朝、ベッドから起き上がれない! 仕事に穴をあける日も…
OurAge読者の皆さん、こんにちは。富永ペインクリニック院長、富永喜代でございます。
前回は、子どもに「ママ、臭い」と言われて始まった、私の更年期ストーリーについてお話をしました。読者の皆さんの衝撃が大きかったのか(そら、そうですよね)、大変多くの反響をいただき、ありがとうございます。気になる方は、ぜひそちらもお読みくださいませ。続く今回も、私の更年期症状ストーリー。臭いだけでは終わらず、かなり重度の「不眠」「抑うつ」症状に悩まされた体験をお届けいたします!
さて、代表的な更年期症状はというと、皆さんもよくご存じの、①ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)、②発汗障害、③不眠という3大トリオ。
そして、私が閉経した頃(48歳でした)に起こった不調は「③不眠」の症状でした。ただ私の場合は①と②がなかったこともあり、その不眠が更年期症状だとは、全然気がつきませんでした。その頃から本の原稿を書くなど、夜中も仕事をするのがすっかり習慣づいていたため、「忙しくて仕事のストレスも多いから、よく眠れないんだろうな」くらいに思っていたんです。
けんど。梅雨に突入した頃にはとうとう朝起きることができなくなりました。院長であるにもかかわらず、私は仕事に穴をあけるようになってしまったのです。
それはもう、根性があるとかないとかの問題じゃない! ベッドから起き上がり、寝室のドアノブに手をかけるのも必死! という状況。それも「11時くらいまで起き上がれない…」という異常事態が続き、「私はもう病気なんだ」と思ったほど。つらさを家族には訴えたものの、「毎日飲み歩いてばっかりいるからだよ」「朝起きられないのは、たるんでるからじゃないの?」という冷ややかな反応。
まぁ確かに、毎日会合やらなんやら、飲み歩く機会は多かったですよ。でもそれ、ツレと飲み歩いとるんとちゃうねん! 女性院長として、社会的なおつき合い、仕事の一環なんや! と叫びたいのをグッとこらえて、同業の夫に頭を下げて、外来の代行をしてもらうことも少なくありませんでした。
落ち込みのせいで、気づくと風呂場で泣いていたことも
そうそう。そのときは、当時高校生だった娘のお弁当も作ることができなくなっていました。だからいつも、大量に菓子パンを常備していたのですが、だんだんパン屋さんにすら行けなくなってきましてね。
なんとかご飯だけは炊いておいて、「コンビニで売っているレトルトハンバーグをのっけただけ」という2段弁当を作ったこともあります。
でも、「娘の通学バスの時間までに、こんな体調でお弁当を作った私、よくやった!」と、私は自分を褒めましたよ。さすがに、私のあまりの不調っぷりを心配したのか、お弁当作りはその後、夫が変わってくれるようになったけどね(どうも娘が学校で、「富永さんの最近のお弁当、なんか寂しそう…」と、友達から心配されていたようです)。
そんなことが続くと、気分も落ちるし、自信もなくなる。気づくと風呂場でさめざめと泣いていた…なんてこともあり、だんだん抑うつぎみにもなっていきました。
そんなあるとき、ギョッとしたのは、高校時代の女友達から言われたひと言。彼女は、「キヨ、あんた毎回、同じ話してるよ?」と言うのです。つまり私は、「この人には何を話したか」を覚えていられない、「記銘力障害(物事を覚えていられない状態。健康な人でも睡眠不足や疲れが続くとなることもある)」の一歩手前にいたんよね。
更年期の症状は多様で、その出方が決して一律ではありません。どこにどう強く出るのかは「人による」もの。友達の指摘を聞いてハッとしたのは、「私のようにいつも頭の中がフル回転している人の場合、脳の負荷がデカいのだ」ということに加えて、「…ということは、女性ホルモンが減ってきたとき(要は更年期)、如実に症状が出るのは脳機能では?」という仮説が立ったんよね。ずっとエネルギッシュだった私が、ここまで追い込まれた理由が、ようやく見えてきたわけです。
そしてもうひとつ疑問が湧いたのは、「午後からは元気だった」という点(笑)。
低気圧が来ると11時までは起き上がれないものの…。けんど。
「もし本当にうつ病だったら、午後からこんなにバリバリ仕事できるものなのか?」「私、午後、元気すぎじゃね?」とはたと思ったんですよ。
心のお守りになったホルモン補充療法
「だったら改善策をとろう」「私から仕事をとったら、何が残るんじゃ!」と、思い立ったが吉日。
ホルモン補充療法(HRT)を毎日続けて行うようになってからは、朝、起き上がれない日は激減。仕事に穴をあけるということもなくなりました。もちろん不眠傾向が完全にゼロになったわけではないけども、HRT前と後では格段に体調が違う!
