こんにちは、ぐうたらライターのいしまるこです。
今、日本では2人に1人ががんになるといわれ、「がん」という病気はもはや他人事ではありませんね。
OurAge世代では、自分や家族、身近な人が、がんと診断された経験を持つ人も決して少なくないと思います。
いざというとき、助けになるのは病気や治療に対する正しい知識です。
最近では、がんについての情報もたくさん発信されるようになり、
治療における選択肢の幅が広がってきましたが、こと「緩和ケア」については
情報も乏しく、まだまだ知られていないのが現状です。
そのため、緩和ケアを受ければ改善・解決できる心や体のつらさを抱え込み苦しんでいる、
がん患者さんやご家族が大勢いらっしゃるようなんです。
というわけで不肖いしまるこ、ぐうたらを返上して、11月18日に開催された日本緩和医療学会主催のプレス向け緩和ケアセミナー「緩和ケア最新講座」に参加してきました。目からウロコの役立つ情報をたくさん仕入れてきましたよ!
緩和ケアは診断時から
受けられます
まずは、日本緩和医療学会の細川豊史理事長による、「そもそも緩和ケアとはなんぞや」という基礎知識のレクチャーです。
緩和ケアというと「終末期のがん患者さんへの医療」というイメージが根強いですね。いしまるこもそう思っていました。ところがその考えはもう古いそう!?
「緩和ケアとは、がん患者さんとその家族一人ひとりの、体の痛みや心のつらさなどさまざまな苦痛を和らげ、その人らしい生活を送ることができるように支えていくケアです。そのためには、がんと診断されたときからの継続的な緩和ケアが必要と考えられるようになりました」(細川医師)
実際にがんと診断されると、「頭が真っ白になった」「告知を受けてから2〜3日は記憶が飛んでいた」という人がとても多いとか。診断時から緩和ケアを受けられたら、その後の治療の選択も冷静に考えられるはず。統計学的にも、早期からがんの治療と同時に緩和ケアを受けると、受けなかった場合に比べて生活の質(QOL)が向上するばかりか、余命が伸びるというデータが!
細川ドクター自身の長年の臨床経験でも、「上手く緩和ケアができると余命2〜3カ月くらいと思えるような状態の悪い方でも、半年、1年と生きられたりすることは決して珍しくありません」とのこと!
これはもう、診断時から緩和ケアを受けたほうが、断然おトクなかんじです。
実際にどんなことをしてもらえるのか、もっと具体的に知りたいですね。
次ページでは、緩和ケアの内容やかかり方についてレポートします。
さまざまな分野の専門家が
心や体のつらさに対応します
がんに伴う心や体のつらさはさまざまです。がんと診断されたときのショック、手術や抗がん剤などがん治療によって生じるつらい症状、キャリアの中断、経済的負担、家族の問題、がんが進行したときにどうするか、死への恐怖など…。
このようなさまざまなつらさの相談に乗ってくれるのが緩和ケアなので、緩和ケアを提供している医療機関では、さまざまな職種の専門家がチームを組み、治療を担当する医師や看護師と協力しながら、緩和ケアにあたっています。
セミナーでは、国立がん研究センター中央病院の緩和ケアチームから
7名のスペシャリストが登壇。それぞれの仕事内容について教えてくれました。
左から
緩和医療科長 里見絵里子医師「がんに伴うさまざまな、つらい症状を和らげます」
