漢方薬を試してみたいけれど、疑問点がいろいろあるので教えて!
近年、人気が高まっている漢方薬。
さまざまな不定愁訴に効果を発揮することから、40代、50代の女性の間でも服用する人が増えているようです。
その一方で、使ってみたいけれど、どこで手に入れて、どんなふうに飲めばいいのかよくわからないなどといった理由から、試すのを躊躇している人もいるのではないでしょうか。
そこで、漢方薬を取り入れる際のさまざまな不安や疑問に、漢方に精通する医師の今津嘉宏先生に答えていただきました!
質問に答えていただいたのは、漢方を取り入れた診療の第一人者、「芝大門 いまづ クリニック」院長の今津嘉宏先生
今津嘉宏先生は、2011年の東日本大震災を機に、現場で患者と直接かかわる仕事がしたいと考え、患者のそばにいられる「町医者」を目指して、「芝大門 いまづ クリニック」を開業。
外科医として大学病院に勤務していた頃に漢方の可能性に惹かれ、その後、本格的に漢方医学を勉強。以来、漢方をがん治療に取り入れるなど、西洋医学と漢方医学を区別することなく、両方のよいところを取り入れ、患者さんの状態を総合的に診たうえで最適な方法を選び、診療にあたっています。
■漢方薬の入手方法、診察、服用などについて。
詳しく知りたい人のためのQ&A
Q1 漢方薬はどこで手に入るの?
A 漢方を扱う病院や、漢方薬局、ドラッグストアなどです
「漢方薬には、医師が処方する医療用医薬品と、薬局で自由に購入できる一般用医薬品があります。
医療用医薬品の漢方薬は、漢方を扱う病院や、漢方専門の病院で医師の診察を受けると、処方してもらうことができます。
一方、一般用医薬品は漢方薬局やドラッグストアなどで購入できます。こちらは医師の処方箋はなくても買えますが、薬剤師に相談したうえで購入するのがおすすめです」
Q2 漢方薬を処方してもらいたい場合、どんな病院を選べばいいですか?
A 医師なら誰でも処方できますが、漢方薬の知識を持った医師がいる病院がおすすめ
「国家資格を持っている医師であれば、誰でも漢方薬を処方することが可能です。ただ、すべての医師が漢方薬に精通しているわけではないので、処方してもらいたい場合は、ホームページなどで確認して、しっかりと漢方薬の知識を持った医師がいる病院を選ぶとよいでしょう。
保険診療で漢方薬を処方するには、処方する医師の責任が問われるので、患者さん側が漢方薬を希望しても、拒否される場合もあります。受診する前に医療機関へ問い合わせをして、確認しましょう」
●「日本東洋医学会」の下記WEBサイトで、専門医を検索することができます
https://www.jsom-member.jp/jsomWebMember/html/senmoni_kensaku_search.html
Q3 漢方薬を処方してもらう場合、薬局の薬剤師さんでも問題ない?
A 問題ありません
「医療用医薬品の中には、注射薬や向精神薬などのように医師の処方箋がなければ販売することができないものもありますが、漢方薬に関しては、薬剤師でも一般用医薬品の漢方薬と同様に処方することができます。ただし、保険はきかず、自費(薬剤費10割負担+処方手数料)になります」
Q4 その人に合う漢方薬は、どんな診断をして決まるの?
A 「四診(ししん)」を行って、その人の体の状態を診断します
「漢方の診察法は、“四診”と呼ばれています。四診とは、望診(ぼうしん)、聞診(ぶんしん)、問診、切診(せっしん)の4つの診察からなります。
まず、望診とは、文字通り目で見て情報を得ること。体つきや顔色、肌の色ツヤ、むくみの有無など、患者さんを目で見ることで得られる情報です。診察室に入ってきた患者さんの歩き方などや、舌の状態を観察する“舌診”も望診に含まれます。
聞診は、耳で聞こえた情報と、鼻で嗅いだ情報です。声だけでなく、呼吸音や歩くときに発する音、話す際の雑音など、その人が発するさまざまな音をチェックします。鼻で嗅いで得られる情報は、口臭や汗の匂い、特定の病気によって発せられる匂いなどです。
そして、問診は、口から得られた情報のこと。質問をして得られる情報です。
家族歴、既往歴や薬剤アレルギーなど、治療に必要な情報を確認します。
また、切診は、肌に触れて得られる情報です。脈をとったり、お腹に触れたり、手足に触ったりと、直接患者さんの肌に触れて得られる情報です。
この四診で集めた情報から、患者さんの体の状態を診断します。
四診は、観察力やコミュニケーションスキルによって情報量が大きく変わるので、医師の知識や経験が重要になります」
Q5 お医者さんに処方してもらう漢方薬と、市販の漢方薬の違いとは?
A 含まれている生薬の割合や濃度が異なります
「医者が処方する漢方薬も、市販の漢方薬も、厚生労働省の基準を遵守したものです。サプリメントや健康食品と違い、しっかり管理されている薬品なので、どちらも安全で安心して服用することができます。
ただ、同じ製薬会社の同じ名前の漢方薬でも、医者が処方するものと市販のものでは、含まれる生薬の割合や濃度が違います。市販の漢方薬は、副作用によるトラブルが起こる危険性を考慮して、医者が処方する漢方薬より濃度が低くなっています。
ですから、より高い効果を期待するなら医者に処方してもらう漢方薬を、とりあえず気軽に試してみたいなら市販薬から始めるというように、選び分けるとよいと思います」
Q6 市販の漢方薬は、「私の今の症状にはこれかな」と自分で判断して買って大丈夫?