きっと、「(ホルモンが)足らないなら、増やせばええんや!」という、心のお守りのような作用もあったと思うんです。HRTは今も継続中ですが、通常の女性ホルモン補充療法にプラスして、自費治療になるんですけれども、私は2カ月に一度、男性ホルモンであるテストステロンの注射も行っています。
穏やかな生活をしている女性の場合はHRTだけで十分なのですが、私のように院長で、CEOで、YouTuberで、ベストセラー作家で、となると、対外的なストレスが多いうえ、仕事における闘争心というか、やる気が欠けることが致命傷になるわけで。そういった方の場合には、とてもおすすめの方法です。そのおかげか、腕も太く、たくましくなっております(笑)。
更年期症状を10年体験してわかったこと。それはね、もう腹が立つくらい、男と女の体は決定的に違う、ということ。
男性にも更年期はありますが、18歳ぐらいをピークに、徐々に&緩やかに減っていくので、ホルモンの減り方がまったく違う! だから喫煙習慣がなく、適度な運動やバランスのいい食事などの規則正しい生活をして、しかもやりがいのある仕事をしているという男性は、割合長くいい体調をキープすることができるんです(もちろん、リストラなどの環境の大きな負荷があったときはまた違いますよ)。
けんど。女性の場合は、どんなに健康に配慮しようが、喫煙しなかろうが、ホルモンは急ブレーキをかけるように激減し、卵巣の機能が停止する。その点が、大違いなんよね。
「私は元気だし、医者として自分の体のことはちゃんとわかってる!」なーんて思い込みがあったものの、ひとつの臓器がその役割を終えたとき、その臓器がどれだけ重要だったのか、あたしゃ全然わかってなかったんだなぁと、しみじみ我が身を振り返りました。
女性ホルモンが激減するとき、症状がどう出るかについては人によっていろんな要因が拍車をかけていくのです。例えば、腸内細菌の環境といった体質的な要因。そして筋肉量や、睡眠時間を含めたライフスタイル。だから、「運動はしているけど睡眠不足」「食事には気をつけているけどタバコがやめられない」では、やはり☓。できるところから改善していかねばなりません。
そして、私のように働きすぎる人は、人生で仕事以外の楽しみを見つけることも、ものすごく大事です。
【教えていただいた方】
富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会専門医。 1993年より聖隷浜松病院などで麻酔科医として勤務、2万人を超える(通常1日2名のところ、1日12名)臨床麻酔実績を持つ。2008年愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業。痛みの専門家として全国でも珍しい性交痛外来を開設し、1万人超のセックスの悩みをオンライン診断している。性に特化したYouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、チャンネル登録者数28万人、総再生数は6600万回超。SNS総フォロワー数44万人。真面目に性を語る日本最大級のオンラインコミュニティー『富永喜代の秘密の部屋』(会員数1.6万人)主宰。『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)など著書累計98万部。
撮影/天日恵美子 角守裕二(花) 取材・文/井尾淳子