【教えていただいた方】
銀座ケイスキンクリニック院長。医学博士。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本レーザー医学会認定レーザー専門医。2001年、東京女子医科大学皮膚科助手、聖母会聖母病院皮膚科医員、美容クリニック勤務(兼務)。2006年、有楽町西武ケイスキンクリニック開設。2011年、 銀座ケイスキンクリニック開設。最新の照射治療と注入治療を組み合わせ、メスを使わずに肌質を高め、バランスのとれた若々しい顔立ちに変える治療が人気。著書に『女医が教える、やってはいけない美容法33』(小学館)などがある。
加齢とともに顔がたるむのは、筋肉、脂肪、靱帯、骨と複数の原因が
年齢を重ねるにつれ、誰しも顔がたるみやすくなってくるものですが、その原因には、「顔面の骨やせ」が関係しているとか。まずは、加齢によって顔がたるむメカニズムについて慶田朋子先生に伺いました。
「加齢とともに顔がたるんでいく原因は、いくつかあります。
大きな要因はコラーゲンなど構造を支える成分の劣化による垂れ下がりです。加齢や光老化などの影響で、肌のハリを保つ役割のある真皮のコラーゲンやエラスチンが劣化・減少していくと、表面的なハリが失われていきます。
加齢に伴って顔の脂肪も萎縮してボリュームが減っていくうえ、脂肪を包むコラーゲンの被膜も伸びてスフレのようにふわふわしてきます。さらに脂肪は、表情筋の上を覆うSMAS層と呼ばれる筋膜に複数の細い靱帯で固定されているのですが、コラーゲンが撚(よ)り集まっている靱帯も加齢とともに緩むため、ずり落ちてたるみやすくなります。
次が、筋肉の衰えです。顔には上唇挙筋や口角挙筋のような顔の各部分を引き上げる働きがある“挙上筋”と、口角下制筋や下唇下制筋のような顔の各部分を引き下げる“下制筋”があるのですが、加齢とともに挙上筋は衰えていき、逆に下制筋は強まっていきます。そのため、顔の各部分が下に引っ張られやすくなります。皮膚と脂肪がだぶつきながら下垂しているため引き下げ力が強まってしまうわけです」
エストロゲンの減少によって顔も骨粗しょう症になり、たるみや落ちくぼみを招く
そして、それに加えて起こってくるのが、顔面の骨やせなのだそう。
「女性は閉経後、女性ホルモンのエストロゲンの分泌がなくなると骨粗しょう症になることはご存じのことと思います。
そもそも骨は、骨代謝と呼ばれる新陳代謝を繰り返していて、骨をつくる骨芽細胞による“骨形成”と、骨を壊す破骨細胞による“骨吸収”がバランスよく行われることで、骨は毎日少しずつつくり替えられています。ただ、このバランスは加齢とともに乱れやすくなります。
エストロゲンには、骨吸収を抑える働きがあるのですが、閉経後にエストロゲンが激減すると、骨形成より骨吸収のほうが優位になるため、骨がスカスカになって、骨粗しょう症になりやすくなるのです。そしてもちろん、骨粗しょう症は顔面の骨でも起きます。特に骨やせしやすい部分は、前頭骨、側頭部、眼窩(がんか)、鼻、あごです。顔の骨が痩せると、その上の皮膚は当然たるみますし、骨やせする頃には脂肪も減っているので、顔面全体のボリュームロスでしぼんだ皮膚が垂れ下がりやすくなります。
また、脂肪と骨の萎縮により、筋肉を支える力も弱くなると筋肉が上に縮みにくくなって、引き上げられなくなります。こういった複合的な要因で顔がたるんでしまうのです。
顔面の骨やせによって起こる特徴的な変化は、額やこめかみはへこみ、眉間は平坦になり、眼窩は拡大し、目が落ちくぼみやすくなります。鼻の穴は横に広がって、鼻が平らになり低くなっていくうえ、上顎骨が痩せることでほうれい線やゴルゴラインが目立つようにもなります。
下顎骨は後退して小さくなり、二重あごにもなりやすくなります。逆に、眉骨や頬骨は減りにくいので、そこだけ目立ってきてゴツゴツした印象の顔に。こうして、老けた印象の顔になってしまうのです」
骨やせは誰でもするものなのでしょうか? それとも、骨やせしにくい人もいるのでしょうか?
