50代女子、願いは「白髪の悩みから解放されること」!
初めまして。ライターのセトッチ(50代)です。
私が白髪が本格的に気になり出したのは40歳になった頃。
そのため、サロンで定期的に染めるようになりました。
でも、50代になると、サロンで染めても2週間もすればもう根元、特に頭頂部とフェイスラインの生え際の白いチラチラが気になるように…。
でも、仕事や家族の予定を調整して、2~3週間おきにサロンの予約を入れるのも大変だし、出費もなかなかの負担…と思っていたところ、コロナ禍に突入。
「サロンに行くのを少し控えたい」と思ったのをきっかけに、ホームカラーに挑戦したのです。
ただ、もともと不器用なうえに慣れない作業とあって、表面は染まっても内側は白かったり、フェイスラインは顔に液剤がつかないよう塗ると肝心の生え際が全然染まっていなかったり。
とにかく白髪のせいで、日々、煩わしいことがいっぱい!
この煩わしさから解放される何かよい方法はないものか…と考え続けていますが、いまだに「これ!」という白髪対策には出会えず、白髪は増えるばかり…。
そこで今回は、敵(白髪)を制するにはまず敵を知ることから…と思い立ち、髪の研究者に取材を敢行。
白髪についての素朴な疑問から、白髪研究の最前線についてなど、徹底的に調査してみることにしました!
この連載で取材にご協力いただいたのは、植物と科学の力で頭皮と髪のエイジングケアにアプローチするイーラルの大原未咲姫さん、幅広いヘアケア製品で日本女性の美を支える花王の島津綾子さん、製薬会社として髪の悩みの根本原因を研究する大正製薬の谷優治さんと廣岡優美さん、サロン専売商品の開発・製造で美容師さんとともに美髪を追求するアリミノの田中二郎さん。総勢4社5名の研究員の皆さんです。
第1回目の今回、さっそく聞いてみたのは「なぜ白髪になるのか?」です。
さあ、気になる答えは…。
【この回の質問に答えてくださった方】
2019年に日華化学株式会社に入社。シャンプー、ヘアトリートメント、頭皮用エッセンスなど、サロン専売のヘアケア商品の処方開発を担う。入社当初より、イーラルブランドに携わり、開発担当者として処方設計やエビデンスデータの取得に携わる。
入社後7年、洗剤用酵素の研究を担当。その後、ヘアケア研究所にて、黒髪メラニンのもとを使った白髪染めの商品開発(リライズブランド)に10年携わる白髪ケアのエキスパート。 〔撮影:山田英博〕
大正製薬株式会社2016年入社。研究本部セルフメディケーション研究センター セルフメディケーション開発薬理研究室所属。ヘアケア開発に8年従事。
なんと白髪は無色透明!メラニン(色素)で髪色が決まる
セトッチ:研究員の皆さんにさっそく質問です。「そもそも、どうして白髪なんかになるのでしょうか~!?(涙)」
イーラル 大原:私がお答えしましょう。
まず、髪色のもとになっているのが「メラニン色素」と呼ばれるものです。このメラニン色素が髪に取り込まれることで初めて髪に色がつく、すなわち、髪色が決まります。
メラニン色素には、「ユーメラニン」と呼ばれる黒褐色系の色素と、「フェオメラニン」と呼ばれる、黄赤色系の色素があります。黒い髪は、ユーメラニンが多く、メラニンの総量も多いです。一方、明るい髪色、例えば、ブロンドの髪はフェオメラニンが多く、メラニンの総量が少ない、ということになります。
そして、ユーメラニン、フェオメラニン、いずれのメラニンもほとんど含まないのが白髪です。
つまり白髪と私たちが呼んでいる髪は、光の屈折などにより私たちの目には「白」に見えていますが、実際には透明なんです。
(上の写真:メラニン色素がうまく取り込まれず生えてきた髪(白髪)を観察した様子。 画像提供/イーラル)
セトッチ:では、透明の髪に色がつかなくなり、そのまま透明なまま生えてくる髪(いわゆる白髪)と、黒など色がついて生えてくる髪になるのは何が違うのでしょうか?
