今回からは漫画家の内田春菊さんのがん体験記をご紹介します。ダイエットに成功したと思ったら、なんだか調子がおかしい。そのうちひどい便秘と痔の症状が現れたので痔の専門医で検査を受けたら、がんが発覚しました。
がんサバイバーの体験記 CASE 3
内田春菊さん
(漫画家)
大腸がん
「がんになったからって、おしゃれができないわけじゃない。唯一変わったのは、お酒を以前のように飲まなくなったことかな。やめたんじゃなくて、自然と飲まなくなった感じです。仕事も好きなことも、病気をしてから無理にやめたもの、変えたものはありません」
内田春菊さん
Shungicu Uchida
1959年生まれ。漫画家、小説家、女優などマルチに活躍。漫画『南くんの恋人』や小説『ファザーファッカー』など代表作多数。2018年には、大腸がんからストーマ造設にいたった経緯を『がんまんが~私たちは大病している~』(ぶんか社)にまとめた
ひどい便秘と痔の症状から
大腸内視鏡検査でがん発覚。
手術前の抗がん剤から治療が始まりました。
「4カ月で10㎏ものダイエットに成功。糖質制限ダイエットってこんなに効果があるんだ! と思っていたら、体重の減少が止まらなくて、41㎏にまでなってしまったんです。子どもたちからも、『読者モデルみたいな脚になっているよ』って心配されて。また、この頃は便秘もひどくて。でも、糖質制限ダイエットは便通が悪くなるとも聞いていたので、そんなもんかと思っていました」
と内田春菊さん。2015年の春、55歳のとき、スーツのウエストがきついのが気になり糖質制限ダイエットを開始。体重は減るものの、なんだか調子がおかしい。便秘に加えてトイレで出血することもありました。
「漫画家は座り仕事なんで、痔持ちも少なくありません。ある日トイレでガスが出たら、血が飛び散ったんですね。さらに、脚の付け根の性器のあたりに激痛が走ることがあって。さすがにまずいと思い、痔の専門医を受診しました。そこで大腸内視鏡検査をしたのですが、内視鏡を肛門に挿入してすぐ、医師が検査をやめて『一刻を争うので、大きな病院に行ってください』と。私の目を見ずにそう告げました。もう間違いなく、がんだな、と」
その後、知り合いの医師がいる病院で、大腸がんであることが判明。そのとき、がんの告知と合わせて春菊さんにとって衝撃的なことが。
「がんは肛門から2㎝ほどの位置にありました。手術はすぐにできるものの、そうなると“ストーマ(人工肛門)”はまぬがれないと告げられたんです」
ストーマとは、腹部に作られた排泄口のことで、そこに排泄物を受け止める袋を装着します。
「術後、排便のために作り、また手術で元に戻す、という説明でした。私の周囲にも大腸がんに罹患している人がいて、治療がうまくいった人も多く、思ったほど怖さは感じませんでした。ですが、ストーマは予想していなかったし、どんなものかもまったく知りませんでした」
さらに、ストーマを永久的につけないですむためにも切除するがんは小さいほうがいいということで、手術前に抗がん剤を受けることをすすめられました。
「抗がん剤は、手術でがんが取りきれなかったときだけやるものだと思っていたので、これにも驚きました。でも、担当医はがんのプロで、ストーマを知らない私よりも治療のことはよく知っている。これは信頼して任せるしかない―。最初からそう思えたので、がんになったことには落ち込むときもありましたが、治療に進む迷いはありませんでした」
15年の年末に、まずはがんを小さくするため、3泊4日の入院で1クール目の抗がん剤治療を開始。その後、年明けからは通院でトータル6クールの抗がん剤治療を行いました。
「抗がん剤の治療中は、指先の冷えが強く出たほかに、つわりに似た吐き気がありました。私の場合は投薬してすぐに症状が出ましたが、その後は軽くなり、思っていたほどひどいつらさはありませんでした。子どもたちのサポートもあり、家事や在宅でできる漫画の仕事はもちろん、地方でのイベントなどの仕事も普通に入れていました」
次回はがんサバイバー体験記③/内田春菊さんのその後をご紹介します。
撮影/塩谷哲平(t.cube) ヘア&メイク/田代ゆかり(Happs) 取材・原文/伊藤まなび