がつく、繊細な人が多いようです。そんな心が揺らぎやすい人でも、心の在り方をコントロールできれば、毎日心地よく生活ができるはずです」(櫻井大典さん)
「私たちの体には“気”というエネルギーが巡っていて、これが臓器を動かし、感情にも影響を与えています。例えば、気がうまく巡らない状態は“気滞”、気の量が不足すると“気虚”という状態になります。こうなると、外からの刺激に弱くなり、心身に不調が現れると考えられています」
呼吸がしづらい、胃腸がうまく動かない(下痢や便秘)、精神面が不安定になる(イライラや落ち込み)といった症状も、気の問題かも。
「また、五臓は感情や味覚とも対応しています。例えば、肝は怒りと酸味、肺は悲しみと辛味…といった具合。そんなときは、該当する味覚の食べ物をとる養生法もあります」
こうした中医学をもとに、心理学や櫻井さんの経験則も総動員した、“心の整え方”を紹介します。
五臓と感情はつながっています
「中医学でいう五臓は、西洋医学の解剖学と共通部分もありますが、まったく別の考え方。『肝、心、脾(ひ)、肺、腎』はそれぞれ感情や味覚と対応しています。
最近すぐにイライラする場合は、肝が弱っているのかも。その場合は酸味のある食べ物を意識的にとるなど、その関係性を知っていると“養生”に役立ちます」
●イライラは肝の弱り
血の貯蔵や配給のコントロールを担います。「怒・イライラ」の感情、酸味に対応
●興奮しすぎに注意!
血液を巡らすポンプ役と精神を安定させる臓腑のリーダー。「喜・興奮」、苦味に対応
●脾が弱ると気力が低下
血や潤い、活動力となる「気」をつくり出す場所。「思・クヨクヨ」、甘味に対応
●悲しみは肺に影響します
「気」をつくり出して全身に巡らせ、防衛力を司っています。「悲・メソメソ」、辛味に対応
●恐怖の感情と関係
ホルモン分泌を司り、成長や生殖に関与。「恐・驚き」、鹹味(かんみ/塩味)に対応
更年期は“腎の弱り”。生命力が低下する時期
「中医学では、更年期はホルモンをコントロールして生命力の源となる『腎』の弱りと考えられています。その働きは、女性は28歳、男性は32歳をピークに下降線を描きます。
更年期には、栄養を運んで情緒を安定させる血が不足するので、血を補う食事や適度な運動などで、血の巡りをよくする養生が大切です」
イラスト/midorichan 構成・原文/山村浩子