普段のメンタルのベースラインはどこ?
まずはそれを観察してみる
更年期には、突然起きた「女性ホルモンが少ない状態」に脳がついていけず、自律神経の調節がうまくいかなくなることが多くなります。
血流、血管の収縮や拡張、内臓機能の調整を司っているのは自律神経なので、これらがうまくコントロールできなくなると、交感神経が優位になりすぎ、ホットフラッシュなどの症状が現れます。
「そんなときは、副交感神経をONにすることですね。自律神経は意識してどうにかなるものではないですが、呼吸だけは自律神経に直接影響を与えることができる唯一の方法なんです!」とは、京都で呼吸専門サロン「ぶりーずぷりーず」を主宰する、呼吸コンサルタントの大貫崇さん。
やり方はシンプル。
吐いて、止めて、吸うだけ。長さは、3:1:1。
なぜこれがいいのかというと。
自律神経は、交感神経と副交感神経という正反対の働きをするふたつの神経で成り立っています。交換神経は緊張・戦闘モード、副交感神経はリラックスモードです。
仕事やストレスなどで緊張が続いている状態では、体はずっと交感神経のスイッチがONのまま。血管の収縮や拡張がうまく調整できなくなるのは当然の結果といえそうです。
「普段からイライラしたり、テンパり気味タイプの人は、すでに交感神経が優位になっているところがスタート地点。そこで何か戦闘モードになるようなことが起きれば、スーパー緊張状態になるわけです。
生きている限り交感神経を高めないわけにはいきませんが、いっぱいいっぱいの状態だと、ちょっとオーバーヒートすると、滝汗やのぼせ、ほてり、緊張や動悸といった症状がすぐ出てしまいます。そういう反応が起きないように、交感神経の値が多少高くなっても耐えられるくらい、普段の交感神経の基準ラインを低めにしておく。つまり日常のスタート地点を普段から下げておくことが大切なのです。自分の呼吸をコントロールすることで、それができる。利用しない手はありません」
風船を使うだけで、交感神経優位なメンタルのスイッチが切り替わる!
大貫さんが提案している「きほんの呼吸」は、まさに副交感神経を優位にするよう「とことん息を吐ききる」こと。
でも、なかなか吐ききれない場合は?
この更年期特有の不調を改善するため、大貫さんが取り出した奥の手は、風船でした。
「肺の中が本当に空っぽになるまで息を吐ききるのは、慣れていない人にとっては大変です。ぜひ試してほしいのが風船。風船を膨らませることで、息を吐ききるとはどういう感覚なのかがわかると思います。
吐ききることができれば、肺の背中側のスペース(後縦隔)に空気が入るようになり、これが副交感神経をONにするきっかけに。リラックスすることができ、ホットフラッシュなどが起きるのを抑えられる可能性が高いです」
「風船を持ち歩き、仕事で緊張してしまいそうなときや、なんだかモヤッとしたときなど、風船を膨らませてみませんか?」
最初は、外出先でもできるよう、椅子に座った姿勢で風船を膨らませてみます。風船の大きさや硬さによっては、最初はまったく膨らませられない人もいるかもしれません。力まず、繰り返しやってみるとコツがつかめてくるはずです。
(注:頭痛やめまい、頸部や後頭部に痛みがある人、高血圧の人は絶対に無理をしないこと。脳疾患の疑いがある人は、医師に相談を。)
風船を膨らませるのには、ちょっとしたコツがあります。
次の要領でLet’s try!
風船を使って、副交感神経を優位に!
1.片手で風船を持って口にくわえ、もう片方の手は肋骨に当てます。
3.力まず、ゆっくり長〜く息を吐き、風船を膨らませていきます。肋骨が自然に下がっていくのを手で感じましょう。
4.息を吐ききったら3秒ほど息を止めます。唇はすぼませてもよいですが、唇で風船の口もとを閉じたりしないこと。
5.3に戻り、鼻から吸った息をまた吐いて風船を膨らませます。
ここまでを数回繰り返し、最終的には自然に背中が丸まった状態になるよう意識して。
息を吸うときは、鼻から吸い、舌全体を上顎につけておくのがポイント。これをしないと風船に入れた空気が戻ってきてしまうので気をつけて。
これは普段リラックスした状態での正しい舌の位置でもあります。
リラックスしてあお向けに寝た状態でもやってみましょう。この姿勢でなんなくクリアできるようになるのが理想です。
背中を反らせてやらないこと。また、力んで首や肩に力が入ってしまうのは、自分にとって風船自体が大きすぎるか硬すぎる証拠。もう少し小さく柔らかいタイプを選びましょう。
風船は大きさも硬さもいろいろです。一度、百均のものでやってみて、無理なくできるものを選びましょう。
更年期の不調をいくつか感じている松原さん。風船にトライしますが、なかなか膨らまず苦戦中でした。
それが、風船の輪っかの部分を、唇と前歯の間に引っかけるように唇の使い方を変えたところ、膨らむようになりました! 肺に入れた空気を、一直線にして風船の向こう側に当てるイメージで、肩の力を抜いてやってみましょう。
■■まとめ■■■■■■■
ホットフラッシュなどは緊張モードのときに起こりやすい症状。
息を吐くことで、リラックスモードのスイッチON!
風船を使って「息を吐ききる」感覚をつかむ。
【教えていただいた方】
1980年神奈川県生まれ。呼吸コンサルタント。アスレティックトレーナー。京都にある呼吸専門サロン「ぶりーずぷりーず」主宰。大阪大学大学院医学系研究科 健康スポーツ科学講座スポーツ医学教室 特任研究員。呼吸に関連した企業研究や商品開発など法人向け呼吸コンサルティング事業を展開し、アスリートから高齢者まで呼吸目線でのコンディショニングに従事。著書に『きほんの呼吸 横隔膜がきちんと動けば、ムダなく動ける体に変わる!』(東洋出版)など。
【呼吸についての悩みや質問、大募集】
この連載では、大貫さんへの質問を募集しています。
●レッスンの内容でよくわからなかったこと、うまくできなかったこと
●自分の呼吸についての悩みや困ったこと
●呼吸についての素朴な疑問
内容についての感想などもOKです。大貫さんにお答えいただく予定です。
こちらからお気軽にどうぞ!
撮影/露木聡子 イラスト/内藤しなこ 取材・文/蓮見則子