A 市販薬を買うときは自己責任。判断が難しい場合は薬剤師に相談を
「市販の漢方薬を自分で購入するときは、自己責任になります。自分で判断するのが難しい場合は、ドラッグストアや薬局の薬剤師さんに相談したうえで購入するのがおすすめです。
特に、持病がある場合やアレルギーなどがある場合は、注意する必要があります」
Q7 漢方薬はいつ飲むといいの?
A 食前(食事の約30分前)か、食間(食後2〜3時間)に飲むのが基本です
「漢方薬は、食前、あるいは食間に飲むのが基本です。
漢方薬に含まれる有効成分は、食物繊維に吸着されてしまうことがわかっているので、消化管内に食物がある状態で漢方薬を服用すると、効果が弱まってしまうからです。
つまり、食前または食間というのは、胃から小腸に食物の残渣(ざんさ)がない状態ということです。
食前に服用するなら食事の約30分前、食間なら食後2〜3時間がよいでしょう。例えば、起床時、就寝時、出社時、退社時、午前10〜11時、午後3〜4時などがとりやすいと思います」
Q8 漢方薬のエキス剤の味が苦手です。おすすめの飲み方はありますか?
A 苦味のある飲み物に混ぜたり、オブラートに包んでとりましょう
「漢方薬でも錠剤やカプセルは飲みやすいと思いますが、顆粒エキス剤は味が苦手な人も多いかもしれませんね。
その場合は、コーヒーやココア、抹茶など苦味のある飲み物に混ぜたり、オブラートに包んで服用するとよいでしょう。また、エキス剤の粉が苦手な場合は、少量のお湯で溶かしてスープのようにして飲むとよいと思います」
●オブラートの正しい使い方
1)薬をオブラートで包みます。
2)コップに、4分の1から3分の1程度の量の水を入れます。
3)オブラートで包んだ薬を、水が入っているコップに入れます。
4)オブラートの表面が溶けるまで、60~90秒ほど待ちます。
5)オブラートに包んだ薬を、コップの水と一緒に飲み込みます。
Q9 保険はききますか?
A 保険診療の病院で処方されるものは、保険がききます
「漢方薬局やドラッグストアの漢方薬は保険がききませんが、保険診療を行っている病院で処方される漢方薬は保険がききます。
漢方薬局で購入すると、1カ月分で1万〜2万円以上と高額なことが多いですが、保険診療の場合、1カ月分で2000〜3000円程度、高くても5000円程度なので、経済的な負担が少なく続けやすいです」
Q10 漢方薬は、西洋の薬と併用していいの?
A 自己判断で併用せず、医師や薬剤師に相談を
「すべての薬は、患者さんの症状に合わせて処方されるもので、組み合わせる場合は、安全性を確認する必要があります。風邪薬ひとつとっても同様です。併用する場合は、医師や薬剤師に相談しましょう」
Q11 副作用はないの?
A 漢方薬にも副作用はあります
「漢方に使われている生薬は、とりすぎたり、長期間とったりすると、副作用が起きることがあります。
例えば、風邪薬として使われる麻黄湯(まおうとう)や葛根湯(かっこんとう)に含まれる麻黄という生薬は、主成分が、西洋薬に用いられるエフェドリンです。
麻黄には、血管拡張作用や抗炎症作用、心臓刺激作用、鎮咳作用、交感神経刺激作用などがあり、とりすぎると、不眠、動悸、頻脈、興奮、血圧上昇、発汗、多尿などの副作用が起こることがあります。
麻黄を含む漢方薬と、エフェドリンを含む風邪薬を併用すると、副作用の原因になるので避ける必要があります。
ほかにも、漢方薬の約7割に含まれる甘草(かんぞう)という生薬は、多量に長期間とると、むくみや血圧上昇を招きますし、慢性肝炎などに用いられる小柴胡湯(しょうさいことう)という漢方薬は間質性肺炎を招くことがあるので、他剤との併用は禁忌です。
このように漢方薬にも副作用はあるので、医師や薬剤師の指導のもとで服用するのが理想的。また、飲んだあとにこれは副作用かなと思ったときは、すぐに医師や薬剤師に相談しましょう」
Q12 漢方薬は、自分で気に入ったら、症状が治っても飲み続けてもいいの? また、症状を治すためでなく、予防のために飲むのもアリ?
A その場合は自己責任で、保険はききません
「医療用の漢方薬は医師が処方するものなので、医師の指示に従って飲みましょう。
一方、市販の漢方薬を続けて飲む場合は、自己責任になります。飲み続けると副作用を招くものもあるので、医師や薬剤師に相談するのがおすすめです。
また、医師は、治療のために薬を使用することは認められていますが、予防目的や、患者の希望による薬の使用の場合は、保険適用外となります。それを理解したうえで、医師に相談してみましょう」
いかがでしょうか?
漢方薬を飲みたいと思っても、入手する場所や方法に違いがあること、保険が適用される場合とされない場合があること、医師や薬剤師の指導のもとで服用するのが安心なこと…。
さまざまな注意事項があることもわかりましたね。
上記のQ&Aの内容を踏まえ、きちんと効果が得られるよう、安心安全な手順や方法で漢方薬を取り入れましょう!
【教えていただいた方】
「芝大門 いまづ クリニック」院長。藤田保健衛生大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科・副医長、慶應義塾大学医学部漢方医学センター助教、北里大学薬学部非常勤講師などを経て、2013年に「芝大門 いまづ クリニック」(東京都港区芝大門)を開業。日本外科学会認定医・専門医。日本消化器病学会専門医。日本東洋医学会専門医・指導医。西洋医学と東洋医学に精通し、科学的見地に立って漢方による治療を実践。おもな著書に『健康保険が使える漢方薬の事典』(つちや書店)、『まずはコレだけ! 漢方薬』(じほう)などがある。
写真/Shutterstock 取材・文/和田美穂