精神腫瘍科医長 大島淑夫医師「気持ちのつらさの治療にあたります」
ホスピタルプレイスタッフ 小嶋リベカさん「親ががんになったとき、子どもにどう説明するかなど、未成年の子を持つがん患者の、子どもに関する気がかりの支援にあたります」
がん性疼痛看護認定看護師 高田博美さん「ケア全般のアドバイスを行い、入院中はもちろん、転院や自宅で生活するための調整も行います」
精神腫瘍科の心理療法士 堂谷知香子さん「患者と家族の悩みを聞き取り、チームの中で相談しながら解決策を探ります」
がん相談支援センター社会福祉士 宮田佳代子さん「緩和ケアの紹介、生活面や経済面での相談、社会的サービスや療養先に関するアドバイスなどを行います」
緩和薬物療法認定薬剤師 安田俊太郎さん「さまざまな症状を和らげる薬の説明や、服用などに関するアドバイスを行います」
緩和ケアチームのスタッフは医療機関によってさまざまで、歯科医師、歯科衛生士、診療放射線技師、リハビリ専門職や管理栄養士、アロマセラピスト、鍼灸師など、さまざまな分野のスペシャリストが協力して支援を行っています。
と、ここで司会のお笑いジャーナリストたかまつななさんより、ナイスな質問。
「こんなすごいスペシャリストが結集したチームにケアしてもらうとなると、
すんごいお金とられるんじゃない!? って心配になってきたんですけど…」
うんうん、費用のこと、心配ですよねー。
気になる医療費について答えてくれたのは里見絵里子医師。
里見「緩和ケアチームの診療・援助には〝緩和ケア診療加算〟が加算されます。通院でも入院でもこの加算を含めた医療費には医療保険が適用されますよ。医師や看護師が訪問して行うケアにも医療保険が適用されますが、衛生材料費や交通費など保険適用外の費用も必要となることがあります」
たかまつ「保険が効くと聞いて安心しました! それに、入院でも外来でも在宅でも緩和ケアを受けられるってことですか?」
里見「はい。緩和ケアはがんの治療中かどうかや、入院、外来、在宅療養などの場を問わず、いずれの状況でも受けることができます。その施設にがん治療で通院していなくても、緩和ケア外来を受けられる場合もあります」
たかまつ「では緩和ケアを受けたいと思ったらどうすればいいですか? 家族が代わりに相談に行ってもいいもの?」
里見「相談者はご本人でもご家族でも大丈夫です。まずは担当医や看護師、病院のソーシャルワーカーにご相談ください。緩和ケアチームのスタッフに直接相談してもらってもかまいません。
また、各都道府県にある422のがん診療連携拠点病院には、緩和ケアチームの配置が義務づけられています。がん診療連携拠点病院内にあるがん相談支援センターは、がんに関するあらゆる質問や相談にお応えします。ご本人の了解なしに、担当医や他の誰かに伝わることはないのでご安心ください。
その病院にかかっていなくても無料で相談できるので、是非、活用してください」
がん患者の心強い味方になってくれる緩和ケアチーム。緩和ケアを受けると、QOLや余命が延びるのも納得です。
しかし、厚生労働省の研究班が今年6月に発表した、がん対策推進基本計画 中間評価報告によると、「からだの苦痛や気持ちのつらさが制御されている」と感じているがん患者はそれぞれ6割。残り4割もの人がつらさを感じており、緩和ケアがまだまだ不十分である現状が浮き彫りになっています。
緩和ケアがあまり浸透していないのはなぜ?
