心と体に辛い症状が出るなど、思い通りにならなくなってくる更年期世代。
「そんな時は、ご自身の思春期の頃を思い出してください」とは、理学療法士の経歴を持つセラピストOCOさん。ホルモンの変化が大きい更年期にこそ、自分を大切に扱うことについて、OurAge世代に寄り添ったアドバイスをいただきました。
OCO(オコ)
プライマリー・プロフェッショナル・セラピスト。理学療法士として急性期~在宅までの幅広い疾患と病期のリハビリテーションに携わる。一側面だけではなく、あらゆる関係性を総合的に捉え、アプローチをしていく必要性を感じ、独立。西洋・東洋医学、量子力学を用いたキネシオロジーを主軸に、フラワーエッセンスやクラニオセイクラルなど幅広い知見や技術により、それぞれのクライアントに合ったベストな形で寄り添う。
※クライアントセッションについては、ご縁を大切にしたいという思いから、紹介制のみ
自律神経のオン・オフを意識して
著書『わたしの解放ガイド』で人気のセラピストOCOさん。
40代、50代のOurAge世代にとって大きな関心事の「更年期」についても、OCOさん流の捉え方、つきあい方についてぜひ教えていただきたい!と思いました。
──── 40代、50代女性にとって更年期は、ライフステージの大きな変化の一つです。更年期についてOCOさんは、どのような時期だとお考えになりますか?
OCO:更年期は、女性ホルモンのエストロゲンが大きく減ってしまう時期であるということは、読者のみなさまもよくご存じかと思います。また、身体の内部の働きはつながり合っていて、こうした変化と同時に、ホルモンを抽出する部分と密接にかかわっている自律神経も、その調節が連動して、難しくなることがあります。
つまり、ホルモンの変化と自律神経の不調が同時並行的に起こる年代または、期間と言えますね。前者のホルモンについては、体がそういった変化を受け止めて、順応していくプロセスにあります。
──── 後者の自律神経についてはどうですか?
OCO:女性ホルモンが生理的に減少すること自体は避けられませんが、自律神経については年齢にかかわらず、いつでもある程度コントロールすることができます。自律神経は、「交感神経と副交感神経*、どちらも使える状況にある」ことで、バランスが取れる方向に向かっていきます。
ですから、交感神経が優位になりすぎている揺らぎの時には、
①ゆっくりと深い呼吸をする
②休息の時間をしっかり取る
③内臓を温める
などを心がけることが大切です。
ただ、②については、「多忙で休めない」という時もありますよね。
そういう時は、軽い運動をすること。特に呼吸に意識を向けることのできるヨガ・ピラティスはマインドフルネスともなり、おすすめです。その他、音楽と体の動きを合わせる各種ダンスなどのリズム運動は、音楽によるリフレッシュも相まって効果的です。また散歩もリズム運動の一つであり、自分のペースで外の景色や自然音、風などを感じられストレス発散作用があります。発汗作用のある岩盤浴、サウナ、半身浴などを行って、意識的に交感神経を働かせるのもいいでしょう。一時的に交感神経を高めることで、自然に副交感神経のスイッチが入るというプロセスを利用する方法です。
運動が苦手な方には、特に首まわりや体側(側面)、腰のストレッチがおすすめです。ストレッチの場合には、直接副交感神経を優位にする作用がありますので、室内でいつでも、休息のスイッチを入れたい時にはぜひ行ってみてください。
*体の機能を活発化させる神経を交感神経、休息時に優位に働く神経を副交感神経と呼ぶ
思春期の葛藤に隠されたヒント
──── 体とのつきあい方としては、自律神経の働きを上手に利用する、ということですね。では更年期の時期、不安定になる心については、どのように取り扱えばよいでしょうか?
