漢方薬で肌のトラブルも治せるってホント?
症状が出るとつらい蕁麻疹(じんましん)には、どんな漢方薬が効く?
「気血水」の乱れ、「六病位(ろくびょうい)」の段階、蕁麻疹のタイプなどを総合的に診断して、最適な漢方薬を選択します
強いかゆみとともに皮膚に現れる蕁麻疹。発疹ができる部位や大きさ、形はさまざまで、数時間で消えることもありますが、慢性化して数週間続くことも。
漢方医学では、そんな蕁麻疹をどのように診察していくのかを、今津嘉宏先生に伺いました。
「漢方治療では、どんな症状でも、まず、気血水(この連載の第1回を参照)のどこにバランスの乱れがあるかを診断します。
そして次に、“六病位”を判断します。六病医とは、病態の変化を6つの時期に分類したもので、具体的には、病態の進行度に応じて、太陽病(たいようびょう)、少陽病(しょうようびょう)、陽明病(ようめいびょう)、太陰病(たいいんびょう)、少陰病(しょういんびょう)、厥陰病(けっちんびょう)の6段階に分けます。
その診断結果に応じて、最適な漢方薬を選んでいきます。
皮膚科では、抗ヒスタミン剤を中心とした薬で治療することが多いですが、改善しにくい場合は、漢方薬を試してみるのもよいと思います」
では、蕁麻疹には、具体的にどんな漢方薬が用いられるのでしょうか。
蕁麻疹には、さまざまなタイプがあります
「蕁麻疹は、男性より女性に多い症状で、女性は体調の変化によって蕁麻疹が現れることが多いようです。
ただ、蕁麻疹といっても、タイプはさまざま。
平坦でインクをしみ込ませたような発疹が赤く広がっているものもあれば、低い隆起を伴った発赤(ほっせき)もあります。また、赤くなっていても、熱を伴っているものと熱を伴っていないものがあります。
そのほか、疲れたときや産後などに出る蕁麻疹もありますし、バッグを持ったときなどに腕が圧迫されてみみず腫れになるような物理的刺激による蕁麻疹もあります。
このようにさまざまなタイプがあるので、よく観察する必要があり、タイプに合わせて、以下のような漢方薬を選びます」
蕁麻疹に用いられる主な漢方薬
●平坦で皮膚が赤くなっている蕁麻疹や、熱を伴った蕁麻疹
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)……「熱」による毒症状を解毒する漢方薬。熱感があるかどうかが選ぶときの指標。皮膚トラブルでは、蕁麻疹のほか、皮膚掻痒(そうよう)感、皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、にきび、色素沈着などに効果的。
●低い隆起を伴っている蕁麻疹や、熱を伴っていない蕁麻疹
四物湯(しもつとう)……気血水のうちの「血」の異常に用いられる漢方薬。瘀血(おけつ/血の滞り)や、血虚(けっきょ/血の不足)によって起こる症状の改善に効果を発揮し、皮膚トラブルでは、蕁麻疹のほか、皮膚の乾燥、皮膚掻痒感、シミなどに用いられます。
●疲れたときや、産後などに生じる蕁麻疹
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、温経湯(うんけいとう)……2つとも生薬の「人参」が含まれる漢方薬。疲れたときや産後に生じる蕁麻疹は、体力の低下が原因。漢方医学では、気血水のうちの「気」が不足した気虚(ききょ)と判断し、人参が含まれる漢方薬を用います。気虚になると、体がだるい、気力がない、疲れやすい、食欲不振などの症状が出やすいので、この症状とともに蕁麻疹がある場合に、これらの漢方薬を用いることが多いです。
●皮膚の圧迫など、物理的刺激によって生じる蕁麻疹〈皮膚描画症(ひふびょうかくしょう)〉
葛根湯(かっこんとう)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)、麻黄湯(まおうとう)……物理的刺激による蕁麻疹は、漢方医学では、六病位でも初期段階の“太陽病”と判断し、葛根湯、麻黄附子細辛湯、麻黄湯のような太陽病期の症状に効果的な、麻黄を含む漢方薬を用います。
以上が、蕁麻疹に用いられる主な漢方薬です。
ただ、自分では、どのタイプの蕁麻疹かを見極めるのはなかなか難しいので、医師に処方してもらうのがベター。
「同じ蕁麻疹の症状でも、友人がよいと言ってすすめてくれた漢方薬が、あなたに合うとは限りません。また、同じ患者さんでも、月経周期や体調の変化によって漢方薬を使い分ける必要もあります。
ですから、常に自分の症状を医師に正確に伝えて、処方してもらうのが改善への近道。そのためにも、日頃から、漢方薬に詳しいかかりつけ医をもっておくことをおすすめします」
■編集部セレクト/
肌のトラブル「蕁麻疹」。市販の漢方薬から選ぶこともできます
「蕁麻疹」の症状が出たとき、いちばんよいのは病院に行って医師に診断してもらうことですが、病院に行く時間がない…といったときの対策として、市販薬にどんなものがあるかもチェックしておきましょう。
ドラッグストアなどで買える市販の製品にも、「蕁麻疹」に効果のある漢方薬があります。
ただ「蕁麻疹」といっても、いろいろなタイプがあるので、説明をよく読んだり、薬剤師さんがいる場合は相談してから、どれを選ぶか判断しましょう。
ここでは、いくつかの例をご紹介します。
●黄連解毒湯
皮膚炎などによるかゆみに。
ツムラ漢方黄連解毒湯エキス顆粒A(おうれんげどくとう)(第2類医薬品)20包(10日分)¥2,640(メーカー希望小売価格)/ツムラ
・のぼせぎみで顔色が赤く、イライラする傾向のある人の口内炎、湿疹・皮膚炎、胃炎、二日酔、不眠症、鼻出血、血の道症に効果があります。
●十味敗毒湯
ツムラ漢方十味敗毒湯エキス顆粒(じゅうみはいどくとう)(第2類医薬品) 20包(10日分) ¥2,640(メーカー希望小売価格)/ツムラ
「クラシエ」漢方十味敗毒湯エキス錠(第2類医薬品) 96錠 (8日分) ¥2,640(メーカー希望小売価格)/クラシエ薬品
●消風散
・「消風散」は、漢方の古典といわれる中国の医書『外科正宗(げかせいそう)』に収載されている薬方です。
・かゆみの強い慢性湿疹に効果があります。
・患部に赤みが強く、分泌物が多く出るような慢性湿疹に効果があります。
消風散料エキス錠クラシエ(第2類医薬品) 180錠 (15日分) ¥3,993(メーカー希望小売価格)/クラシエ薬品
【教えていただいた方】
「芝大門 いまづ クリニック」院長。藤田保健衛生大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科・副医長、慶應義塾大学医学部漢方医学センター助教、北里大学薬学部非常勤講師などを経て、2013年に「芝大門 いまづ クリニック」(東京都港区芝大門)を開業。日本外科学会認定医・専門医。日本消化器病学会専門医。日本東洋医学会専門医・指導医。西洋医学と東洋医学に精通し、科学的見地に立って漢方による治療を実践。おもな著書に『健康保険が使える漢方薬の事典』(つちや書店)、『まずはコレだけ! 漢方薬』(じほう)などがある。
写真/Shutterstock〈イメージカット〉 取材・文/和田美穂