次ページでは、緩和ケアの普及を阻んでいる原因を探ります。
がんの痛みは医療用麻薬で
安全にコントロールできます
緩和ケアがあまり浸透していない背景には、緩和ケアに対するさまざまな誤解があります。中でも、
医療用麻薬についての誤解は大きいよう。
がんの痛みの治療法は、痛みの強さに従って段階的に鎮痛薬を使い、強い痛みには医療用麻薬が必要になりますが、2014年の内閣政府広報室によるがん対策に関する世論調査報告では、がんの痛みが生じ、医師から医療用麻薬の使用を提案されても、4人に1人が「使いたくない」と答えています。
その心中には「だんだん効かなくなる」「最後の手段」「やめられなくなる」「副作用が強い」「寿命を縮める」「精神的におかしくなる」「がん治療に悪い影響がある」など、ネガティブな思い込みが多々あるようで…。
淀川キリスト病院緩和医療内科主任部長・池永昌之医師は、
「これらのネガティブイメージは全部まちがい。がんの痛みは医療用麻薬で安全かつしっかりコントロールできるんです」と、力強く言い切ります。
「痛みを放っておくとそのことしか考えられず、夜眠れなくなったり、食欲がなくなったり、気分がふさいだりして、生活が著しく制限されてしまいます。
痛みがおさまっても、またあの痛みが出るのではと不安に脅されてしまう。
痛みをとることで活動の幅が広がり、がん治療にもしっかり向き合うことができ、より自分らしい生活が送れるのです」
緩和ケアは新しい医療の流れと見られがちですがそうではなく、医療が十分に整っていなかった時代には医療の主流だった、と池永医師。外科医療の発展に大きな功績を残した16世紀の外科医アンブロワーズ・パレの言葉を引用します。
「〝ときに治し しばしば和らげ 常に癒す〟
これは、医学生が医学を教わるとき、必ず教えられる金言ですが、つらさを和らげる緩和ケアは、医療の原点なのです。
治療に伴う痛みをできるだけとるということは医療者の義務であって、患者にとっては当然の権利です。患者が苦痛なく日々を過ごせるよう、しっかり緩和ケアを提供することは、国を上げて考えていかないといけない問題です。
患者さんとご家族には、痛みや苦痛をがまんしないで、医療者に遠慮なく伝えてほしいと思います。必ず改善策はありますから」
患者も家族も
心のケアを受けられます
体の痛みのケアだけでなく、心の痛みのケアも緩和ケアが担う大きな役割です。
診断時からがんの初期には、むしろ心のケアのほうが必要です。ところが…。
「心のケアが必要なのにつながらない、つながっても適切な心のケアが提供されていないという厳しい現状があります」と指摘するのは、市立札幌病院精神医療センター副医長上村恵一医師。
「がん患者が抱える問題の中で精神心理的問題はもっとも多く、ときには自殺につながることもあります。にもかかわらず、がん患者の心のケアは軽視されがちです。〝がんなんだからつらいのは当たり前〟という思い込みがあり、患者さん自身心の問題に気づかず、治療医もそれほどではないと見過ごしてしまう。
また、全国には約1万6千人の精神科医がいますが、緩和ケアに携わる精神科・心療内科の医師はそのうちの5.6%に過ぎません」(上村医師)
うーん、がんの精神医療もまだまだ課題が多いよう。
がんになったとき、ちゃんと心のケアが受けられるのか心配です…。
「確かに、これまではがん患者のつらさを診療できる医師は少なかったけれど、今はがんに関連した心のケアを専門とする〝精神腫瘍科医〟も育ってきています。また、精神科医だけでなく、診断・治療にあたる医師や看護師、臨床心理士など、すべての医療者に心の緩和ケア研修を働きかけています。
ですから、つらい気持ちはひとりで抱え込まず、身近な医療者に是非伝えてください。家族のストレスや心配事も支援しますので、遠慮なくご相談くださいね」
おおっ、心強い! 今回、緩和ケアセミナーに参加して、がんへの恐怖心が和らぎました。これまでのがんへのこわいイメージは、知らないことからくるものだったのかも。自分や大切な人ががんになったときのために、緩和ケアについてもっともっと知りたくなりましたよ。
「緩和ケアへの誤解ががんへの不安を煽り、恐怖がうずまいてしまう。私たち医療者は、その誤解をひとつずつ取り除くことが大切だと考えています」と、愛知県がんセンター中央病院緩和センター副センター長の下山理史医師。
「緩和ケア普及啓発キャンペーンでは、これからも街頭イベントや公開講座を開催していく予定ですので、気軽に参加してください」
緩和ケア最前線レポート第2回目は、がんの心のケアについて、
さらに掘り下げます。乞うご期待!
取材・文/石丸久美子 撮影/冨樫実和 イラスト/浅生ハルミン