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横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第5話 両家顔合わせ

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

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主人公・佐和が息子から紹介された結婚相手はすでに妊娠しており、お腹の目立たないうちにサクッと家族だけで式をあげたいという。納得できない佐知ではあったが、これから怒涛のように準備しなければならないことで頭がいっぱいになっていた。作家・横森理香が描く大人のリアリティ小説。

ミック・イタヤ

イラスト/ミック・イタヤ

 

第5話 両家顔合わせ

 

そこは都心にありながら、歴史ある、日本庭園のきれいな式場だった。最近チャペルもリニューアルし、神前挙式も挙げられる。結婚式場以外に料亭とレストラン、庭に面したカフェもあった。

十月のあたたかい週末、カフェで佳恵の母親と待ち合わせをした。

庭にカフェテーブルが出ていたので、

「オープンエアの方がいいから、ここにしない?」

 と佐知はみなを促した。

感染者数が激減しているとはいえ、新しい変異株が出てきたので、まだ油断はできなかった。

 

「いらっしゃいませ。お飲み物は?」

 勤続ウン十年であろう初老のウェイターが聞く。

「生ビールください」

夫が嬉しそうに注文した。

「私ハーブティ。レモンバームとカモミールので」

と花梨。

「私はカフェラテでお願いします」

「かしこまりました」

 

佐知は目前の美しい芝生を眺めていたら、気分が高揚し、自分がもう一度結婚式をあげたいぐらいだった。

「はぁ~、素敵ねぇ。夢のようだわねぇ・・・」

緊急事態宣言が明けたら、どこか素敵なところでお茶をしたいというのが、佐知のコロナ禍における夢だった。

「夕方も雰囲気があって、素敵でしょうねぇ・・・赤口なら夕方からでも運気がいいし」

佐知は暦を見て、もうだいたいの日取りを決めていた。

「十一月の平日で赤口は、後半なら19日か25日なんだよね」

佐知がスマホで暦を出し、みなに見せる。

25日は木曜で翌日みなさん仕事があるでしょうから、19日の金曜日がいいんじゃない? わー、びっくりした」

 

知らぬうちに、背後に久志が立っていた。

その後ろに佳恵と、母親らしいおばさんがいる。娘に違わず、地味な佇まいである。

「初めまして、佳恵の母です」

にこやかに挨拶するが、やはり娘と同じ、芯の強さを感じる人だった。近郊の市立病院で婦長さんをやっているという。

あいさつ代わりに、コロナ禍の医療従事者に対するねぎらいで盛り上がり、早々と本題に入った。

 

 

「本人たちの意向と、まだコロナも予断を許さぬ感じなので、このトワイライトミニマムプラン、というので行こうと思うんですが・・・」

夫が議長を務め、アシスタントの花梨がサクサクとiPadで必要な画面を見せる。

「両家だけの最少人数での挙式、写真撮影、会食と。いかがですか?」

「ええ、じゅうぶんだと思います。高齢者はお呼びしないほうがいいでしょうし、佳恵の体にも負担がないですから」

 

なんだかつまらないな、と、佐知は思った。

高齢といってもまだ元気な母親や、叔母も呼んであげたかったのに・・・。

「佳恵さんは、ウェディングドレスと和装、どっちがいい?」

佐知が佳恵に聞くと、花梨がアイパッドで貸衣装のページを出す。

「ウェディングドレスはウェストマークが無理でしょうから、和装がいいと思います」

にこりともせず佳恵が言う。

「そ、そうよね」

佐知は佳恵のお腹を見た。

だぼっとした洋服を着ているから分からないが、もう少し、膨らんできているのだろう。

「え、でも、帯が苦しくないかな?」

久志が心配そうに言う。

 

花梨がスマホでサクサク調べて、

「式場はプロの着付け師さんがいるから、妊娠中であることを告げれば、負担がないように着せてくれるって」

「そうだよな。昔はみんな着物着てたわけだし・・・」

夫が訳も分からず口出しをする。

「そうよね。じゃ、写真撮影までは着て、お食事の時は楽な恰好に着替えるのはどう?」

佐知が提案した。

「助かります」

佳恵は真顔でそう言った。

 

なんか、盛り上がんないわー、この子。嬉しくないのかな?

地味な子だから、ほんとは結婚式なんか挙げたくないんだろうな・・・。

入籍だけして、二人だけの生活をしたいに違いない。

 

「孫が生まれるのに、そうはさせないわよ」

佐知はほほ笑みながら、心の中で断言した。

 

 

◆「mist」のこれまでのお話は、こちらでお読みいただけます。

 

◆次回は、8月30日(火)公開予定です。お楽しみに。

 

 

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