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きれいの呪縛/松本千登世

松本千登世

松本千登世

1964年生まれ。美容エディター。客室乗務員、広告代理店勤務、出版社勤務を経てフリーランスに。自らの経験に基づいた審美眼によって語られる、エッセイや美容特集がつねに注目の的。著書に『もう一度大人磨き 綺麗を開く毎日のレッスン76』(講談社)などがある

広告や雑誌などで幅広く活躍するヘアスタイリスト、hanjeeさん。卓越したセンスとテクニックの持ち主、それでいて出会う人出会う人を瞬時に惹きつける「人たらし」。女優やモデルからの指名も多く、髪にササッと触れるだけで、途端にページが洗練されると評判だ。そんな彼に、夏のヘアスタイルの取材をしたときのこと。湿気や汗でぼわんと広がったり、ぺたんとつぶれたり、大人の髪はとかく扱いづらい。個人的に悩んでいることもあって「どうしたらいい?」と問うてみた。すると? 「逆らわないで、ゆだねるほうがいいんじゃないかな?」。夏だからといって、ことさら涼しげでなくたっていい。その日、その天気、その空気、その気分に左右される髪でいい。思いもしない答えだった。

松本さん 花

世界を舞台に活躍する彼のこと、モデルは、国籍も民族も年齢も、だからこそ髪質もさまざま。撮影場所は、都会の真ん中だったり、南の島だったり。寒い日、暑い日はもちろん、湿気が多い日もあれば、風が強い日もある。ひとつとして同じシチュエーションがない中で、はっとする美しさを創り上げるためには「一瞬」に逆らわないこと、ゆだねること。「例えば、砂浜で海風を受けるシーンでは、湿った髪が束になって、顔に張りついていても、むしろ、そのほうが美しいでしょう?」とhanjeeさん。湿度や温度、動きや感情、すべてが一瞬を作っているのだから、つねに、非の打ちどころのない「完璧」が美しいとは限らない。完璧じゃないことが美しいことがある。ふと、肩の力が抜けた気がした。

いつの頃からだろう? いつでもどこでも、きれいでいなくちゃいけないという「呪縛」に支配されるようになったのは。肌は白いほうがいい、目は大きいほうがいい、唇は厚いほうがいい、そして…若く見えるほうがいい。子育てをしていてもネイルを塗っていないといけないとか、年齢を重ねてもシミやシワがあってはいけないとか。きれいの理想を一方向に定めて、誰もがそっちに向かわなくてはいけないという、呪縛。今こそ問いかけたいのだ。それって本当に美しい? と。

 

ふと思い出した。TVで偶然目にした、動物園で働く新人飼育員の女性。母親に飼育放棄されたチンパンジーの赤ちゃんに、必死でミルクを与える彼女の手は、いたるところに切り傷や擦り傷があり、見るからに痛々しい。爪は薄汚れ、ぼろぼろ。肌は日焼けし、化粧っ気なし、髪は思いきり乱れてる…。それでも、彼女は、息をのむほど美しかった。この一瞬を一生懸命生きている手、顔、人。生き方が見える姿に、心を揺り動かされたのだ。

 

誤解を恐れずに言えば、私たち世代は物質的な豊かさや便利さ、特に美容の進化を味方に、「年齢を重ねてもきれい」、いや「年齢を重ねるほどにきれい」をかなえてきたパイオニアなのだと思う。それだけの体力や気力、肌力にあふれている世代。だからこそ、自信と余裕を持ち、率先してきれいの呪縛から解き放たれたいと思うのだ。多少シミがあっても、太陽の下で深呼吸している人。シワを気にすることなく、仲間と大笑いしている人。疲れているときは、おしゃれできない、メイクできないとため息をついているその姿も。一瞬にゆだねて、自然に人間っぽくいられる人が美しい。そんな価値観を私たちが創りたい、と。

 

 

原文/松本千登世  写真/興村憲彦

 

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