Q. 更年期うつは普通のうつと違うの?
A. 女性ホルモンの変化が大きくかかわっています
「心は女性ホルモンに大きく影響されるため、女性は生涯でメンタルダウンを起こす3つのタイミングがあります。それは月経前、出産後、更年期です。
◆うつを発症する3つのタイミング
●月経の前
エストロゲンとプロゲステロンが減少するため、メンタルが不安定に。PMSがこれにあたります
●産後
妊娠中にはとても多かったエストロゲンが分娩後にほぼなくなる、そのアップダウンが原因
●更年期
女性ホルモンの分泌が急に減少。それに伴い幸せホルモン・セロトニンも産生しにくくなります
いずれも女性ホルモンの変動がおもな原因。エストロゲンが減ると、別名『幸せホルモン』といわれ、精神を安定させるセロトニンの分泌も減ってしまいます。プロゲステロン(黄体ホルモン)が減ると、自律神経のうち心身をリラックスさせる副交感神経が優位になりにくくなります。これらが重なってメンタルの不調を起こしやすくなるのです。
更年期うつと通常のうつの症状を見分けるのは医師でも難しく、問診や検査で総合的に判断します。更年期うつが疑われる場合は、ホルモン補充療法(HRT)を行うことで改善効果が期待できます」
Q. うつ症状かもと思ったら、まず何科に行けばいい?
A. ほかの更年期症状もあるなら、まずは婦人科へ!
「メンタルの不調というと心療内科や精神科が思い浮かびますが、年齢が40歳を過ぎていて、ホットフラッシュなどメンタル以外の更年期症状があるようなら、女性ホルモンの低下が原因の可能性が高いので、まず婦人科を受診するのがいいと思います。個人差はありますが、漢方薬の服用やホルモン補充療法(HRT)を行うことで、症状の緩和が期待できます。
ただ、更年期の一時的な不調であっても、そのタイミングでショッキングなことが重なると、そのまま本格的なうつ病に発展することもあります。そんなときは専門性の高い、心療内科や精神科を受診するのがいいでしょう」
◆科による特徴
●婦人科
女性ホルモンの低下が原因の場合は、それに対応した治療を行います。ほかの更年期症状を解決することも可能
●心療内科
ストレスなどの心理的なことが原因で起こる、心身の不調(気分の落ち込み、めまい、吐き気)などを診ます
●精神科
心の不調(うつ病、幻覚、統合失調症、パニック障害など)そのものに対して治療を行います
Q. 家事もする気になれず、家族からなまけ病だと言われます。病院に行くべき?
A. うつのサインで判断を!
朝からやる気が起きない、何かに取り組む意欲が出ない…。そんな不調を感じても、どうしていいのか困ってしまいます。まわりからはただ怠けているだけと思われることも。
「少し重いメンタル不調にはふたつのサインがあります。ひとつは『特別なことがあったわけでもないのに涙が出る』こと。もうひとつは『大好きなことをやる気になれない』状態です。これらのサインがあったら、専門医に相談するのがいいでしょう」
◆これがあったら更年期うつかも…
●わけもなく涙が出る
悲しいことやつらいこと、感動したことがあったわけでもないのに、自然と涙が出たら要注意
●好きなことをやる気になれない
好きでやっていた趣味や推し活も、やる気になれない。何にも関心が持てないのはうつの可能性大
Q. 職場で集中力も段取り力も低下。もう仕事は無理?
A. 更年期を理由に退職する必要はありません
「日本人の閉経年齢の中央値は50.54歳。そこから考えると更年期の平均は45~55歳あたりに。この年代はちょうど仕事で、管理職など責任のある立場になる年齢でもあります。実際に私のクリニックにも、仕事に支障をきたすほどのメンタルダウンに悩んで、来院する更年期世代の人が多くいます。
それを理由にそのポストを断念したり、退職したりする必要はありません。更年期であることをひたすら隠すのではなく、まわりに一定の理解をしてもらいつつ、健康管理をするのも社会人の義務です。
今はホルモン補充療法(HRT)などを選ぶことで楽になる人がたくさんいます。治療を積極的に受けることも大切です。更年期の知名度は上がってきていますが、もっと理解のある社会になっていくといいですね」
イーク表参道副院長。産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。ヨガ指導者。婦人科の診察を通して女性の健康を支える。テレビや雑誌、Webなどでの心や体の悩み相談をはじめ、音声発信アプリstand.fmで毎日発信している「高尾美穂からのリアルボイス」は、再生回数1100万回を超える人気番組。著書多数
構成・原文/山村浩子