OCO:更年期=「誰もが通る、“大人の思春期”と、捉えてみましょう」というのが、私からの提案です。思春期は第二次性徴というホルモンの変化があり、更年期もまた、ホルモンの変化によるもの。どのような出方で、どのような葛藤があってその期間を過ごすのか。人それぞれで、個体差や違いが大きいものですが、自身の中では、その両者はどこかリンクしていて、繋がっているように思えるのです。
思春期の頃はどうだったか、ぜひ振り返って、思い出してみてください。
例えば、進路のことや友人関係、家族関係、恋愛のことなどのいろいろな葛藤が、大なり小なりあったのではないでしょうか。その気持ちの葛藤を、心や体の内側に押し込めてしまったことはなかったでしょうか。当時は自己肯定感が低かったり、自信がなかったり、感受性が強すぎたり、自分の気持ちを上手に伝えられなかった…ということもあったかもしれません。けれど「あの時、こういうこともできたよね」など、今の自分だからこそ、やっとそのテーマを俯瞰して、じっくりと扱えるようになった、とも言えると思うのです。
──── 更年期と思春期がリンクしている! それは、とても新しい更年期の捉え方だなと思いました。そういう視点で、揺らぎがちな心を見つめたことはなかったです。
OCO:「あの頃の自分にとっては、こういうことがとても大きな出来事だったんだ」というトピックは、更年期の心にも重なり、また表れてくる…。セラピストとしては、そういうふうに感じることがよくあります。
例えば、特定の出来事、誰かに対するイライラ、気分の落ち込みなど。それらを自覚してはいなかったけれど、更年期の症状として出てくる以前から、実は思春期の頃から、自分自身の心の内側にあったものなのかもしれない、と捉えてみるわけです。
────思春期の葛藤と、更年期の現実が重なるという、具体例はありますか?
OCO:例えば、思春期にヤングケアラーのような役割を担っていて、家族の世話をしながら学業も頑張ってきた人が、当時は「それが普通」と思って生きてきたとします。そして更年期を迎えた今は、子育てや介護に追われている。
でも今は、すべてのケアを自分で抱えるのではなく、周りに頼るという選択を選びとることはできますよね。自分のキャパシティの中で、できることはやるけれども、「歳を重ねたこれからは、もっと自分のために、本当にやりたいことを人生の中心に置いていく」と決めたとしてもいいわけです。
思春期には扱えなかったこと。
成熟した今だからこそ、向き合える
──── ご著書『わたしの解放ガイド』でも、医療従事者としての視点から、介護における捉え方も紹介されていましたね。介護をしている方は、社会制度を積極的に利用してほしい、と。
OCO:今後は社会制度とともに、介護のあり方も変わっていくと思います。私は専門職として、またその過酷さを知っている立場として、介護分野はプロフェッショナルとの連携を図ることを推奨しています。なぜならば、介護は家族の中だけのエネルギーとマンパワーさえ割けば、「“みんなが幸せ”となる領域ではすでにない」ことも、現場を通じて知っているからです。
ですから「今はいろいろなことを選択できる時代なんだ」と、知識を得ることが大事です。その分野のプロフェッショナルと話し合い、家族ごとの大切にしていることを共有し、サービスを受けていくことが重要です。介護を受ける本人の充足と、家族の余白を確保することで、良い距離感で安心できる形を構築していくことが、今の介護分野では達成できるのです。
そして更年期の時期は、思春期の頃には打ち明けられなかったこと、飲み込めていなかったこと、自分さえも意識できなかった悲しみや思いにようやく気づいて、それらを素直に受け止められるタイミングを迎えている、ということでもあるのです。内側で起きていることの整理を、大切に考えるために、少し休息することで時間を作るように、体が求めているのかもしれません。
──── ネガティブなイメージがつきまといがちな更年期ですが、見方を変えることで、思春期の自分を癒やしてあげられる、成熟した大人の時期とも言えるのですね。
OCO:はい。更年期は、自分にたくさん時間を与えていい時期だと思います。思春期も、本当はもっと自分のためだけに使う時間があってよかったのですが、体の変化に戸惑いながらも、性に関することを心置きなく相談することもできずに、ただ日々が過ぎていったのではないでしょうか。けれど更年期も同じように過ごす必要はもうありません。自分の心身に起きている変化に気づいて、余白の時間を持ち、出ている症状とも丁寧に向き合って、焦らずに整えていきましょう。
──── 冷えがある、などの症状も、急にそうなったわけではなく、これまでの生活習慣の積み重ねが体に出ている、ということですよね。「更年期だから」と諦めたり、嘆いたりするのではなく、これまでの自分をニュートラルに見つめる大切な時間にしたいものです。
OCO:その通りですね。更年期=「自分をもっと深く知っていく期間」と捉えることで、とても豊かなものになっていくと思います。また、その後の時間も、とても潤いある時間へと繋がっていくのではないでしょうか。
OCOさんからの問いかけ
今、あなたの心と体は、どのような言葉かけを必要としていますか?
「やりたいことが見つからない」「人生に希望が見えない」「そこはかとなく不安がある」そんな思いを抱えながら、日々に追われて生きているあなたへ、セラピストOCOさんが贈る心の深層を紐解くための一冊『わたしの解放ガイド』(ワニブックス/¥1,650税込)。
イラスト/OCO 取材・文/井尾淳子 撮影/イマキイレカオリ