イーラル 大原:大きく言うと3つの原因があります。
白髪(色素がほとんどない透明な髪)になる原因は3つあった!
第1の原因は、「色素幹細胞」から、髪色を作る工場である「メラノサイト」が生み出されなくなること。
髪色のもとになる色素が「メラニン」。そして、「メラニン」を製造する工場のような働きをする細胞が「メラノサイト」。そして「メラノサイト」は「色素幹細胞」から生まれます。
色素幹細胞が、毛髪を作っている場所(毛乳頭細胞)に移動して、最終的にメラノサイトになっていきますが、加齢やなんらかの不調で色素幹細胞の動きが弱くなると、メラノサイトが生み出されなくなります。
それはつまり工場自体がなくなってしまうということですから、当然メラニンを製造できなくなり、髪色をつけることができなくなります。
第2の原因は、「メラノサイト(メラニンの工場)」でうまくメラニンが作れなくなること。
色素幹細胞から誕生したメラニンの工場メラノサイトでは、メラニンを作り始めます。
そして、そのメラニン工場には「MITF遺伝子」という司令塔、「チロシン」という材料、「チロシナーゼ」という作業員がいるというふうにイメージしてみてください。司令塔であるMITF遺伝子の命令により、作業員であるチロシナーゼという酵素が、チロシンというアミノ酸を材料にしてメラニンを作っていきます。
ところが、MITF遺伝子からの指令が減り、チロシナーゼがうまく働かなかったり、チロシンが不足したなどがあると、メラニンの製造がうまくできなくなるというのが白髪の第2の原因です。
最後、第3の原因は毛髪のもとである毛母細胞へ、メラニンの受け渡しがうまくいかなくなることです。
メラノサイトは、「樹状突起」と呼ばれる手のようなものを伸ばして、作ったメラニンを髪のもととなる毛母細胞に受け渡しています。何らかの不調で、この受け渡しがうまくいかなくなると髪に色がつかなくなります。
黒髪を作る機能は復活できる?
セトッチ:すごく複雑。まさに人体の不思議ですね~。メラニンって肌だけではなく、髪にもあって黒髪になるか白髪になるか重要な役割を担っているんですね。
そうそう髪とメラニン、といえば花王の「リライズ」。
あれは使うたびに「黒髪メラニンのもと(ジヒドロキシインドール)」を、髪の表面に定着させていくという製品ですよね。
先ほど大原さんから説明のあったメラノサイトや色素幹細胞の仕組みなどとは別の発想のもと生まれたアイテムではありますが、一般の人が白髪ケアを考えるうえで、メラニンというワードを意識するきっかけとなったような気がします。
〔上の写真:「黒髪メラニンのもと(ジヒドロキシインドール)」配合の花王「 ブローネ リライズ」。「黒髪メラニンのもと」は植物から成分を抽出し、麹の発酵技術を応用して作られた着色成分で100%天然由来。シャンプー後、髪に塗布したら5分おいて流すだけで自然な黒さを補ってくれる〕
それにしても黒髪となるには必須なメラニンですが、先ほど大原さんから説明があった3つの不調、それを取り除けば、「黒い髪を作る機能」を復活させることはできますか? 花王の白髪ケアのエキスパート、島津さんにお伺いしたいです。
花王 島津:メラニンを作るメラノサイトがまったく作られなくなって枯渇してしまったら、黒い色素を作ることができないということですから、もう黒髪が生えてくることはないということになります。
でも、メラノサイトの機能が低下していたり、一時的に調子が悪くなったりということは起こりうること。
そうした一時的なものであれば、その不調が解消してメラノサイトが復活すれば、再びメラニンの生成や受け渡しができるようになり、黒い髪をつくることができるようになります。
セトッチ:不調が解消すれば、また黒髪が作れるのですね! そういえば、髪色が途中で白くなったり、また黒くなったりしている髪がありますね。