「もともとの骨格がしっかりしている人は年齢を重ねても骨やせしにくく、特に、頬骨が高い人や、下顎骨がしっかりしている人はたるみにくい傾向があります。そうでない場合、基本的にほとんどの人が骨やせしていきます。特に痩せ型の人は骨やせしやすいので要注意です」
顔面の骨やせは、美容医療で目立ちにくくすることは可能
では、骨やせをしてしまった場合には、どうすればいいのでしょうか?
「美容医療では、骨やせ・脂肪やせした部分にヒアルロン酸を注入することで見た目の骨やせ感は改善できます。ただ、皮膚が伸びて支える力がなくなっているところにヒアルロン酸を入れても、逆にたるみが目立ってしまうことがあります。ですから、まずはハイフなどの照射治療で、劣化したコラーゲン線維を引き締めて、産生を促すことで、皮膚をリフトアップします。そのうえで、骨やせした場所にヒアルロン酸注入をすることで、顔がふっくらしてたるみが目立ちにくくなります。
老化への影響度合いは、萎縮(骨やせ・脂肪やせ):下垂(皮膚・脂肪):拘縮(筋肉)=5:4:1くらいと考えています。骨やせ・脂肪やせは老け見えの最大要因ではあるけれど、それを補うために緩くなった隙間にヒアルロン酸を入れていくと、照射治療で皮膚と脂肪の下垂構造の改革も同時並行で行わなければ、どんどん不自然な顔になってしまいます。老化のメカニズムを熟知した医師のセンスと高い技術が求められます」
【慶田先生の銀座ケイスキンクリニックでの目の下ウルセラ照射治療+ヒアルロン酸注入の参考事例】
ウルセラで目周りのたるみと脂肪突出を引き締め、目の下から頬の骨と脂肪が萎縮した部分に靱帯補強のテクニックでヒアルロン酸を注入し、リフトアップとクマの改善が得られた事例です。
部分的な治療でも自然な若返りの印象になるともいえます。
顔面の骨やせは、生活習慣に気をつけて未然に防ぐことが大切
では、顔面の骨やせによるたるみを防ぐために、自分でできることとは?
「顔の筋肉を鍛えるようなエクササイズをしたところで、土台である骨も脂肪も減っているので顔が引き上がるまでの効果は期待できません。ただ、口角を引き上げるように意識したり、おしゃべりをしたり、歌ったりして表情筋をよく動かすようにするのは、たるみを防ぐためにはよいと思います。
何より大切なのは、骨に必要な栄養をとって骨やせを未然に防ぐことです。
特に骨をつくるのに必要なタンパク質、カルシウムや、カルシウムの合成を助けるビタミンDは意識して補いましょう。
カルシウムは、小魚や乳製品、大豆製品のほか、小松菜や青梗菜などの野菜に多く含まれ、ビタミンDは、きくらげや干ししいたけ、イワシ、サンマなどに多く含まれます。
ビタミンDの合成には日光浴も必要ですが、紫外線は光老化を招き、逆にたるみの原因に。ビタミンD合成のためには、夏なら手のひらに 10 分ほど紫外線を浴びればいいといわれているので、ほかの部分は日焼け止めでガードをするなど注意し、過度に浴びないようにしましょう。
ビタミンDはサプリメントで補うのもおすすめです。
また、骨は重力刺激によって育つので、運動も欠かせません。ウォーキングなど適度な運動も取り入れましょう。それから、痩せすぎると骨も痩せますし、逆に太っていても重みで皮膚がたるみやすくなるので、適正体重を保つことも大切です。
また、閉経後にエストロゲンの分泌が激減することが骨粗しょう症の大きな原因なので、婦人科でHRT(ホルモン補充療法)を受けてエストロゲンを補充することも選択肢のひとつです」
写真/Shutterstock イラスト/平松昭子 取材・文/和田美穂