第57回
「聖護院門跡」
秋の訪れと共に京都への旅が恋しくなっているのでは?
この秋も、京都では、ぜひ訪れたい文化財の特別公開が行われています。
なかでもぜひ…とおすすめしたいのが「聖護院門跡」。
「平安神宮」の北側に位置する「聖護院門跡」。京都の名物の八ツ橋などの老舗が集まるエリアにあり、2月の節分には、宸殿の前では、山伏である修験者たちによる護摩法要や年男・福女に加え鬼も登場する豆まきが行われることでも知られ、毎年、その時期には欠かさず訪れる私です。
この寺の歴史は古く、平安時代、白河上皇の熊野御幸で先達を務めた増誉大僧正が、その功績により寺院を賜り、後に現在の地に創建された修験道の本山修験宗における総本山です。
ここでお目にかかる僧侶の方々は、普段は穏やかなお姿ながら、山伏である彼らは、毎年のように険しい山容で知られる吉野の大峰山などに入山し、厳しい修行をなさるのだとか。
さて、この寺院を訪れると、修行などで集う勇ましいイメージの修験道の総本山とは異なり、なんとも雅で、華やかな建物の景色や室内の設えに驚くはず…。
受付を済ませ、大玄関から宸殿に進むと、「こんな豪華な設えになっていたんだ~」と思わず声がこぼれるほど、途切れることなく続く金色に輝く豪華な障壁画が、訪れる人の心を捉えます。
創建後、明治時代まで、数多くの宮家の皇子を寺に迎え入れた「門跡寺院」で、江戸時代には、御所の火災から逃れた第119代光格天皇が、執務をなさった「仮皇居」となったことからも、その建物の雅さと格式の高さが伺われます。
ちなみに、ここは日本で唯一の「旧仮皇居」史跡地です。
「特に今回は、しばらくぶりに公開される重要文化財の「書院」が見どころのひとつで、江戸時代、後水尾天皇のご側室が賜ったと伝わる御殿を御所より移築したもの。平成30年の台風によって、境内の各所に大きな被害が出ました。
特に、「書院」の被害はひどく、台風上陸当時は、強風で戸が外れそうになるのを僧侶たちと抑えたり、屋根の瓦が飛ばされ、激しい雨漏りなどからも、貴重な障壁画など室内への被害を抑えようと必死でした」と、宮城執事長は、その当時を振り返ります。
「でも、大変なのは、その後…甚大な被害を被った書院の修復には、多くの費用が必要に。天皇御即位記念事業として発願し、クラウドファンディングなどをはじめ、多くの人たちのお力を頂き、数年掛け、ついに完成。今年、修復が完了してから、初めて公開に至りました。これで後世に貴重な宝を伝えることできます」と、説明される宮城執事長。
修復に作業を撮影した写真パネルなども用意され、今では見ることができない建物の内部構造なども知ることができます。
さて修復された書院に進みましょう。
「この書院は、第111代後西天皇の生母で、後水尾天皇との間に5男4女をもうけた櫛笥隆子(くしげたかこ)のために作られたと伝わる建物。随所に女性好みの志向が随所に施されていて、女院のお住まいとして相応しい趣です」と宮城執事長。
確かに、細めの柱や障子の桟、愛らしい釘隠しなど、全体に華奢で優しい趣に設えられているのです。美しい色彩を留める障壁画…いずれも見事なものばかり。
特に驚くのが、床の間横の窓に使われているガラスで、穏やかな陽光が入り、室内から外の様子が伺える、当時としては稀有な設え。「え~この時代に、こんな大きなガラスがあったんですね~」と思わず…。
大変高価な品であることから、後水尾天皇の愛の深さが推し量れるよう。
「聖護院門跡で公開する襖絵は、狩野派の絵師による作で100余点にも及びます。
「うちがスゴイのは、それらが全部オリジナルであることでしょうか?! ですから、十分、その味わいを楽しんで頂けたら…」と宮城執事長。
近年、多くの神社仏閣の襖絵などが精巧なコピーとなり、オリジナルは劣化を避けるために別所に保管されているケースが増えています。「オリジナルとはスゴイ!」と感激。
でも大変貴重なものだけに、鑑賞する場合、近づきすぎたりせず、荷物の持ち方に十分気を付けることが望まれます。
さらに後水尾天皇のゆかりの品なども展示。
特別公開期間中、「書院修復記念特別朱印」1500円も授与されています。
見どころが多く、それを解説してくれるガイドも常駐。十分時間の余裕をもって訪れたい特別公開です。
秋の京都旅…心を豊かにしてくれるものとの出会いが待っています。
「聖護院門跡」
京都市左京区聖護院中町15
☎075-771-1880
秋の特別公開 10月7日(土)~12月3日(日)10:00~16:00(受付)
拝観料/800円
(尚、11月28日、29日は拝観不可)
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