花王 島津:そうです。それは、不調だったメラノサイトがどこかで復活した可能性が考えられます。また、復活すれば、今生えている白髪が抜けて次に生えてくる髪は、黒髪になる可能性があります。
セトッチ:それは希望が持てるお話ですね。頭皮用エッセンスなどを使用して、メラノサイトの復活を狙うのもありかもしれません。
〔上の写真:サトウキビから取り出される黒砂糖エキス*をはじめとする美容液成分が奥まで**浸透し、潤いのある頭肌へと導く、頭肌エッセンス「イーラル プルミエ バランシングスカルプエッセンス」。タオルドライ後の頭皮に適量(1箇所に1プッシュ程度)を塗布し、指でやさしくマッサージを。頭皮に潤いを与え、さらりと健やかな頭皮とハリコシのある髪に導きます〕
メラニンを含んでいるかいないかだけで、髪としては白髪は黒髪と同じ
大正製薬 谷:これについては私がお答えしましょう。メラノサイトを生み出しているもとの細胞である色素幹細胞の消失によってメラニンが作られなくなってしまうと、もう黒髪を作る機能が復活することはありません。
色素幹細胞がなくなってしまう原因は加齢によってDNAがダメージを受けてしまって、幹細胞自体がメラノサイトになってしまい、新しいメラノサイトを生み出す機能がなくなるといったことが挙げられます。
そして最近になりもうひとつ言われていることが、精神ストレスによっても同じように色素幹細胞が消失して、新しいメラノサイトを生み出せなくなるということ。
色素幹細胞は本来、メラノサイトを生み出す役割の細胞ですが、加齢などによって不適切なタイミングで自らがメラノサイトになってしまい、幹細胞が枯渇してしまうというような現象が起きてしまうようです。
また、幹細胞は一度メラノサイトになってしまっては元の幹細胞に戻ることはできないため、すごく貴重なのです。
セトッチ:これもまた、すごい世界。生物の細胞の神秘ですねぇ…。
大正製薬 谷:ですから、個人的には、色はついていなくても、髪の毛があるというだけで幸せなのではないかと思っています。
というのも、毛髪は作られなくなってしまうと、薄毛・脱毛が進行してしまいます。たとえ白髪でも、それは髪が作られているということ。
髪を作っているのは、髪色を作っているのとは別の細胞で、髪を作る機能はきちんと働いているということですから。
それに、白髪であれば染めることもできますし、色素幹細胞が完全に消失したわけではないのであれば、髪色が復活する可能性もありますから。
セトッチ:なるほど…。白髪は不健康な髪ではないんですね。
観葉植物に出没する枯葉のようなものだと思っていたので、若いときは枯葉を取り除くように抜いていました…。
大正製薬 谷:メラニン色素があるかないかだけで、髪としては黒髪も白髪も同じ。
髪は1人の人に10万本くらい生えているといわれ、それがおよそ2~6年の周期で生え変わっています。
これは白髪も同じで、成長期→退行期→休止期→自然脱毛のサイクルを繰り返しています。
黒髪と白髪の違いについては世界中でさまざまな見解がありますが、黒髪よりも白髪のほうがと太いといわれています。
これは白髪の成長期が黒髪よりも長いためです。
セトッチ:白髪も黒髪と同じサイクルで、成長したり抜けたりを繰り返すんですね。
それってつまり、白髪は「もう用済みの髪」ではないのですね。なんだかこれまで敵のように思っていて申し訳なくなりました。年齢を重ねても、頑張って生えてきてくれる健気なヤツだったんですね。
白髪さんごめんなさい。これからは老化を一緒に楽しむ相棒と思って仲良くしていきます!
取材・文/瀬戸由美子
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