夏目漱石の『三四郎』の中に、「可哀想だ、たあ、惚れたってことよ」という文章が出てきます。相手のことを「かわいそう」と思うのは、愛情が入ってないと出てこない言葉だと言うことだけど、「まったくしょうがないんだからぁ」も同じように愛情がにじみ出てる言葉よね。
そもそもこのセリフを言った時点で、彼が何かマズいことをやってしまったわけです。にもかかわらず、「まったくしょうがないんだからぁ」という言葉には、助けてあげたい、世話してあげたいというニュアンスが感じられます。また、相手のことをよく知っていて、慣れ親しんだ関係だからこそ出てくる言葉で、「またやったの!?」「いつもアナタはこうなんだからぁ」という感じ。まさに“情”を感じるセリフですね。
だから子どもに対しても言うし、あとペットにも言ったりすると思うの。つまり自分が相手よりちょっと優位な立場にいるということ。そう考えると、「まったくしょうがないんだからぁ」という言葉が出るカップルは、女にとって結構居心地のいい、楽な関係だと思う。
だってあまりに完璧すぎる彼だとくつろげないじゃない?でもそこにダメさを発見すると、女はちょっと安心して落ち着くんです。
ただ残念ながら、私自身にはその要素が少ないんですよ。“あばたもえくぼ”にならない。“あばたはあばた”、えくぼに見える人は視神経が壊れてますよ(笑)。2~3割だったら感情を上載せできるけど、「好きな人がくれたものだったら、100円ショップの指輪でもうれしいわ♪」って思…いたい!一条は、悲しいほど目がくらみません(笑)。
その点、「まったくしょうがないんだからぁ」というセリフが出る人は、間違いなく5割は感情が載ってると思う。目を曇らせる愛の力ってすごいわ。
「有閑倶楽部 剣菱家の事情」りぼん1988年1月号扉
取材・文/佐藤裕美