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本当に正しい「がん検診の受け方」

長寿社会になり2人に1人が生涯でがんにかかるといわれる時代。がんは自然災害と同じように、誰にでも突然やってくるものとして「がん防災」を呼びかける、がん治療医の押川勝太郎先生。がんによる死亡率を下げるための有効な手段である「がん検診」について、受診の重要性とありがちな誤解を解説していただきました。

5つのがん検診は「がんの死亡率を下げる」と証明されている

毎年、住んでいる自治体から届くがん検診の通知。

どれも一度も受けたことがない、という人はそう多くないかもしれませんが、もれなく毎回受けているという人ははたしてどのくらいいるでしょうか?

 

実は、今の日本全体のがん検診の受診率は5割以下です。

 

「国がすすめていて多くの自治体で設定されている5大がん検診胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんというのは第1回でお伝えしました。

これら5つのがん検診は、がんの死亡率を確実に下げるという科学的根拠のある検診なのですが、それがうまく伝わっていないと感じます」(押川勝太郎先生)

 

ちなみに「健診」と「検診」の違いを知っているでしょうか?

このふたつは読み方も同じで意味も近いように感じますが、実は似て非なるもの。

がん検診の意義を理解するにはここが肝心です。

 

健診健康状態を調べることが目的で、生活習慣病のリスクを確認し、病気の予防を目指すためのもの。

 

検査内容には血圧測定や血液検査、尿検査などが含まれますが、例えば血液検査で基準値から外れてもすぐに大きな病気だとはいえないけれど、それが進行すると後々病気になる可能性が高い、というように、『今は病気でないけれど、今後病気になるリスク』を調べているのです」

 

これに対して検診は、特定の病気にかかっていないかを調べ、早期の発見&治療につなげるのが目的。

 

「つまり今ある病気を見つけるのが検診です。

がん検診もこれにあたり、こうした検診は『対策型検診』と呼ばれます。

 

がんは発見が遅れて進行するほど治療が大変になり、後遺症も残りやすいものです。

仕事ができなくなったり治療費が多くかかったりといった『経済毒性』、検査や通院、治療などに多くの時間を取られる『時間毒性』も大きくなり、がん患者が増えている近年はそれらが大きな問題になっています。

 

裏を返せば、早く発見して早くに治療を始められれば、それらの毒性に人生をじゃまされることも少なく、治る可能性も高いということ。

 

『病気が見つかるのは怖い』という人もいるかもしれませんが、例えば乗っている船の前方に、ぶつかるかもしれない浮遊する氷山が近づいていたとして、怖いから前方を見ないようにしようという人はいないと思います。

 

それならば、たとえがんになったとしても早く見つけて治療を開始するほうがよほど現実的ではないでしょうか。

乳がん検診のイメージイラスト

5大検診はそれぞれのがんによって受診の年齢や期間が定められています。

これは定期的な検診が早期発見につながるからで、それをスキップした後に、進行がんが見つかる人がたまにおられます。定められた期間で検診を受けることはとても大事なのです」

 

記事が続きます

 

人間ドックを受けていてもがん検診が必要な理由

自治体のがん検診の一方で、病院で人間ドックを受けるという人もいるでしょう。

でも「人間ドックさえ受けていれば安心、というわけでもありません」と押川先生。

 

がん検診と人間ドックの違いは何でしょうか?

 

自治体の5大がん検診は、集団全体の死亡率を下げることを目指すもので、それぞれのがんになりやすい年齢範囲の人が対象です。

無料または低額で受けることができて経済的負担が少なく、体への負担も大きすぎず、がんの死亡率を下げる科学的根拠のある方法で実施されます。

 

一方の人間ドックは『任意型検診』と呼ばれ、個人の死亡リスク率を下げるのが目的です。

民間の医療機関などが実施するもので、健康保険組合から費用補助がある場合もありますが、原則として全額自己負担。

検査方法や内容は多岐にわたり、個人のニーズに応じて選択が可能というメリットはありますが、実は科学的根拠が明確でない検査もあるので注意が必要です」

 

その代表例が「腫瘍マーカー」です。

 

「腫瘍マーカーは体内のがんの存在を知る手段であり、がんの経過や治療の効果を調べることに用いられる検査です。

また、がん以外の疾患や、加齢や妊娠など体の状態によって、時にはがんではないのに数値が高く出る場合があります。

 

腫瘍マーカーの数値から実際にがんが見つかった、という人は実はとても少なく、早期発見には役立ちません(前立腺がんのPSAは例外ですが、日本の対策型検診ではまだ有用性が認められていません)。

でも、高い数値が出てしまうと不安になって過剰な検査をしたり、ひどい場合はがんノイローゼになってしまう人もいます」

 

ほかにも、腹部超音波(エコー)検査は痛みも被ばくもないけれど、胃や腸の中にある空気で超音波が遮られて、膵臓などの一部は見えないという一面が。

 

胃カメラや大腸カメラなどはがん病変を直接確認でき、かなり小さながんまで発見できて治療もできる有効な手段である一方で、痛みや苦痛が大きいというデメリットが。

 

体を輪切りにしたように細かく見られるCT検査は痛みがなく超音波ではわからない病変を見つけるのが得意。でも被ばく量が大きく、胆のうなど部位によっては超音波検査より精度が劣る場合もあります。

 

「それぞれの検査によって得意不得意やメリットデメリットがあり、費用に大きく差が出たり、体への負担が大きいものも。

そうした経済的・身体的負担は極端に大きすぎず、しかし全体として死亡率を下げる効果があると認められているのが、5大がん検診なのです。

 

人間ドックを受けるのはもちろん悪いことではないけれど、過度に期待しすぎないようにしましょう」

 

 

症状がある人は「検診で診てもらおう」はNG

意外と知られていないのが、がん検診は「無症状の人が対象である」ということ。

 

「よく『最近調子が悪いから検診で診てもらおう』なんて話を耳にしますが、それは大間違い。

検診は精密検査ではなく拾い上げ診断なので、臓器ターゲットがちょっとずれると見逃しやすいという性質があります。

 

一方、症状がある場合は、医師はそこから考えられる病気を予測してターゲットを絞り込んだ詳しい検査を行うために、病気を発見しやすいのです。

 

何かしら症状があるのに検診で『異常なし』と出て、安心しきって放置し、後からがんが見つかって手遅れ…というパターンは意外と多いんです。

 

そんなことにならないためにも、症状がある人は検診ではなくまず受診

それを肝に銘じてほしいと思います」

 

 

【教えていただいた方】

押川勝太郎
押川勝太郎さん
腫瘍内科医師
公式サイトを見る
Instagram

宮崎善仁会病院・腫瘍内科非常勤医師。抗がん剤治療と緩和医療が専門。NPO法人宮崎がん共同勉強会理事長。がん化学療法の専門家として、6年前からYouTubeチャンネル「がん防災チャンネル」を主宰し、がんに関する正しい情報を発信し続けている。著書に『新訂版 孤独を克服するがん治療 患者と家族のための心の処方箋』(サンライズパブリッシング)などがある。

 

 

イラスト/macco 取材・文/遊佐信子

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