「初心、忘るべからず」とよく言うけど、これは私が漫画家として生きていく途中で困ったり、悩んだり、迷ったりした時に気がついたら勝手にやっていたことです。
最初のうちはとにかく無我夢中で、あれもやりたいこれもやりたいと頑張っている中で、当たり前だけどネタは尽きるし、漫画への情熱も微妙に減ってくるし、何より世の中誘惑も多くて、楽したいとか、もうちょっとうまいやり方はないのかと、営業的に考えたりしてね。
「次どうしよう」と行きづまった時、「これでいいんだろうか」と迷った時、体力的にもあまりにつらくて限界だった時につい考えてしまうこと、『コレ人間のすることじゃないわ…私、なんでこんなつらいことやってんだろう…』から始まって、『いやいや、自分で漫画家になりたくて自ら進んで飛び込んだことだろうが』に続き、『そういえば私、なんで漫画家になりたかったんだっけ?』『何を描きたくて漫画家になろうとしたんだっけ??え〜っと…』というところまで立ち返ってみると、忘れていた昔の自分の考えが戻ってきて答えが見つかるんですよ。
かつて切望していた初心が、意外と自分の中心に残っていて「甘えんな!まだ漫画家人生の目的をちゃんと果たしてないじゃないか!」と昔の自分に叱られます。ほとんど『 チコちゃんに叱られる』状態(笑)。
とはいえ、初心に戻れるかどうかは別問題。
まあこう言っちゃあ何なんですが、戻れない人がかなり多いのではないかと。
金に目がくらんでやりたくない仕事を引き受けたり、人気に目がくらんでウケを狙って違う路線に走ったり、マジで世の中誘惑だらけですからね。そうやって少しずつ、初心からズレて離れていって、気づいた時には戻れないところまで行くと言うか…たぶん気づかないと思う。
そういえば、以前、出版社Xのパーティに出た時、社長から、「ギャラを倍出すから、うちにこない?」と誘われたことがありました。
あっら〜倍ですか〜ほ〰️〰️とは思ったけど、金持ちになりたくて漫画家になったわけじゃないし、貧乏承知で、好きなことを描きたいと思ってなったので、出版社Sにとどまりました。あ、Sは集英社ですね(笑)。
集英社は比較的、自由に作品を描かせてくれるのも良かったし、当時は実力至上主義で、年齢やキャリアに関係なく、活躍の場がもらえたのも私向きでした。で、初心を忘れずに、自分がやりたい作品を担当を騙しながらも描くことができて、その結局は、たくさん稼ぐこともできたので一石二鳥よ!!ありがとう、集英社!!(笑)
「デザイナー」りぼん1974年11月号扉
取材・文/佐藤裕美
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「不倫、それは峠の茶屋に似ている
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