マイクなしで大劇場に声を響かせるオペラ歌手は、肺活量を増やし、舌や唇を動かす訓練をします。ソプラノ歌手の田村麻子さんが提案する「肺活」は、プロの歌唱とは縁遠い私たちにとっても、美や健康にいいことがいっぱいです。
田村麻子さん
Asako Tamura
国立音楽大学声楽科卒業、東京藝術大学大学院修士課程修了。マネス音楽院(ニューヨーク)首席卒業。国内外のコンクールにて上位入賞。日韓共催FIFAワールドカップの決勝戦前夜祭「3大テノール・コンサート」に共演。2015年には米大リーグ戦にて外国人歌手として初めてアメリカ国歌斉唱の栄誉を得る。メトロポリタン歌劇場管弦楽団、BBC交響楽団など、国内外で多くのオーケストラと共演、また世界各地の歌劇場で主演を務める。田村麻子さんのホームページはコチラ
※田村麻子さんの提案するさまざまな「肺活」は、OurAgeでも動画で公開中。OurAgeの連載はこちら
ベルカント唱法の訓練をコロナ禍で一般の人にも
ニューヨークを拠点に、世界の舞台で活躍するソプラノ歌手の田村麻子さん。故パヴァロッティ氏ら世界の三大テノールと共演したり、ロンドンで「蝶々夫人」を演じるなどの経歴をもつ実力派です。
NYタイムズ紙に“宝石の歌声”と絶賛された田村麻子さんですが、「美声は生まれつきではなく、訓練によるものです」と断言します。
「オペラ歌手はマイクなしに劇場の隅々まで声を響かせます。そのためにイタリアで編み出されたベルカント唱法は、のどに無理なく、低音から高音まで、伸びやかに歌える発声法です」
ベルカント唱法は、最大限に声を響かせるためのテクニックが盛り込まれた、いわばプロ向けの歌唱法。田村麻子さんも声楽科の学生に歌唱法の個人レッスンを行なってきましたが、転機となったのは、コロナ禍でのロックダウンでした。
NY市では医療機関や公共交通機関以外はすべてクローズされ、外出制限が続きました。すると、「声がかすれるようになった」「声が老けた」と悩む人が急増したのです。使わなければ、たちまち声も錆びるもの。
そこで田村麻子さんは
「私の訓練法が世の人たちの役に立つかもしれない」
と、オンラインで誰でも参加できるクラスを開始。老若男女を問わず、多くの人がこのクラスに参加したのです。
毎週のレッスンを重ねると、「声がかすれなくなった」「声が大きくなった」「深い呼吸ができるようになった」などの効果以外にも、「家族に若返ったと言われる」「ウエストが締まった」といった声が続出。
脳梗塞で話す機能を失い、リハビリでも機能が回復しなかった女性が、レッスンを受けるうちに再び話せるようになったケースも。肺活は一般の人にも大きな効果があったのです。
ニューヨーク セントラルパークにて。
オペラ歌手は80歳でも姿勢がよくて元気!
なぜ、肺活がそれほど全身の美や健康に効果的なのか? それは呼吸と結びついているから。声は、肺から出す空気がのどを通るときに声帯を振動させることで発せられます。つまり、大きな声を出すには、肺の機能を高め、肺活量の多いことが必要になります。
「世界のオペラ歌手たちは、70歳でも80歳でも背すじがしゃんと伸びていて、声も朗々としているのが特徴です。さらに女性歌手は胸に筋肉がつき、胸郭が広がるので、バストアップを保っています」
大きな肺活量を得るためには、真っすぐに立つ姿勢も大事なポイント。また、肺活量を増やすことで、体中に巡る酸素を増やし、血流を促進し、免疫力を高める効果もあります。田村麻子さんの授業を受けたあとは、顔色が明るくなる生徒さんが多いのだとか。
オペラ歌手、プラシド・ドミンゴ氏も3月にコロナに罹患しましたが、無事に生還。これも日頃の肺活のたまものかもしれません。
舌やあごの筋肉を鍛えることで、咀嚼(そしゃく)する力の衰えや、顔のたるみを防ぐ筋トレにもなります。今回、田村麻子さんは、実際に「これは効く」と日々行なっているという“声のツボ”押しや、のどや舌の筋トレも伝授してくれました。
オペラ歌手直伝の肺活で、ぜひ深い呼吸、若々しい声と姿勢を手に入れて!
国内外で多くのコンサートを行う田村麻子さん。写真はハンガリー国立歌劇場でのオペラ公演「ランメルモールのルチア」でヒロインを演じた時のカーテンコール。また欧米では「蝶々夫人」「椿姫」のタイトルロールを演じて喝采を浴びました
撮影/野口正博 ヘア&メイク/三原珠美 取材・原文/黒部エリ