更年期以降は女性ホルモンの代わりに活躍してくれる男性ホルモン
こんにちは。産婦人科専門医の吉形玲美です!
今日は、何かと誤解の多い男性ホルモンのことをお話ししようと思います。
そもそも、男性ホルモンは男性だけのものではなく、女性の体内でも分泌されています。卵巣や副腎でつくられているんですよ。
閉経に伴って女性ホルモン「エストロゲン」はほぼ0になりますが、男性ホルモン「テストステロン」はあまり変化しません。そのため、男性ホルモンのほうが優位になり、稀にヒゲが濃くなったりすることも…。
よく「年をとるとオンナはオジサン化する」などと言われたりするのは、そんな理由からだと思います。
男性ホルモンの役割を見てみると…
● 筋肉や骨の質を高める
● 血管を若々しく保つ
● バランス感覚や運動機能を向上させる
● 社会性を高める
● 認知力を上げる
● 決断力・判断力・やる気を高める
● 気力を高める
● リーダーシップを発揮する
● 好奇心・競争心を保つ
● 性欲を強くする
こんなところでしょうか。
更年期以降は、少なくなった女性ホルモンの代わりに、心にも体にも男性ホルモンがとても必要。年齢を重ねてもテキパキと頭を働かせ、段取りよく仕事や家事をこなすには、男性ホルモンの力を借りるが勝ちです。
むしろ意識的にテストステロンを増やすように努めたいもの。
これはムキムキになるとかいう話じゃなく、自然な話として覚えておいてほしいのですが、テストステロンは運動によって増えることがわかっています。自分の内なるテストステロンを増やすことができるのです。
テストステロンが増えれば、血流がよくなり、骨や筋肉が強くなって更年期太りも防いでくれます。何より、やる気や元気の元になりますね。
女性にとっても、男性ホルモン不足はいいことがない
第1回・第2回で詳しく説明したように、閉経前後の不調がある人には、断然HRT(ホルモン補充療法)をおすすめします。
最近は、HRTのメリットにようやく気づいてくれる人が多くなりました。逆に、閉経前後の時期にHRTをやりそびれ、60代になってからHRTをやりたくなった人も増えているほどです。
年齢制限があるわけではないので、60歳でもできる人はできます。が、年齢が上がるほどに血栓症のリスクが高まって、HRTができない人もいます。
そんなときは、男性ホルモンの補充もできるのです。
前よりできることが減っていき、集中力もなくなったと思う人は多いでしょう?
もちろんエストロゲンもテストステロンも、記銘力と関係してはいますが、気力がない人は、エストロゲンよりテストステロンのほうが効く人もいるのです。
頭のキレが戻ってきたり、元気が出ることは確か。
もちろん、骨や血管が若返ることも体感できると思います。
そして、40代以降の女性の中には、筋肉が減って痩せていってしまう人もいますよね。食事に気を遣ったり運動を頑張っても筋肉がなかなか増えない。
もしかしたら、テストステロン不足かもしれません。
悩んでいるくらいなら、テストステロン補充の可能性を試してみるのもいい気がします。
ただ、数年前までは男性女性ホルモン混合注射にも健康保険が適用されていましたが、現在はもう適用にならず、自費診療のクリニックに限られています。
また、欧米ではテストステロン補充をやっている女性が意外にいるものです。その目的は更年期不調の改善ではなく、もっと積極的。セクシャルライフの向上が多いですね。
性欲を増したり、性感をアップするためだったり。
中高年になってもセクシャルライフを楽しみたいというねらいです。
女性の性欲が男性の性欲を追い越すことだってある!
その点、日本人女性の意識はまだまだ保守的。婦人科で性生活の悩みまでは相談しにくい傾向にあります。
フェムゾーンのトラブルでさえ、なかなかアクションを起こしにくいですものね。
でも、婦人科は病気を治すだけのところではありません。
更年期の悩みに多い性交痛は当然ながら、性欲減退の悩みも婦人科で相談していいのです。なかには、閉経したら性欲がありすぎて困るという人だっているはずです。
先に説明したように、女性ホルモンより男性ホルモンが優位に働くこともあるため、性欲が高まりすぎる人もいます。テストステロンがどこにどれくらい影響するかは個人差があるので、性欲だけでなく、体毛が濃くなる人、もしかすると声がやや太くなったりすることもあるかもしれません。
女性は更年期以降、腟の乾きや腟萎縮によって痛みが出ることが多く、男性の性欲には対応できず、どうしても拒んでしまうという悩みのほうが多いように思われています。
ただし、男性のほうは年齢とともに徐々にテストステロンが減少していくのです。性欲が驚くほど高まって、パートナーの男性の性欲を追い越してしまう女性も実際にいます。
どちらにしても、更年期以降は性生活がうまくいかなくなる時期。
でも、勇気を出して。
そんな悩みも、婦人科で相談して解決しちゃいましょう。
あなたのその第一歩が、将来の日本女性を変えていくのだと思って!
【教えていただいた方】
浜松町ハマサイトクリニック特別顧問。大学病院で医療の最前線に立ち、女性医療・更年期医療のさまざまな臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、現クリニックへ。更年期、妊活、月経不順など女性の体のホルモンマネジメントが得意。著書に『40代から始めよう! 閉経マネジメント』(講談社)
イラスト/Shutterstock 取材・文・画像制作/蓮見則子