握力低下と間違った手の使い方が「手力低下」の原因
加齢により、筋肉量の減少や筋力が低下していることをサルコペニアといいます。その診断基準のひとつに握力測定があり、握力が男性28kg、女性18kg未満だと握力低下と判断されます。そして、この握力の低下は体全体の筋力の低下を示すとされています。
最近、未開栓のペットボトルのふたが開けづらくなったという人は注意が必要です。
「40歳を過ぎた頃から、握力の低下とともに『手の痛み』を訴える人も増えてきます。手が痛くなると、とたんに生活の中で不都合が出てきますよね。
先日、私のところに『山登りに行ったら手が痛くなった』という不調を訴える40代の患者さんが来ました。『山登りで、どうして手?』と思い、よくよく聞いたら、登山用のストックを持って歩いたのだそうです。脚力が落ちていて膝や太ももがつらかったので、それを補助するためにストックを持った手に力を入れていたようです。
このように40代ともなると、足や脚、手など、全身の筋力が落ちている人は少なくありません。体に痛みが発症するのは、こうした筋力の低下に加え、間違った体の使い方をして、偏った部分にだけ負担がかかっていることがとても多いですね。
手の痛みも同様で、日々の生活の中で『使いすぎていること』『間違った使い方をしていること』が大きな原因です。
痛みが発症すると、手で行う細かいことができなくなります。それが長引くと、今までできていたこと、例えば、得意だった料理、趣味の手芸や楽器演奏などが以前のようにできなくなることがあります。
こうして、自信がなくなり、楽しみや刺激が減ることを引き金に、人と会うことを敬遠するようになります。やがて引きこもりから認知症、寝たきりへとつながることがあるのです。
気をつけたいのは、手の痛みを発症させないことです。それには握力を高めることよりも、手への負担をできる限り低減させることが重要です」(市野さおりさん)
軽い力でできる方法で、手への負担を軽減する
「普段何気なく行っている動作のなかに、意外と手に負担がかかっていることがあります。小さなことですが、日々の積み重ねで手の痛みにつながることがあるので注意が必要です」
それでは日常でよく使う「手の動き」をチェックしていきましょう。
1. ペットボトルのふた開けは本体のほうを回す
通常、ふたは右に回す(時計回り)と締まり、左に回す(反時計回り)と開きます。そのため、ペットボトルのふたを開けるとき、ふたをギュッと握って手の力で左に回していませんか?
「これだと、ふたを持った手にとても負担がかかります。軽い力で開けるためには、ペットボトルの本体のほうを回すのがポイントです。
片方の手でキャップを握り、もう片方の手でボトルの本体部分を持ち、本体のほうを右に回転させ、同時にキャップを左に軽く回します。ペットボトルが重い場合は、本体をテーブルに置いて同様に行います。
本体を回したほうが、断然、軽い力で開けることができます」
2. 荷物は親指と人差し指をL字にして体に近づけて持つ
「古武術の体の使い方による、重い荷物を軽く持つ方法を紹介します。
手提げかばんやレジ袋などを持つときは、小指を軸にして、薬指と中指の3指で持ちます。体の外側に位置する小指を体に引き寄せて使うことで、重心が中心に集まるので、荷物が軽く感じるのです。
人差し指を使って疲れさせると、肩への負担が増えて、肩こりの原因に。また、荷物を持つ際に人差し指と親指をL字にすることで、肩や前腕、上腕への負担が軽減します。
そして、荷物をできるだけ体に近づけて持ち、目線は下や荷物を見ずに、歩く先の前を向いて、膝と腰の力も使って持つことで、負荷を全身に分散させることができます。
バッグや袋の持ち手は広いほうが重さを感じにくいので、持ち手が幅広いものを選ぶこと、レジ袋の持ち手はできるだけ広げることが大切です。ハンカチなどをかませて手に食い込まない工夫をするのもいいでしょう。
腕にかける持ち方をする場合は、肘関節ではなく、前腕の中央あたりにかけたほうが負担は軽くなります。この場合はバッグを体の前に抱えるように、できるだけ体に密着させて持つのがポイントです」
3. 雑巾は縦絞りが正解!
雑巾や布巾を絞るときはどのようにしていますか? これも意外と手に負担をかける絞り方をしている人が多いといいます。
「軽い力でしっかり絞る方法は、右手を上、左手を下にして、その手のひらに雑巾を縦に置いて握ります。そこから右手を右回りに(時計回りに)、左手を左回り(反時計回り)に回して絞ります。
※左手が上、右手が下のほうがやりやすい場合はそれでもOK。回す方向は同じです。
雑巾を横にして絞ると、力が入らないだけでなく、手首を不自然に使うので、手首を痛める原因になります」
ほかに、スマホを片手で操作せずに両手を使う。重いフライパンを片手で振らずに両手を使ったり、コンロに置いたまま調理する。重い荷物はキャリーバッグを使うなど。手の痛みを回避するには、普段の生活の中で手への負担を減らす工夫をすることが大切です。
【教えていただいた方】
看護師、英国ITEC認定リフレクソロジスト・アロマセラピスト。自衛隊中央病院勤務後リフレクソロジーやアロマセラピーの資格を生かし、統合医療ナースとして活躍。その後、「コンフィアンサせき鍼灸院」でボディケアを行いながら、足や手を通したセルフケアを提案。著書に『不調と美容のからだ地図』(日経BP)、『若返る頭さすり:顔が引き上がる! 目が大きくなる!』(Gakken 美人力PLUSシリーズ)など多数。
イラスト/green K 取材・文/山村浩子